第476話 「人型」リーンアイムと「双璧」の邂逅
「どうしたんですか、お二人とも!? そんなに慌てて……」
と、その様子に声を上げたのはミリアだ。
「さっきブリックスが王城に来よったんじゃ――。それで、お前がギルドに来たと、そう言いおった。キールよ、お前、アイツに何か言われとらんか?」
と、『翡翠』がキールに問いかける。
キールはその問いかけに小首をかしげる。
キールが思い返してみても、とくに何か条件とか代償を投げかけられた覚えはない。
「――いえ、特には何も……。どうやら紹介してくれる冒険者のかたが今は留守にしているので、帰ったら連絡するからと、連絡先を聞かれはしましたけど……」
「それじゃ! やっぱりアイツ、キールを取り込もうとしておるぞ、リヒャエル!」
「ああ、まちがいねぇな。その紹介する冒険者がミソだな――」
と、二人がキールの返答をしたり顔で聞いている。
そのような二人の様子を見て、アステリッドが我慢できずに口を挟む。
「もう! いったい、どういうことなんですかぁ!! キールさんを取り込むって、何の話をしてるんです!?」
あまりにもすごい剣幕で叫んだアステリッドの圧力に目の前の「双璧」がやや気圧されるのを見て、キールは少し可笑しく感じる。
この二人を「気合で」圧すなどという芸当ができるのは、そうそうこの世界に存在しないと思うのだが、それが、自分の仲間で、しかも、うら若い女の子なのだから、おもしろいものだ。
「あ、ああ、そうじゃな。実は、ブリックスとわしらは昔なじみでな――」
と、『翡翠』が語り始める。
「俺らが出会ったのは、アイツがきっかけだったのさ。『俺とパーティを組まねぇか』ってな……」
と、『英雄王』も続く。
ここにいる皆の中で、恐らくこの『英雄王』パーティの昔を知っているものは、居ない。
いるとすればジョドなのだが、ジョドは今はミリアの腕輪で眠っているらしく、ここには居ない。べリングエルも同様だ。
「おい、キール。ところで、そこに居る男はいったい誰だ? 新しい仲間か?」
と、ここで初めて『英雄王』が、キールたち「5人」の中に見知らぬ男がいることに言及する。
「ぬ……、こやつ、魔術師か――? いや、それにしては何かおかしいぞ? ジョドと同じような気配を感じる――」
と、『翡翠』もそれに呼応した。
「ああ、この男は、リーンアイムですよ。お二人もすでにお会いになってますよね――」
と、キールがさも当然かのようにすらりと答える。が、そう言えば、『変身』のことはまだ報告していなかったと、すぐに思い直し、慌てて設定を付け加える。
「あ、あの、実は「ドラゴン族の秘儀」というのがありまして、こうやって人の姿に『変身』出来るらしいんですよ?」
訝しげな表情を一瞬見せたリーンアイムに目配せを飛ばし、すこし静かにしていてくれと念じる。リーンアイムも悟ったようで、黙って聞いている。
「『変身』じゃと? ジョドからそんな話は聞いたことが無かったが――」
と、『翡翠』はキールの言葉に違和感を感じたように応じた。
さすがに『翡翠』だ、キール一人で丸め込めるほどに甘くはない。
「そ、それは――」
「それは、そうだろう。ジョドはその秘儀を知らなかったのだからな。『変身』は我が長年かけて編み出した秘術だ。ただ、あの体で過ごすには街ではいろいろと面倒だろうから、二人にも仕方が無く教えてやった。そのうち、あいつらの姿も見ることになるだろう」
と、キールに被せて、リーンアイムが答えた。
リーンアイムは誇らしげにキールに向かって視線を飛ばす。
くそ、リーンアイムの勝ち誇った顔がやや腹立たしい。が、この場はリーンアイムの好プレーが効いたようで、「そうなのじゃな」と、『翡翠』も納得してくれたようだ。
何と言うか、「隠し事」をすると嘘を重ねてしまう感覚に少し辟易する。やはり、早い段階で話せることは話しておいた方がいいことに間違いはない。
それは分かっているのだが、さすがに『神候補』の話を信じてもらうには、皆を白髭じじいのもとに連れて行かなくてはならないため、なかなかそう簡単には行かないのだ。
やはり、言わなくてもいいことまで言うのは、いろいろと問題も多い。ここは話を進めた方が無難だ――。
「ですから! そんな話よりも、キールさんの、いえ、そのブリックスさんの話をですねぇ!」
「そうだよ! リディ姐の言う通りだよ! そっちの話が先だろ?」
と、今度はアステリッドとハルが強力プレイで押し込む。
「う、あ、ああ、そうだな――、話を戻そう。俺たちとアイツは『黄金の天頂』のパーティメンバーだったんだ……」
そこから、『英雄王』は『黄金の天頂』の馴れ初めに付いて話し始めた――。




