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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第447話 デリアルス国王との謁見

 クルシュ暦372年2月中旬に入る頃――。

 デリアルス王国王都ニューデル、国王謁見の間――。


 先程から、この部屋では一人の女魔術師が「集中砲火」を浴びていた。


「ミリア・ハインツフェルト卿、これは一体どういうことですかな!?」

「メストリルは我が国と戦争をなさるお考えなのですか!」

「しっかりと、国境付近まで探索行動を行っているのでしょうな!?」

「まったく、最近すこし電力技術等で一歩前に出たと思い、油断なさっていたのではないですか!?」


 などと、非難の的になっている。


 一方、国王は泰然として玉座に座ったままじっと様子を窺っている。


「少しはお話を聞いていただけませんか!? もちろん今回の事件の惨状は私も現地で見てきました。その有様は酷いもので、目を覆うばかりです。本当に悲しい出来事であると心から思っております。ですので、早急に――」


 と、ミリアが反論しようとするも、


「なにを、口先ばかりの口上なら結構ですぞ? 我が国の領土内に湧きポイント(スポット)は見当たらなかったのです。ということは、隣国のどこからかやってきたと考えるが、自然。その場合、その国に責任が生じるのは至極当然の道理でありますぞ?」


 と、大臣の何某かが、攻める手を緩めない。


「で、ですから! わたくしは早急に周辺各国の協力を仰ぎ――」



「ハインツフェルト卿――。今回の事件、我が国にとっては非常な大打撃である。国民たちを不安に陥れているのだからな。しかも、未だに原因が突き止められていない。国を想う心は皆同じなのだ。こちらはこちらで、調査を続行する。そちらも善処されることを切に願っている。ミリア殿、今日は遠路来ていただきご苦労であった」


 言葉は確かにソフトだが、その声色に静かな威圧感を孕みつつ、国王ミハイル・グレントリーが言い放った。


 この言葉に含まれる意味は明らかだ。


「――陛下、ご心痛お察し申し上げます。せめて犠牲になられた方々のご冥福をお祈りさせていただきたく存じます」


 そう言って、一礼し、謁見の間を辞することにした。



 ミリアはその後、この国にも存在するメストリル王国の大使館へと向かった。少しでも情報を収集する必要がある。大使館員に話を聞けば、少しは何かがわかるかもしれない。

 

(――まったく取り付く縞が無かったわ……。一体どうすれば――)


 そもそも、メストリルとデリアルスは友好度が高くない。

 一説には、デリアルスの国王ミハイル・グレントリーが大の冒険者嫌いだからと言われているが、その真実は明らかではない。


 ミリアは、大使館の門前で、衛士に声を掛け、迎えに出て来た女性職員に案内されて、客室へ到着した。今晩はここで一晩過ごした後、明日はメストリル領内を探索してまわるつもりでいる。


 客室はそれほど豪華なものではない。

 白いシーツが敷かれたベッドと、庶務用の小型テーブル、その横に鏡台が置かれており、部屋の入り口付近に、バスルームが設置されている。それだけだ。


 部屋の大きさはまあ、広くはないが狭くも感じないため、一晩過ごすだけなら何も不自由を感じることはない造りになっている。入り口から入ってくると、前室があり、その扉を開けると部屋の正面に大きな窓が二つ、その両方に二重カーテンが備えられているが、今はレースのカーテンのみが閉まっていて、外の様子ははっきりとは見えなかった。もう夕暮れだから時間的にも見えにくいのかもしれない。


 右手にバスルーム。バスルームの前から奥に向けて通路があり、その先にベッドルームがある。


(ふうん。こんな形の部屋って初めて見るわね――。でも、確かに無駄がなくて、整然としている。少しは心を落ち着けられるかもしれないわ)


 そう感じ、ミリアはすすっと白いベッドへ向かうと、そこに体を投げ出した。


 横になった瞬間に、体が緊張から解き放たれ、じんわりと染み入るような安堵感が体中を駆け巡る。


(ああ、気持ちいい――)

と、感じたのも束の間、窓の外に何者かがいる気配を感じ、ミリアは飛び起きた。

(え!? なに――――!?)


「誰!! そこに居るのは――!!」


 ミリアは構わず大きな声を上げ、窓の外に向かって誰何すいかする。


「――さすがだね。結構、抑えて近づいたつもりだったんだけどな――」


 その声色に、ミリアの胸が高鳴り、思わず心にじわりと熱いものが込み上げてくる。


「キール――なの!?」


「ああ、僕だよ、ミリア、少し訳ありでね。こんなところからお邪魔することになった――。ごめん、驚かせたよね、わぁ――!?」


 ミリアはキールの最初の一言に反応し、カーテンを急いで開け放つと、次に窓を開け、テラスに立っていた愛しい人の手を取り、部屋に引き込むと即座にその胸に飛び込んだ。


「――ミリア? どうしたんだ? 大丈夫?」


「――少し、こうしておいて……」


「あ、ああ、構わないけど――」


 頭の上あたりから優しい声が響き、キールの胸から体温が伝わってくる――。

 なんと、気持ちの安らぐことか――。


(ベッドもよかったけど、やっぱり――)


 ミリアはしばらくの間、この世で一番安心できる場所の感触に浸っていた。


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