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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第442話 「前神候補」オズワルド・フィル・ベンジャミン


「――そうか。この様な形で、魔術式を発動させる石を幾つも作り出し、それを装備しておけば――」


 錬成を編まずして魔術式を発動させることができる――のか?


「さすが、キール殿。御明察です。私はこの様な石を生み出し、それを装備することによって多重術式展開を可能にしたのです――。私の術はこれを以て錬成一桁などでは到底及ばない程の多重魔術式を展開できるようになりました。その結果、魔族を圧倒することができたのです。ただ、この素質も万能ではありません――」


――このギフトには『対価』が必要なのです。


「対価?」


「ええ、代償とも言いますか。この石は私の魔素()()を結晶化したものです。つまりは、生み出すごとに魔素包含量が減っていくという対価が必要だったのです」 


「つまり、魔素をため込める容量が減っていくということですか?」


「はい。そして、最後の一つを作成した際に、私の魔素容量はほぼゼロになりました。ただ、その術式によって魔族の王を消滅させるに至ったのです――。キール殿。『真魔術式総覧』に記載されている魔術式はまさしく神の御業です。つまり、扱う術者はまさしく神そのものでなければならないものも存在しているのです。お気を付けなさいますよう」


 キールはなんとなくは勘付いていた。


 『真魔術式総覧』に記載されている魔術式が、現代魔術式とは異なる術式錬成を要することは分かっている。これにはこれで理由があるはずだと思っていたが、おそらくのところ、術式錬成からして非常に特殊なのだろう。よって効果も特殊なことが多い。場合によっては術者の手に負えない術式を思わず展開できてしまう可能性すらある。

 その場合、術者に与える負荷は相当なものになるはずだ。


 いつぞやかのバレリア遺跡で展開した「昼の光(デイ・ライト)」がまさしくそれだった。


 この『真魔術式総覧』の術式は、解読さえできれば発動出来てしまうという性質がある。そしてそれは術者の許容範囲キャパシティを無視していると言っていい。


「――はい。肝に銘じておきます。ところで――」


「ああ、問いに対する答えがまだでしたな。実はこの石はそのうちの一つなのですよ。この石には『魂魄記憶再生術式』が込められておりました……」


「――! もしかしてそれは――」


「ええ、キール殿の御推察のとおり、私の未練のかたまりですよ……。魔族の王との対決の前に、一つだけ作っておいたのです。生きて帰ることができたら、いつか、()()()巡り合った時に使おうと――」


「そうでしたか……。なのにどうしてそれをワイアットに?」


「ワイアット、いや、ウィリアム王子は頭を酷く打ち付けておられて、自我の一部が壊れておられました。このまま蘇生したとしても、恐らく自分を取り戻すことはできないとわかりました。それで、その自我の補正を行うために『魂魄の記憶』を用いたのです。キール殿ならご存知だと思いますが、我々の頭には脳という器官があります。ここがその人の記憶を司っているのですが、そこが損傷していたのです。損傷によって一度失われた脳の記憶はまず戻りません。そこで、脳とは別の場所に保管されている記憶、いや、『記録』を用いて再生させたのです」


 理屈はわかる。

 魂魄に刻まれている記録をフィードバックし、損傷した脳に上書きしたということなのだろう。


「――そんなことが、可能なのですか……。まさしく神の御業に他ならないですね」

「手元に残しておいた「結晶」もそれほど多くはなかったのですが、彼を救う事が出来て本当によかったと思っています。ただ、私の力でクリスティンに再会することはできなくなりましたが――」


「――もし、僕がクリスティンさんの生まれ変わりと出会ったら、必ずここへ連れてきますよ」


「ははは、まあ、期待せずに待っていますよ。私かあなたか、先に()()()()()()に行くのはどちらかわかりませんがね?」


 確かに彼はエルルート族だが、すでに老人になっている。エルレアへ出向いた時も、エルルートの老人はそんなに見かけなかった。つまり、老人になってから死を迎えるまでは実はそんなに時間が無いのではないだろうか――。


「――縁起でもないことを。あなたはエルルートなのでしょう? 僕はおそらく人間レントで間違いないですから、順番で言えば僕が先になる方が可能性が高いじゃありませんか」

と、取り敢えず返しておく。


 唐突にオズワルド神父が質問を投げかけてきた。


「キール・ヴァイスよ。君は神になるのかい?」


 キールはしばし答えに窮した。「神になるのか」か。確かにこれまでそのことについて深く考えたことはなかった。


「――どうでしょう。今の僕はまだそんなことを考えている余裕はないですよ。この大世界のことを考えるだけでも手一杯です」


「――そうですか。ちなみに、あなたはこの世界をどう思っていらっしゃるのです?」


「――僕は、地球のようにはなってほしくないと、そう願っています。または、この大世界の旧人類の滅亡のような事も起こってほしくないと思っています。その為に自分にできる限りのことをやろうと思っています」


「『100日戦争』ですな――。あれは酷かった。あのようなことは二度と起こしてはなりません。キール殿、私に何か出来ることがあればいつでもお声を掛けてください。先輩神候補として、また、途中で投げ出してしまったせめてもの償いとして、出来る限りお力になりましょう――さて、そろそろ私も午後の参拝のための準備をしなければ……。キール殿、また、ゆっくりと――」


 キールは、さすがに空気を読んでこの場は立ち去ることにした。


「クラーサ茶、ありがとうございました。また伺います――」

そう言って、教会を辞することにしたのだった。




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