第434話 『バレリアの古代図書館』の扉が開かれる
時間を少し戻す。
クルシュ暦371年12月下旬の話だ。
エリザベスとアステリッド、ハルの3人と、シルヴィオの一味(=ウォルデラン国家魔術院の面々)は、『円盤の部屋』に到達していた。
前回に来た時に立ちあげた「パソコン」をもう一度立ち上げる。
――『計画を実行するためには鍵を入れろ』。
そう意味する文字列が前回と同じように並んでいる。
画面の前に置かれている『鍵盤』から文字を入力することになるのだが、古代バレリア文字で入力しなければならないと考えられる。
「大丈夫よ。ちょっと待って――」
エリザベスが『鍵盤』をカチャカチャと操作する。
「――はい。これでいいはず。ハルちゃんお願い」
「え? ボク?」
「今この場で古代エルレア文字が読めるのはハルちゃんだけだから、ね。お願い――」
「わかった。やってみる」
ハルが恐る恐る『鍵盤』を操作し始める。
カチャカチャと適当に文字を入力していく。画面には、古代バレリア文字らしき文字が浮かび上がる。しばらく入れては消し消しては入れを繰り返すと、
「あ、そういう事か! わかったよ! じゃあ、これでどうだ?」
ハルは、入力しているキーと画面に現れる文字との間の関連性に気が付いたようだ。
カタカタカタ……タン。
ピー!
「エラー音だ。今のはエラー音に違いないですよ。ハルちゃん、なんて入力したの?」
「エラー音? あ、ああ、取り敢えず『聖バレリア大聖典』と入れてみたんだけど……。何も変わらないまま元の画面に戻っちゃったね?」
「リディ、エラー音って?」
とエリザベスが聞いてくる。
「あ、ああ、すいません。間違ったものを入力した場合に、間違ってますよと知らせてくる音のことです」
と、アステリッドが返す。
「つまり、違うってことだね? じゃあ、別のものを入れてみようよ。何がいい?」
とハルが次の文字列を打ち込む準備をする。
「教授、どうしましょう?」
「やっぱり、キール君の言葉に頼るのが一番のようね」
「キールの言葉……。キールはこう言ったんだ。『考えろ』ってことなんじゃないかって――」
「そうでした。キールさんはそう言ってました。「止まれ」ってだけじゃない気がするって――」
「でも、一言で『考えろ』って言っても、共通語には言い回しが幾つもあるのよ? いったいどれが――?」
「え? そうなんだ。でも、古代エルレア文字なら大丈夫。『考えろ』はたった一つの単語しかないんだ――」
そう言うと、ハルが『鍵盤』を入力し始めた。
カタカタカタ……。
「さあ、これでオッケーだよ? いい?」
リディとエリザベスが顔を見合わせ、次にハルの方を見て同時に頷いた。
「じゃあ、いくよ!」
タン――――!
プッ――、プププ――、プププ――、カタカタカタカタ……。
「え? なに? どうなったの?」
とハルが真っ黒になった画面を食い入るように見つめる。
「う、ごい、てる?」
アステリッドも画面を凝視して変化を待っている。
「キーが正解だったってこと?」
エリザベスも覗き込んだ。
パパ――ン!!
「「「わぁ――!!」」」
いきなりファンファーレが鳴り響くと、画面の中央に文字が現れる。
「オライズン――? あ、共通語で言うと『地平線』ってことになるかな。あ、画面が切り替わった――」
ハルがその「ロゴ」について説明してくれる。ロゴはおそらく古代バレリア文字だったのだろう。
「え? これは、何――?」
「なにこれ――? どこかの街?」
と、エリザベスとハルが画面に現れた風景を見てそう言った。
だが、アステリッドだけが違った反応を見せた。
「そんな――。どうして――?」
アステリッドはその風景に見覚えがあった。いや、アステリッド自身はその風景を見るのは初めてだ。
だが、もう一人の自分、『藤崎あすか』が見たことがあると言っている――。
「これって、『ニューヨーク』……?」
――――――
「最後に一つ――」
キールは、人差し指を立てて、ボウンさんに質問をする。
「この世界と地球って何が違うのさ?」
「何が」違うのか――。
キールはずっと考えている仮説がある。実はこれまでに不思議に思っていることがあった。そして、今回もやはりそうだった。もはやこれは偶然の一致ではないとそう確信するに至っている。
「小僧、何が言いたいのじゃ――?」
ボウンは質問に質問で返す。つまり、答えるかどうか、そのタイミングかどうかを推し量っているのだろう。
そうだとすれば、キールの答えようによってはその質問の解答をくれるに違いない。
「実はずっと気になっていることがあってね――。転生者についてなんだけど、どうして、地球人しかいないんだよ? 僕、アステリッド、デリウス、そしてワイアット。フランソワさんについてはまだ判明してないけど、おそらく彼女も元地球人だろう? これに対する答えは一つしかないんだ。実は世界は一つしかないんじゃないかってね」
ボウンはキールの回答を聞いて、ゆっくりと瞼を閉じた。
そうしてしばらく思案をしていると、やがて、大きく息を吐き目を開いた。
「――さすがじゃな、小僧。とうとうそこに辿り着きおったか……。いいじゃろう。教えてやろう。ここは、「地球」じゃ――」




