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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第456話 交渉と「切り札」

 風竜リーンアイムと名乗ったそのドラゴン族は、じっとこちらを見ている。


 たぶんこれ、何か言葉を返さないと、一方的に敵対されるやつだ。


 さすがにドラゴン族相手に単独で戦うとなると、キールにも分が悪い。それに、ドラゴン族とは言葉が通じるのだ。言葉が通じる相手に「交渉」を一切せず敵対するというのは間違っている、とキールは思っている。


「あ、あのさ、君の計画を邪魔したことは申し訳ないと思う。だけど、あの魔族たちのせいでこの国の村が一つ蹂躙されたんだ。だから、そのままにしておくわけにはいかなかったんだよ」


と、取り敢えず抗弁してみる。


「――――――」


リーンアイム、無言。


「――たぶんその村の人たちはこの「風穴」のことを知っていたんだ。奥に君がいることまで知ってたかどうかはわからないけど、ね。だけど、ここがある意味特別な場所だということは解っていたみたいなんだ。それで、入口に目立たないように小さな祠を立てて、毎日供え物をしていたみたいなんだよね」


と、キールは構わずに話し続ける。


 相手が無言であっても、話を遮らない以上、聞いている可能性はある。

 リーンアイムは変わらず泰然としている。


「――この風穴から流れ出てくる風に、魔法の痕跡を消し去る効果が含まれているのを感じたんだけど、同時に、傷ついた草木に活力を与える効果も含まれているよね? あれって、君の仕業なんだろう?」


「――――――」


「僕ら、レント族は、ああ、エルルート族の人たちは僕たちのことそう呼ぶんだけど、この大陸を十数カ国の国家で分割して統治しているんだ。ここは現在、デリアルス王国の領地になっていて、近くのカナン村の住人が供物そなえものをしていた人たちなんだけど、どうやら、王国にはここのことを報告していなかったみたいなんだよね。たぶん、来るたびに草木が蘇っているのを知って、そっとしておいた方がいいとそう思ったんじゃないかな」


「――――それで、お前は何が言いたいのだ?」



――来た。


 やはり聞いていたのだ。

 とにかく、話を聞いていたことは事実であり、こちらに何かしらの興味を持ったことは確実だ。

 質問が来れば、当然返す。対話の基本だ。


「――僕たちは『互いに言葉が通じる』ということを言いたいんだ。言葉が通じるのなら、話し合いができる。話し合いが出来れば、自分の願望や相手に対する期待をつたえることが出来る。そうすれば、交渉が可能になる」


「交渉だと?」


「ああ、交渉だ。見たところ、君は僕に『出現ポイント(スポット)』を破壊されて怒っている。それは、魔物を駆逐して得られるはずだったエネルギーが得られなくなったからだろう? つまり、今後の糧をどうするかという問題に直面しているわけだ」


「――そうだ。お前が我に断りもなく、『門』を破壊したため、我はここから出なければならなくなったのだからな。これまで、この穴から外へ向けて、魔法効果を含んだ風を送り続け、ひっそりとここで眠りについていたというのに、あやつらがいきなり現れたせいで目覚めてしまった。それまでは誰かしらが供物をしてくれていたおかげで眠るには充分だったのだが、それも途絶え、あやつらはぎゃあぎゃあとうるさくしよる。それで仕方がなくここまで上がって来たところで、あの『門』を発見した。

――これでまた眠れるとそう思ったところにお前がその計画を潰してしまったのだ」


 キールは、心の中で、ぐっとこぶしを握り締めていた。

 大丈夫、しっかり会話になっている。


 ここですぐに「交渉内容」を提示してもよいのだが、もう少し相手に対して興味を持っていることを印象付けた方がいいかもしれないと思ったキールは、目先を変えた質問を投げてみることにした。


「――一つ質問してもいいかな? 君はドラゴン族なのに実体があるようだね? さっき魔物の攻撃を受けて傷ついていただろう? 君は『エレメント・ボディ』じゃないのかい?」


「――小僧、『エレメント・ボディ』の話をどこで聞いた?」



 これもキールの予測通りの「返し」だった。

 キール自身、まだ、ジョドやべリングエルのことを、今目の前にいるリーンアイムに話していない。

 彼女たち二人は『エレメント・ボディ』という特殊な存在で、必要がある場合に実体化することが出来るのだが、それはある意味、エレメントを固体化させてかたどるというものにすぎず、生命体ではない為、斬りつけられても血液が流れだすことはない、と、ミリアから聞かされていた。


 なのに、このリーンアイムは傷口から血潮が流れていたのだ。

 それは、彼(もしくは彼女)が今もなお、生命体として生きていることに他ならない。


「言うのが遅くなったけど、僕は君以外に二人、ドラゴン族を知っているんだよ。そして彼女たちは僕の仲間の一人と常に行動を共にしているんだ」

「我以外にドラゴン族がすでに目覚めているというのか――。二人の名は何という?」


「ジョドとべリングエルだよ」

「ジョド――、炎竜ジョド、か。それと氷竜べリングエル――。そうか二人とも生き延びたのだな」


 キールはここで、「切り札」を繰り出す決断をする。今使わなければここまで会話を引っ張った意味がない。


「君がその気なら、近いうちに会わせてあげられるけど、どうする?」


 キールは満を持して、切り札を切った。

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