第462話 要求と代償
「なるほど――確かに面白い姫だな。我らほど魔法に精通するものはおらぬ。その我らドラゴン族を前にして、魔法があるから科学の暴走は起こらないと青臭いことを言う――」
リーンアイムがミリアの言葉に応じている。
「――だが、その青臭さこそ、素直な心というものだ。いいだろう、ジョド。我もこの姫の『覚悟』を見届けてやるとしよう。ところで、キールよ――」
と、今度はキールの方に首を寄せる。
「お前の要求を聞こうか? 代償に比して得るものが大きかったと思いかけておる。つまりは、「延命」のほかに「何か」をわれに要求しようという腹づもりだということだ。だろう?」
その通りだ。
キールの中ではある程度このような展開を予測していた。
そもそもここにジョドとべリングエルを連れてきてリーンアイムに会わせたのは、事情を知っている二人が援護してくれると期待してのことだ。
ただ、結局ジョドとべリングエルの援護というより、ミリア・ハインツフェルトの存在の方が、このリーンアイムには『興味を与えた』らしい。
「リーンアイム、実は頼みたいことがある――」
キールは、今回の騒動について顛末を話した。
供物をここに捧げていたのはカナン村の村人たちで間違いない。それは、村の日誌を発見したことからも明らかだ。ただ、この風穴の存在をこの国デリアルス王国政府は認知していなかった。これは村人たちが敢えてその存在を秘匿していたからだ。
結果として、王国兵の巡回から洩れていたこの風穴に「スポット」が現れたが、誰も気づくことが出来なかった。
そして、カナン村の惨劇が起きたのだ。
だが、結局のところ、この場所を政府が感知する前に「スポット」は消滅してしまい、魔族も殲滅されてしまった。
つまり、ここに「スポット」が存在していたことを知る者は、キールとリーンアイムを除いて誰も存在しないのである。
「――たとえ僕がそれを説明したとしても、方便だと突っぱねられてしまうばかりか、メストリル王国寄りの僕の立場から邪推され、本当はメストリルにあったが知られる前に消滅させたのだろうと、言われかねない」
そして、それはミリアもまた同じ立場だ。彼女はメストリル王国国家魔術院副院長なのだから。
「証拠がない以上、信憑性のある証言が必要になる。リーンアイム、僕たちと一緒にデリアルス王国政府に来て説明してくれないか? ドラゴン族の存在はミリアのおかげで随分と知られるようになった。もう、外に出ても、人々はたいして騒ぎ立てはしない。でも、その存在の希少さは変わらず僕たちレントの心を動かすには充分な効果がある。君が証言してくれれば、さすがにデリアルスも振りかざした矛を収めるしかない」
実際のところ、どこに存在していたのか証明しようがなくなった以上、デリアルスも隣国に掛けた嫌疑を拭い去ることは出来ないまでも取り下げざるを得なくなるだろう。
ただその場合、変わらず探索をある程度の期間続けなくてはならないし、最終的に発見できなかったという結果によってもたらされるのは、各国間の「不信感」だけである。
まあ、この自由経済主義の世の中において、即刻戦争という結論には至らないだろうが、「不信感」が残るよりは、ある一定の「落としどころ」を見いだす方がいいはずだ。
「なるほど、それがお前の要求か。いいだろう。いずれにせよ、我も見守ると決めた以上、ここにじっとしているつもりはない。食事もとらねばならんしな。我はジョドやべリングエルと違って「生身」だからな。腹は空く――」
ちょっとまて。
と、キールは冷や汗が流れた。
そう言えばジョドやべリングエルは「エレメント・ボディ」であるから、それほど「食事」をとる必要はないと、ミリアから聞いている。大気中に拡散しているエレメントを常時吸収していくことで存在を保てるらしい。
だが、このリーンアイムは違うのだ。
「――リーンアイム、ちょっと確認なんだけど……」
と、キールは恐る恐る尋ねる。
「君の食事って、何をどのぐらい食べるの?」
「おお、そうじゃった。わしとべリングエルはエレメント・ボディじゃからの。食事は楽しみ程度で充分じゃが――」
と、ジョドが合の手を入れる。
「――ん? 何をどのくらいだと? 我は基本的に好き嫌いはない。肉なら何でも食うし、草木や果実も食らう。腹が満たされるなら、味に意見はしない主義だ」
――肉なら何でも……。
やばいにおいがする――。
「リーンアイムさん? そのう、例えば僕たちのような人類も「肉」に分類されるんでしょうか?」
「何を言っている? そんなこと――」
キールは少し期待する。「あるわけないだろう」と、続くことを。
「当たり前ではないか。まあ、味はさほど良くはないがな。人類種は総じて骨っぽくて、上顎に刺さるのだ。それに、肉が少なくて脂が多いのも微妙なところだな」
ああ、やはりそうだったか。
キールの期待は見事に裏切られた。
もう一つ「要求」を増やさなければならなくなった。さて、「代償」は何を捧げれば聞いてくれるのだろうか。




