第458話 ジュリエ村の会合
「リーンアイム……、確かにそう言ったのじゃな?」
ジョドはキールの言葉に対して念を押すように言った。
ジョドがリーンアイムの話を聞いたのは、キールとリーンアイムが出会ってから4日後の話だ。
この日、ミリアを連れてメストリル北隣のヒストバーンという国からこの街、メストリル領ジュリエ村に戻ったジョドは、約束通りキールと合流し、この話を聞かされたのだ。
ジュリエ村の小さな旅籠に部屋を取り、4人はそこで「作戦会議」を始めている。
4人というのは、キール、ミリア、ジョド、そしてべリングエルのことだ。
「――風竜リーンアイムが生きていたとは、な」
と、べリングエルも少し驚いている。
テーブルに向かい合って座る二人のレント族と、そのテーブルの上に並んで立つ2頭のぬいぐるみ大の竜、いや、二人のドラゴン族。
先程、ようやく会議を開始したところだ。
開口一番、キールが、出現ポイントを発見し破壊したことを3人に告げた後、風竜リーンアイムと出会ったと言った。
「ああ、本当の話だ。それで、少し彼、彼女かもしれないけど、と『約束』を交わしたんだよね――」
と、そう言って左腕の腕輪を3人に見せる。
「――これは、リーンアイムの印章に間違いない。ジョド、キールが出会ったのはリーンアイムで間違いなさそうだ」
と、べリングエルがその腕輪を一目見て断言した。
腕輪に施されている文様の中に、どうやらリーンアイム自身を示す意匠が含まれていたのだろう。
「『約束』って?」
ミリアがやや心配そうにキールに尋ねる。
ミリアの経験上、キールが取り付けてくる『約束』は結構無茶なこともある気がするからそのような反応になる。
「二人と会わせると約束してきたんだ」
「二人、ってジョドとべリングエルのこと、よね?」
「ああ。二人の了解を取らずに申し訳ないと思っているけど、あのままだとその場で焼き殺されかねなかったから。――ごめん」
と、キールはテーブルの上の二人に頭を下げる。
「それは、いっこうに構わないのじゃが、もう少し詳しく状況を教えてくれんかの?」
と、ジョドがキールの話を促す。
実は――。
と、キールはカナン村で見つけた『日誌』から、「風穴」に至り、内部で魔族と戦闘中のリーンアイムを発見、魔族の出現を止めるために『スポット』を破壊したこと、そしてその後、リーンアイムと交わした会話など、一部始終を説明したのだった。
「――なるほどのう。それで小僧は、その場を逃れるために『約束』を交わしたというわけじゃな」
とジョドが納得する。
「いいじゃろう、では明日早速そこへ向かうとしよう。いずれにしても、その「風穴」に存在していた『スポット』が破壊されたことを、証言するものも必要になるじゃろう。リーンアイムには面倒じゃが、出て来て証言してもらわねばならんじゃろうからな」
ジョドが言っているのは、『スポット』についてデリアルス王国に報告する際のことだ。
キールかミリアがたとえそう報告したとしても、ミリアに対してとったデリアルスの高官たちの態度から見るに、素直に「そうだったのか」と納得してくれるとは思えない。
しかし、リーンアイムの証言があれば、さすがに信憑性は格段に上がり、デリアルスの者どもも一旦は納得せざるを得ないだろう。
その上で、ミリアの方から、周辺各国が協力してくれると約束してくれたことを伝えれば、話はそう大きくならずに済む可能性が高い。
――しかし、一つ問題がある。
「――キールよ。リーンアイムは『エレメント・ボディ』ではないとそう言ったな?」
「うん、彼、彼女? に問うてみたんだけど、明言はしてくれなかった。でも、確かに魔物の攻撃を受けて血を流していたんだ。だから、彼は『生身』で間違いないと思う」
「彼でよい、小僧。リーンアイムは雄寄りだ――。そうか、もし生身だというのなら、リーンアイムの提言は間違ってなかったかもしれんな……」
と、べリングエルが零した。
「いや、その話はリーンアイムと出会った時に話すことになるだろう。――それより問題は、実体を持つドラゴン族がデリアルス王国王都に乗り込むということの方だ。我らドラゴン族の大きさは、お前たちの比ではないからな」
そうだった――。
リーンアイムがデリアルスの大臣たちに証言するには、出会わなければならない。その為にはリーンアイムに面倒でも王都まで足を運んでもらうしかないのだが、体長約5メートルほどもあるドラゴンが街中に飛来したとなると大騒動になるのは必至だ。
それに、彼が収まり切れる場所も必要になる。
ん? そう言えば、あの「風穴」からそもそも出られるのだろうか?
いや、さすがに出られないということはないのだろう。入ったのだから――。
「――なんか、いま、いや~な予感がしたんだけど。そもそも彼はあそこから出られるのかな?」
「え? どういうこと?」
「なんじゃと?」
「ううむ――」
ミリア、ジョド、べリングエルが三人三様の反応を返す。
「あの風穴、僕が入った道は彼が通れるほどの広さではなかったから――」
キールは少々冷や汗が出る気がしたが、そのことについて今考えても答えは出ないと思い、考えることを止めることにした。




