第464話 さて、どうするか
結果から言う。
ニューデルの王城庭園に無遠慮に舞い降りた3人のドラゴン族とその背に跨る2人の魔法使いに驚いた王城の衛兵は、あわてて国王に報告、国王が憤るのをリーンアイムが一喝、今回の件、デリアルス領内で自身が潜んでいた「風穴」内に発生した「スポット」が災いの根源であり、すでにキール・ヴァイスが破壊したと告げた。
国王のミハイル・グレントリーは、
「なんと――。い、いや、ご、ご苦労であった。キール・ヴァイス、そなたの名は聞き及んでいる。此度はよくぞ災いの根を発見、駆逐してくれた、礼を言うぞ」
と、返すのが精一杯だった。
キールは周辺調査の結果、その「スポット」以外に魔素の反応はなかったと説明し、ミリアは国境周辺の魔族発生に付き、再度探索する旨、各国の協力を取り付けてきたことを告げた。
また、ミリアに対しても、
「ミリア・ハインツフェルト卿。そなたにもつらく当たってしまった。各国からの協力を取り付けてくれたこと、ありがたく思う」
と、かろうじて体裁を保つ発言で労った。
「さて、これからどうしようか?」
と、キールが零した。
取り敢えずいつまでも王城庭園にいるわけにもいかないため、一行は一旦王都から飛び立ち、王都周辺に広がる草原で会合をしている。
いずれにせよ、ミリアはメストリルへ戻らねばならない。今回の顛末を国家魔術院、および『英雄王』へと伝えなくてはならないからだ。
キールについては、『翡翠』からこの後の明確な指示は受けていない。大使館の方にもまだ、連絡は来ていなかった。隠れ港のどこかに戻れば、あるいは事後の行動について指示がすでに届いているかもしれないが、ここからだと、隠れ港へ行くのも、メストリルへ行くのもたいして変わらない距離だ。
「やっぱり、メストリルへいったん戻るか――。船は、デリアルスの隠れ港に入れてあるから、連絡は出来る。今後の行動によってどこで合流するか考えればいい。それより、『翡翠』さんに会って、直接話した方がいい気がする」
「――そうね。あと、リーンアイムさんの新しい『お家』についても相談しないと……」
それが一番の問題なのだ。
リーンアイムは血の通ったドラゴンであり、ジョドやべリングエルのように大きさを変えたり、装飾具の中に潜んだりなんてことは出来ない――。
「ん? まてよ――。もしかしてあそこなら、邪魔にならないかもしれないぞ?」
キールはこの時、ふと思い立ってしまった。そうだ、あそこなら、いつでも行けるし、いつでも連れてこれるのではないだろうか?
あとはあの人に用立ててもらって――。
となると問題は、キールにその技能が備わっているかということになる。
これまでに、人間数人までは可能だということが証明されているが、ドラゴン族ほどの「質量」は初めてだ。
それはさておき、とにかくメストリルだ――。
ということで、一行はメストリルへと向かうことにした。
――――――
「ねぇねぇ、リディ姐、きいた!?」
と、ハルが駆け寄ってきた。
アステリッドは自主訓練中だったが、手を止めて、ハルの方に体を向けた。
「どうしたんですか、ハルちゃん、そんなに慌てて――」
ハルがこうやって擦り寄ってくるのは今に始まったことではない。彼女と会ってしばらく後にはすでにこういう関係になっている。
ハルこと、イハルーラ・ラ・ローズは『翡翠』さまの直弟子だ。
幼いころから『翡翠』さまが預かって育てていると聞いている。つまりはエルルート族である。
当然、「年齢」はハルの方が随分と上なのだが、エルルートの成長はあらゆる面で人族よりは「ゆっくり」であり、体型や見た目年齢とだいたい同じような精神年齢を有していると見ていい。
そういう意味で言えば、ハルはアステリッドよりは少し「幼い」。当のハル自身も、この面倒見がよく物事をはっきりというアステリッドのことを気に入っており、姉のように慕っている。
ハルは幼き頃から『翡翠』と共に行動していたため、年代の近いものと交わることが少なかった。
今ようやくこの年齢になって、そういった存在と共に過ごしていることをとても嬉しく思っている。
実質年齢は比べるべくもないほど離れているが、そもそもそんなことを考えていたら、「友」など、いつまで経ってもできない。
「じつはさぁ~。メストリル商店街に新しいお店が出来たんだよ! 『ほっとどっぐ』っていうものらしいんだよね」
「ホットドッグ!? ハルちゃん! それ本当なの!?」
「う、うん、本当だよ。今日開店したって――」
「え!? ハルちゃん、もしかしてもう抜け駆けしたの!?」
「え!? いや、まだだよ! だからこうしてリディ姐を呼びに来たんじゃないか!」
周りで訓練をしている魔術師たちの反応は、ああ、またいつものことだなという風にしかとらえていない。
二人のこういう会話は、これまでにも何度も聞かされているからだ。
傍から見れば、本物の姉妹のように仲が良く和やかな光景だ。
二人がこの国で、いやおそらく世界中で見ても類い稀なる実力を持つ魔術師であることを除けば、であるが――。
「よし! じゃあ、いきましょうか!」
「うん、行こう!」
そう言うと二人は訓練場を駆け出して行った。
その後ろ姿はまさしく仲の良い姉妹のそれだった。




