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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第471話 『試練』発生フラグが立ちました

「ユニセノウ大瀑布だいばくふ――って、それって、北の大陸の遥か西に浮かぶあの島のことかな?」


と、キールはボウンに訊ねた。


「そうじゃ、遠目にも見える大滝が目印になっとる。あれが、ユニセノウ大瀑布じゃ」


と、ボウンが答える。


 キールは一度だけその島を目撃している。が、上陸はしていない。

 

 世界一周を成し遂げた航海の途中、その島の近海まで接近し、遥か高い岩山から流れ落ちる大滝を目にした。

 その流れ落ちる落差と水量は、遠目で見ても、それとわかるほどに圧巻だったのを記憶している。


 そもそもは世界一周を成し遂げるついでに見学して来いと『翡翠』から聞かされていたために航海の第一目的地に設定した島でもある。


「でも、あの島は――」

「そうじゃな。近づくことが非常に難しい……。じゃが、どうしてもそこへ行ってもらわねばならんのじゃ。岸へと向かうルートはこれじゃ――」


 そう言って、ボウンはまた何もないちゅうから、一巻ひとまきのスクロールを取り出した。


「これは――」

「海図じゃ。とても精密にできておる。この海図には、潮の流れ、海底までの深さ、暗礁の位置まで正確に記されておる。そして、岸へと近づくルートはこれだけじゃ」


 ボウンはそう言って巻物に引かれた一筋の赤い線を指し示す。


「これは――。こんなの、無茶だよ!?」


 キールはそのルートを一通り指でなぞってみて、その難易度の高さに呆れた。


 潮目を見切って船を操りながら、態勢を保ちつつ、岩場の間を縫うように細い「水路」を進むことになる。


 「水路」と言っても川のようなものではなく、海の中の「水路」、つまり、暗礁地帯の真っ只中、ある程度の深さがある場所のことだ。

 それが、沖から岸までつながっているのだろう。

 少しでもずれれば、暗礁に船底をぶつけ、下手をすると座礁、いや、沈没すらありうる。


「ああ、そうじゃ。無茶な挑戦になる。じゃが、もしそこに辿り着けねば、人類にとって大きな損害が出ることになるじゃろう――」


「ボウンさん、一体そこに何があるんですか?」


「『スポット』じゃよ。それも、超特大のな――。いや、まだ今はそこまでではないのじゃが、あの場所で放っておくと、どんどん育ってしまうでな。災いの目は早めに()っておかないと、じゃ」


 ボウンさんはそう言った。

 しかもこの『スポット』が出現したのは、それ程前のことではないらしい。

 キールたちがデリアルスの『スポット』対応にあたっている頃の話で、ボウンさんも呼び出そうか思案したが、監視している限り、まだ時間的に余裕はあると見て、タイミングをうかがっていたところ、ちょうどキールたちがやってきたというわけだそうだ。


 たしかに、人々が行きかう場所ではないところに『スポット』が生成されてしまえば、気が付かないうちに大きく育ち、デリアルスのような悲劇がまた起きてもおかしくはない。


 そういう意味では、ユニセノウ大瀑布だいばくふは最悪の場所と言える。

 あんなところ、何かの必要が無ければ、まず、上陸はしないだろう。

 とにかく、ボウンさんの示した「接舷ルート」から見ても、おそらくのところ、ほとんどの船が到達できずに座礁するか、船体に傷をつけるか、あるいは、沈んでしまう恐れがあるような場所だ。

 そんな場所に近づくには、余程の理由がない限りありえない。


 現に、『翡翠ジルメーヌ』さんも、副長のミューゼルも、決して近づくなと、キールに言明げんめいしていた。



「すまぬが、キールよ。これは、お前の『仕事』じゃ。とうとうこの段階までやってきたというわけじゃな――」

と、ボウンさんが意味深な発言をする。


「『仕事』? 『段階』?」

と、キールが問い返す。


「そうじゃ、「神候補」の『仕事』――。まあ、『試練』ともいうかの――。この『試練』というのは、いつも違った形で現れるものじゃが、今回はどうやら『魔族との戦い』がメインテーマとなるようじゃ」


 ボウンがかなり重要な話をさらりとしている。


 つまり、『魔族』と対峙し、これをどうにかすることが、キールの、神候補の『役目』だと、そう言っていることになる。


「――ちょ、ちょっとまってください。それじゃあ、キールがその『魔族』と戦って、駆逐しろとそういってるんですか、ボウンさんは?」

と、ミリアが話を聞いていて一番に口を挟んだ。


 彼女が重要な話の途中で口を挟むなど、そうそうあるものではないことを、キールは知っている。つまりは、それ程、我慢がならなかったということだろう。


「そんな――。キールがどうしてそんな危険な『役目』を負わないといけないんですか? キールから聞いているところによると、その『神候補』にしたって、自分が望んでなったわけじゃないのでしょう!?」


 ミリアが珍しく、激高する様を見て、アステリッドやハルが少し気圧けおされて口を押さえている。


 その言葉に、ボウンさんは彼女の方に体の向きを変え、正対するとこう言った。


「そうじゃな、お嬢さんの言う通りじゃ。キールは望んで「神候補」になったわけではない。じゃが、現在「神候補」であることは間違いのない事実じゃ。「神候補」である以上、『試練』の襲来・対応は付いて回るもの。嫌なら、降りるしかないのじゃが、一度発生した『試練』は「神候補」を降りようともその襲来が止まることはない。そういう「設定」なのじゃ」


「そんな――」

ミリアは、力なく半立位はんりついの姿勢からもどり、ソファに座り込んだ。


「ミリア、大丈夫。僕、まだ()()()()()()()んだ――。だから、やるよ――」


 キールの言葉は静かであったが、その決意は強固なものであるとミリアも認めざるを得なかった。

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