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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第443話 魔術結晶

「そうか――。あれはそう言っておったか――」


 白髭じじいはそう言うと、少し嬉しそうな笑みを浮かべたが、すぐにその表情を戻して、


「――ふん。まあ、それも人生じゃ。あれがそういうのならそれでいいのじゃろう。わしの()寿()()がやや伸びただけじゃ。わしはいつになったら成仏できるのじゃろうの? 小僧よ、このあいだお前にいつでも辞めてええぞと言ったのは取り消すことにする」


と、キールに向かってそう言った。


「ええ――っ!? どうしてだよ? いつでも辞めていいんじゃなかったの!?」


「あほ! お前まで辞めたらわしはまた新しい素材を探さにゃならんだろうが! 意外と難しいのじゃ、神候補選考は!」


「え――!? 知らないよそんなのぉ~」


「――うるさい! とにかくじゃ、あれが生み出した『魔術結晶』の話じゃが……」


 と、珍しくボウンさんの方から話題を振ってきた。


 こういうことはそれほど多くはない。キールはそれを察すると、その話の続きに耳を傾ける。もしかしたら何かヒントをくれるのかもしれない。


「――残念じゃが、お前には()()()!」


 キールは思わず突っ伏した。


「そんなはっきり断言して! わからないだろう!? 何か方法が――」

「ない」


「ほんとに?」

「本当じゃ」


「えー? だって、ボウンさん嘘ついてばっかだし――」

「わしがいつ嘘をついたというのじゃ! わしは嘘などつかん!」 


「ついたよ?」

「つかん!」


「だって、前に、この世界は地球かって聞いたら、違うって言ったもの……」

「うぐ、そ、それはじゃな――」

「なのにこの前聞いた時は、「そうじゃ」って言ったよね?」

「ぬぬぬ――、だからそれはじゃな――」

「ほら、嘘つきじゃん」

「人の話を聞かんか――!」

「やだね、嘘ついたことを認めるなら、聞いてやってもいいよ?」


「この……、はあ、わかった。確かにそう言った。じゃがあれは言葉の()()と言うものじゃ――」

「おおー、やっぱりカミサマは正直でないとね?」

「うるさいわ! あれはそういう意味じゃなくてじゃな――」


「わかってるよ……。ちょっと意地悪してみただけだよ。ボウンさんが言いたかったのは、元は同じでも分かたれた別の世界ってことでしょ? だから、この世界は「地球」であって「地球」じゃないってこと――、だよね?」


 わかっとるなら、人をからかうのはよすんじゃ――、と言いながら、ボウンさんはふいと顔を背ける。


 キールは、どうにか笑いをこらえると、


「大丈夫だって――。まだ()()()()()ここに来るよ。折角カミサマと話せるんだもの、こんな()()、そう簡単に破棄できないって……」


と、白髭じじいに向かって言うと、そのまま続ける。


「――で? 魔術結晶の話、続きがあるんだよね?」


 白髭じじいは、ふん、と鼻を鳴らすと、話をつづけた。


 話はそんなに難しいことではない。

 物質に魔法の効果を付与する術式は、確かに存在している。それ自体はそれほど難しいことではなく(もちろんそれを為すにはそれなりの技術と修練が必要なのは否めないが)、多くの魔術師が実際それを()()()()()()


「シェーランネルの『疾風』じゃったな? あやつが現在ではその使い手として名を馳せておるが、実際、お前やミリアやアステリッドばかりか、錬成「2」以上の魔術師のほとんどがそれを為しておる――」


「あ、それって――例えば、『水成+氷結』とかのことだよね?」


「そうじゃ。あれも謂わば魔術付与の一種じゃ。ただ、魔術に魔術を併せるよりも、物質に魔術を併せる方が難易度が高いというだけのことじゃ。じゃが、その魔術の効果は永久持続とはいかん。それは、『安定』させることができないからなのじゃ――」


「安定?」


「モノが形を保つことを『安定』というのじゃが、基本的に自然界の物質はすべて『不安定』なのじゃ。これが自然界の掟であり、原理、道理と言うものじゃ。どのようなものであれ、自然界の物質は例外なくすべて『変化』してゆく――」


「ふんふん」


「じゃが、アレの能力ギフトはそれを完全に安定させることができると言うものじゃった。じゃから、アレの産み出した『魔術結晶』という術式は、そのやり方を聞き、100%実行できたとしても、同じようには行かない」


「なるほど、つまり、変化後の状態を維持することができるのは、オズワルド神父独自の「ギフト」によるものであり、彼以外には成し得ないということなんだね?」


「その通りじゃ――」


 だから、ずっと変わらない、「風化しない」、()()()()()()魔術結晶の作成は不可能ということになるわけだ。


「じゃが――」

「でも――」

と、ボウンの「じゃが」にかぶせるようにキールが言葉を発すると、そのまま構わず続けて、 

「……()()()()『魔術結晶』なら、作成の可能性はある、ということでしょ? これも、さっきの「()()()()と同じようなロジックだね?」


 ボウンさんは、口をパクパクしている。

 ああ、これは、言おうとしたことをとられた時になる現象だ、とキールは悟った。

 

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