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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第452話 風穴の上と下で

 北へ少し進む。

 森の小道のようなものをここまで進んできたが、地図ではここから西へ入ってゆくとある。


(何も目印みたいなものは無いのか?)


と、キールはあたりを注意深くみる。すると、道の脇に岩が転がっているのが見えた。


 形状としてはただの岩だ。


 つまり、このあたりに何かがある、ということを知らないものからすれば、ただの自然の置物に過ぎない。


(これか――)


 こんなものじゃあ、知らないものが見ても何の目印にもならない――。ということは、村のものだけが知っていた特別な場所、ということになるのか。


 キールはその岩から道をはずれ、西へと森を分け入ってゆく。


(それにしても変だな――)


と、キールは訝しむ。


 村の日誌によれば、ほぼ毎日誰かがその場所を訪れていたことが窺える。であれば、このあたりの草木は踏みしめられ、少なからず小道が出来てもおかしくないはずなのだ。

 なのに、道どころか、踏みつけられた跡すら見えない。


 先程から魔法痕跡感知は全開にしている。もし何か魔法や魔素による効果や影響によるものなら痕跡があってもおかしくないはずなのだが、まだ、何も感知できないままでいる。


(とにかく進むしかない――)


 キールは意を決して西へ、つまり山の側へと歩みを進めてゆく。


 不意に前方から、ひゅおおと風が唸る音が聞こえた。

 と、同時に、魔法痕跡感知にギンと強い反応が現われる――。


(うっ、く――。この反応は、かなりきついぞ? なんだ急に――)


 が、それは一瞬のことで、反応はすぅと宙へと溶けてゆく。


 風――か?

 風に魔素が含まれていて、通り過ぎた後には痕跡がなくなる? そんなことが起こるのか?


 キールは初めてのことを経験している。

 風にだけ痕跡が含まれていて、吹き抜けたあとにはきれいさっぱり痕跡が残らないなんて、聞いたことが無い。だが、今キールが経験したことを説明するにはそれ以外に考えられないのだ。


 すると、再び風の音、そして、今度ははっきりとキールの頬を一陣の風がかすめてゆくのを感じた。そして、さっきと同じ、ギン、という頭痛のようなきつい反応――。間違いない、やはり、「風」にだけ魔素が含まれている。


(それも、かなり濃い魔素だ――。一体何があるというんだ――)


 キールは、辺りを見回して注意深く観察をする。すると、一つ不思議なことに気が付く。


(――!? あれ? 僕が歩いてきた跡が消えてる――)


 キールが今しがたまで進んできたはずの「道」、つまり、草木が踏みしめられているはずの場所が無い。

 草木が、しっかりと元通りに立ちあがっている、復活しているのだ。


 これはいよいよ、その「風穴」に何かあるとみて間違いないだろう。

 

 とにかく、「風穴」だ。そこへ行けば何かがわかる。そんな気がする。


 キールは再び歩き始めた。



――――――



 「それ」は翼を伸ばし、四肢を伸ばし、今や飛び立つ準備を終えたところだった。


 先日から「上」のほうがやたらと騒がしい。まずはそいつらを喰らうことにしよう。そうすればいくらか行動できる力は沸くだろう。

 何者かはおおよそ見当がついている。ここは自分の縄張り、我の住処だ。そんなところにずかずかと土足で踏み込んでおいて、なにもいましめが無いなどということは許されない。

 しっかりとわからせなければならないのだ、我の眠りを妨げた罪と言うものを。


 それに、ここ数日、「供物くもつ」も届いていないのが気にかかる。


 これまでほぼ毎日、野菜や果物などが供えられていたのだが、ここ数日それが途絶えている。

 もちろん、そんなものを食したとしても腹の足しになるわけではない。だが、何者かがこの深淵に住まう我のことを想って捧げてくれていたものだ。そういうものには、「想い」が込められている。


 「想い」は温かく、心に染み入るものだ。


 それなのに――。


 弱肉強食は自然の摂理であり、これまでもそれは嫌というほど見てきた。いや、実践してきた。

 弱いものが闘争に敗北し、食されるのは仕方が無いことだ。それが理不尽というのなら、自身を鍛え、技術や魔術を駆使して「強く」なるしか方法はない。

 つまるところ、弱いから負ける、弱いから悪いのだ。


 だが、それだけで片付けてしまうのは忍びないこともある。弱きものであっても強い「想い」を持つものもいる。そう、これまで数十年以上も我に供物をささげてきた者のように。


 供物が届かなくなった理由はすでに察している。間違いなく「上」に侵入してきたものたちの仕業だ。

 

 あれらがなしたことは確かに「摂理」だ。

 ならば、自身が受ける報いもまた「摂理」であるのだ。



(因果応報――とはよく言ったものだ)



 そう、すべてこの世界は『因果』によって成り立っている。


 それが延々と悠久の時を流れてこの世界がかたどられているのだ。


 ――ならば、我が今目覚めたのも何かしらの「結()()実」であり、そしてそれはまた何かの「原()・起()」となるのだろう。


(――ふん、我が目覚めたことが何を引き起こすのか、すこし眺めるのも悪くはないだろう。地表にも新しい命が溢れていることは察していたが、どうやら、何かが始まっているのかもしれぬな)


 羽は伸びた。

 四肢のしびれも回復した。


 では、行こうか――。


 「この世界」はあれからどうなったのか、見に行こう。


 まずは、「上」の騒がしいものどもに「報い」を与えるところからだ。 

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