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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第439話 オズワルドの半生①

「オズワルド様、やはり、あなたが――」


「そうですな。キール殿が私の()()()というわけですか――。申し訳ないことをしてしもうたかもしれませんな?」


「――?」


「あ、いや、余計な重荷を背負わせてしもうたかと、そう思いましたもので……。そうでないのなら、私も胸の()()()がとれると言うものですが?」


「ああ、それはご心配には及びませんよ。むしろ、僕は『総覧』に出会えて感謝しているぐらいです。おかげで、愛する人にも巡り合えましたから――」


「『真魔術式総覧』――。懐かしいですな。……ひとつお聞かせいただけませんか? キール殿はあれをどこでお見つけになられたのです?」


「――メストリル王立書庫です。ですが、書庫の目録には記載されていませんでしたから、拝借したまま大切に保管しています」


「――ほう、メストリルで――。そうでしたか……、やはり、一度手放すと、手元に戻ってきてはくれないものなのでしょうな。王立書庫へは私も足を運んだのですが――」


 オズワルドはやや遠くを見るような視線になる。


「――取り戻されたかったのですか?」


 その様子からそう思ったのだが、これに対する回答は予期しないものだった。


「いや、まさか――。若い時の話ですよ。そうですな。今となっては、手放したままで()()()()()そう思っております。ところで――」


と、オズワルドが話を進めようと試みる。


()()()()()はまだあの部屋においでなのですか?」


 キールは、はい、昨日もお出会いしてきました、と答える。


「そうですか――。もし今度お会いになった時に言伝ことづてをお伝えいただいてもよろしいですかな?」


「もちろんです。とは言っても、今日出会えるかどうかはわかりませんが――」


「ははは、相変わらずなのですね、ボウンさんは――。いえ、もちろんいつでもよろしいのです。もうお伝えすることはかなわないとも思っておりましたから、その機会に巡り合えただけでも幸運というものです」


 キールは、オズワルド神父の言葉を黙って待った。


「――それでは、お願いします。オズワルドは幸せな時間を過ごさせてもらいました、ようやくそう思えるようになりました、と」


「――わかりました。必ずお伝えいたします」



 そこからは、キールの質問にオズワルド神父が「答えられる限りで」という条件付きで答える形となった。



 オズワルド・フィル・ベンジャミンは、出身はこのキュエリーゼではないといった。今は亡き小国だったという。当時は戦乱が絶えない世界で、若いオズワルドも国家のためにと魔術師として国家に仕えていた。そんな時、オズワルドは戦場で一人取り残されてしまう。

 万事休す――。

 さすがにもう生きては戻れないと思っていたところに、銀色の甲冑に身を包んだ騎士が馬を駆って駆けつけてきた。


「オズワルド! 手を取れ!」


 その騎士がうららかな、それでいて力強い声色で叫び、手を伸ばす。


「クリスティン! お前どうして――!?」


 戻ってきたんだ? と言いたかったが、言葉をげなかった。ただ、手を伸ばし、


「――すまない、しくじった……」


と、返すのがやっとだった。


「ふん、この借りは高くつくぞ!?」


 そう言った彼女は、オズワルドを自分の背後に乗せると、勢いよく鞭を振るった。


 結果的には、()()()()逃げおおせた。が、()()()()()逃げることはできなかった。


 クリスティンは、「借りを返してもらうよ?」とそう言って、騎士を辞してオズワルドのもとにとついできたのだ。


 二人の生活は幸せだった。この幸せはいつまでも続くと、そう、勝手に思い込んでいた。戦場にさえ戻らなければ、このままずっと二人で――。



「残念なことに、子は授かりませんでした。いや、むしろ今となってはそれもそれでよかったのかもしれません。しかし、そんな日々も終わりの時がやってくるのです――」

と、オズワルドが話しを続ける。


 キールは黙って耳を傾けた。


「それは、うららかな春の日でした。クリスティンも剣と兜を帯びてなければただ花が好きな女性だったのです。彼女と一緒に花畑を散策している時でした、奴ら――、魔族が現われたのは――」


 オズワルドは必死で彼女をかばいながら、魔法を打ち続けた。クリスティンは腰に差していた護身用の短剣を片手によく戦った。

 だが、残酷にもその時は訪れる。――彼女の胸に深々と魔族の振るう剣の先が突き刺さったのだ。


「オズ……、に、げて――」


 それが彼女の最期の言葉だった。


 そこからは記憶がほとんど曖昧だった。ただ気が付いたら、魔族は全滅させていた。


 花畑に横たわる彼女、クリスティンは胸を真っ赤にしている以外は、ただ眠っているようだった。

 だが、いつまで待っても彼女は目を覚まさなかった。


「その時私は決意したのです。何があっても魔族を根絶やしにする、と――」


 オズワルドは声を引き絞るようにそう言った。

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