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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第450話 ハイネル・リトアレー第一皇子

「ミリア殿、本当にすまない。父上はたいそうけいをお気に入りのご様子です。なんとなく父上の考えていることに見当は付きますが、どうかお気を悪くなさらないでください」


 物腰の柔らかい本当に礼儀正しい紳士である。


 クリストファーまでとはいかないまでも、その充分に端正な顔立ちと、貴族特有の高貴な落ち着きが彼の美しさに輪をかけているように見える。


「――え? あ、わたくしなど――、とてもとても。むしろ、皇子殿下にとっては、煩わしいお話でしょう。殿下ほどのお方ならとうに候補の一人や二人はおいでになるでしょうに」


 と、ミリアがそつなく応じる。


 実は前回こちらの王城へ訪れた際に、父王がミリアに「一目惚れ」してしまい、ぜひ、当王家の妃候補にどうかといきなり宣言された経緯があった。


「ははは、お恥ずかしい限りですが、そういったものはおりません。もう来年には30にもなろうというのに、情けないものです」


 ハイネル皇子はそう言って静かに笑う。


「――ですが、貴国の貴族家の中にもよき御令嬢もおいでのことでしょう?」

「貴族家――ですか。やはりそうなるのでしょうね」


「と、言いますと?」

「いや、失礼。やはり、王族ともなれば相手は貴族令嬢という決まりなのかと思いましてね。私はこの自由経済主義の世において、そのような考え方はもう古いのではないかと、そう思うのです――あ、ささ、こちらです。どうです? なかなかのものでしょう?」


 そう言って指し示した保管ケースの中に、一本のネックレスが収められていた。


「これは――! 素晴らしいですね。なんという輝きでしょう。これほど光を放つ宝石は見たことがありませんわ――」


 そのネックレスのチェーン部分から銀色に光り輝く小さな石が配列されており、中央部分に近づくにつれてチェーンの幅が広くなってゆく。そしてネックレスの中央にはひときわ大きなその銀色の石が存在感を際立たせていた。


「ダイヤモンド、という石らしいですよ。父が港町にいる行商で見つけて手に入れたそうです。あ――、父はああ見えて、結構野放図なところがありまして、ちょくちょくお忍びで街々へと出かけて行かれるのです、変装してね?」


「変装?」


「ええ、あの顔に特大の顎髭あごひげをつけていくのですよ。服装まで町人風に変えて――」


「《《あごひげ》》、ですか――」

「ええ、《《あごひげ》》です――」


「「ぷっ――」」


と二人は同時に吹き出すと、おもわず笑い声をあげてしまった。


「はははは、おかしいでしょう? しかしよくもまあ、毎回ばれずに帰ってくるものですよ。おそらくあの隠密能力は、魔術師に匹敵するのではないかと思っています」


「ふふふふ、魔術師に匹敵ですか? それは是非一度お見掛けしてみたいものですわ?」


「まあ、さすがに本物の魔術師にはかなわないでしょうが――」

「いえ、殿下、ありがとうございます。おかげで、緊張もほぐれてきました。楽しいお話をありがとうございます」


「――え、ああ、こんなお話でよければいつでも――という訳にはいきませんね。ミリア殿にはお噂の彼がおいでなのですから――。ですが、彼は平民なのでしょう?」


 ハイネル皇子は知っているのだ、キール・ヴァイスと彼女の関係について。

 別に調べたわけではない。前回訪問時に、皇子本人にその旨はすでに伝えてあるのだ。


「――ええ、まあ。ですが、私たちの関係にそういったものは既に障害になりません。仮に、婚姻が出来なかったとしても、添い遂げる意思はすでに固まっています。それに、父がそれを許さないというのは道理に反していますから」


と、ミリアは応じた。その目には何があっても揺るぎない強い意志が溢れている。


「――そう、ですね。御父上は元は平民出身であったとか。それが今や、メストリル王国を束ねる政務大臣であられる。素晴らしく有能なお父君なのですね。私など、到底及びもつかないほどの修羅場をかいくぐっておいでなのでしょう」

と、ハイネル皇子はミリアの父、ウェルダートのことを敬う発言を返す。


 そしてすぐ、


「――ああ、宝石など、父のただの趣味です。無理に見せびらかしてどうというものでもありません。あなたはすでにその青いネックレスと赤いブレスレットをお持ちです。その二つの宝石からは、ダイヤモンド以上の存在感を感じます。さぞかし、素晴らしいものなのでしょう」


と、ミリアの身に付けている二つの装飾品を褒める。こういう気づかいが、やはり、大人の男を感じさせる部分だろう。


(キールなんか、私が何を装飾し(つけ)てようが、気にしないどころか気付きもしないだろうに――)


「ええ、この二つは私の守護者のようなものですから――。どれほど高価な宝石を渡されても、付け替えることは出来ません」


「いえ、とてもよくお似合いです。あなたの美しさをより引き立てている。装飾品としても素晴らしいと私は思います――、あ、おしゃべりが過ぎましたね、そろそろ行きましょう。父が首を長くして待っています。なんと言っても、父はあなたを本当にお気に入りのようですから。もちろん、私もですよ。今日は一緒にお食事ができると先ほどからそわそわしております」


「殿下――、そのようなお気遣いは不要です。本日はお食事までご一緒させていただけるなんて光栄の極みです。このミリア、心より感謝申し上げます」


 その後、食事の席で、リトアーレ王国は国境付近に国家魔術院と王国兵を遣わし、周辺の探索を行うと明言、即日行動を開始すると約束してくれた。


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