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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第453話 「風穴」の中

 キールは風穴の前にようやく到達した。


 小さなほこらが入口に建てられている。大きさはほんの50センチほどの高さしかない小さな石積みのやしろだ。


 そなものは何もない。が、供え物を置いていただろう白いプレートが祠の前に置かれている。


(ここ、王国の兵士たちに気付かれなかったのだろうか――。まあ、たしかに、地図が無ければ辿り着くのは難しかったかもしれない――)


 なにせ、ここまでのルートは完全に「消えてしまっている」。キールが歩くときに踏みしめた草木はまた息を吹き返し、全く痕跡が残っていないのだ。


 キールは帰り道がわかるように、地面の石をいくつか拾い上げ、方角がわかるように並べておく。こうしておかないと、わからない程に全く痕跡が残っていないのだ。


 先程から何度か、風穴の中から風が吹き出してきている。

 その風には相変わらず濃厚な魔素が含まれているのが窺える。


(――でも、この魔素、なんだろう。魔物のものも含まれているけど、それじゃないものがとても濃いんだよな。この「風穴」の奥に何があるのか、見てみるしかないだろうな) 


 魔物のものが含まれているということは、少なからず魔物が潜んでいるということになる。キールは腰の『星屑シュテルネン・シュタオフ』を抜き、いつでも魔法を放てる準備をすると、


優しい光(レイ・ライト)――」


と、静かに呟く。


 風穴の中がぱぁっと明るい光に照らし出される。


 いつぞやのバレリア遺跡で使用した『昼の光(デイ・ライト)』の下位互換魔術式――。本当はこっちを先に習得するはずだった魔術式だ。

 『総覧』が読めるようになった後にすぐに習得でき、使えるようになった魔術式の一つでもある。


 キールを中心として、半径約10~20メートルほどが光に包まれるという効果がある。


「よし。これで視界は確保できるな。魔物の気配は相変わらず奥から流れてきている感じだな――。さて、気を引きしめて行くか」


 そう心の準備をすると、キールは奥へと歩み始めた。



 「風穴」の中は結構広い。場所にもよるが、狭いところでも普通に立ったまま歩いて行ける広さだし、広いところだと地面から天井までかろうじて光が届くぐらいの高さがあるところもある。


 そして、変わらず、数秒ごとに魔素を含んだ「風」が奥からさぁっと吹いてくる。


 キールは注意を張り巡らしながら進み続けた。


――――!!


 耳に微かな「声」が響く。魔物だ。

 しかし、なんだろう。少し様子がおかしい。


(そこそこの数がいるようだけど、それほど大きなものたちじゃない、な)


 それよりも、その「声」の様子だ。


 結構慌てた雰囲気がある。まさか、仲間割れ、とか?


 なににせよ、これは近づくチャンスかもしれない。慌てているということは、何かに気を取られているということだ。こちらの存在に気付くのに時間が掛かるはずだし、うまく行けば気が付かれずに近づくことができるかもしれない。


(行こう――!)


 キールは駆け出した。


 幸い「風穴」の中は基本一本道だった。確かに細かい分岐が無いわけではないが、それは小さな裂け目程度であり、キールが進むべきものではないと一目でわかる。

 キールの目的は、この「風穴」の中に潜んでいるだろう魔物たちであって、風穴の構造がどうなっているかを調べることではないのだ。


 つまり、魔物すら通れないような「通路」は無視していい。


 たたたと軽快に走るキールは、徐々に「声」の様子を感じ取ってゆく。


 その声の様子は、初めの「慌て」から、「混乱」、「敵意」、「戦闘」、そして、最後には「指示」へと段階的にはっきりしてくる。


 そして、その「声」が魔物たちの中の一つから発せられているものであると認識した時、キールは、あわてて急ブレーキをかけて止まった。


(わ、わわっ! ここは、でっかい穴だ!)


 そこは、通路の先が大きく眼下へ窪んでいて、円球場のホールになっている場所だった。今キールがいるのは、その円球場のホールの横壁に空いている穴の出口あたりだ。


 そして、その「声」の理由が一目で判明することになる。


 そのホールの中は光が溢れていた。

 風穴の壁にびっしりと光源が張り付いている。


 その光源が何なのかはキールにはわからない。植物なのか、鉱石なのか、とにかく光を発するものが壁じゅうに付着しているのだ。


 そしてそこに居る者たちを見て、キールは絶句した。


 一塊は、魔物たちだ。

 「指揮」を執っているらしき「声」の主は、バレリアでも見たミノタウラス。「階層主」と同じタイプのものだ。そしてその周りに無数の小人たち。おそらくこいつらが村を襲った連中だろう。


――ゴブリン、か。


 子供ぐらいの大きさの緑色の肌を持つ小人型の魔物だ。


 ひとつひとつはそれほど脅威ではないのだが、なにせ、数が多いのが一番厄介なところだ。二足歩行で汎用性も高く、体が小さいのもあってすばしっこい。



(今はそれよりも、だ――)


 キールはその魔物たちが取り囲んでいる()()の方に驚いているのだ。



(まさか、ドラゴンに出会ってしまうとは、な――)


 

 魔物たちが取り囲んでいるもの。それは翼を湛え、首を伸ばし、口から時折火を噴く『存在』。

 尾を振り、足を踏み鳴らし周辺に群がる魔物たちを駆逐してゆくドラゴン族が『一人』その魔物たちと対峙しているのだった。

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