第430話 魔術師と神の会談①
「結構いろいろと進展があったから整理したいんだけど、いいかなぁ?」
キールは白い部屋で白髭のじじい、ボウンさんと対峙している。
ボウンさんに会うのは、この間のリューデス・アウストリアの件で、みんなと会議をした時以来だ。
あの時は周りにみんながいて、聞くことができなかったことも多かったため、また改めて会いにこようとは思っていたのだが、なんだかんだで、結構時間が経ってしまった。
現在は、クルシュ暦371年12月30日。
今年もあと一日で終わりを迎える。
今年一年は本当に目まぐるしかった。まあ、去年の12月初め頃に海に出て、9カ月ほどは海の上だったけどね。
「まず一つ目は――」
キールは白髭じじいに質問を始めた。
まず一つ目は、「この世界」の前に存在していた世界、「遺跡の世界」についてだ。
実は、キールはミリアから、「100日戦争」の話を聞かされている。先日、エランの港で二人きりの年末祭を迎えたときにその話を聞いたのだった。
「100日戦争」――。かつての人類が科学の栄華を極めた結果、この世界「大世界(ジョドはこの世界をそう呼んでいるらしい)」の崩壊の危機に瀕した。大世界の崩壊を止めるためにドラゴン族は立ち上がり、当時の人類との凄惨な戦闘が始まった。結果、ドラゴン族によって当時の人類は完全に駆逐されつくし、ドラゴン族もまたたった12名を残してすべて死滅する結果となったという。
「――これは本当のことなんだよね?」
とキールが問うた。
「答えはもう出ておるじゃろう? お前たちはその残骸をすでに目にしておるではないか。ならばそこから導き出される答えも一つしかないじゃろう」
と、神ボウンが答える。
この「白髭じじい」は、こういう答え方をよくする。決して、「その通りだ」とは言わないことがあるのだ。
これがどうしてなのかについてキールは訊ねない。
おそらくだが、答えられない理由、もしくは、答えない理由があるのだろう。
事実として、キールたちはたしかに「古代の遺跡」を目にしている。
「――だとしたら、ドラゴン族はジョドの言う通り、原初の生物ということになるわけだよね? ジョドの言っていることが正しいのだったら、そこだけ嘘というのもなんだか奇妙な話だからね」
そして、「エレメンタル・ボディ」という術式が現実に存在しているということにもなる。
「そうなるのう。たしかにドラゴン族はこの「大世界」の原初の種族じゃ。彼らは言葉と文字を持ち「文明」をもっておった。ここで言う「文明」とは、お前たちレント族が作り上げたものとは少し違う。わしが言う「文明」とは「社会」のことじゃ」
「「社会」――?」
「そうじゃ。言葉を持ち、互いに意見を交換し、意思疎通を図り、協力して一つの行動を起こす。これが「社会」じゃ」
「え? じゃあ、動物たちも「文明」を持っているということになるの?」
「話をよく聞け、小僧。わしは「言葉と文字」を持ち、と言ったじゃろう。動物たちに「文字」は書けん。それにやつらが通じておるのは「言葉で」ではなく「音で」じゃ。意見の交換ではなく、信号の発信じゃな」
なるほど――確かに言われる通りだ。
動物たちに「文字」は扱えない。エルルートとレントはそれぞれ独自の言葉と文字を持っている、いや、いた。現代となっては、エルルートがいつか訪れるレント族との邂逅に備えて、『共通語』を習得・使用するようになり、古代エルレア文字は文献に残り、解読できる程度に学校で習うものとなっている。キールがまだ原田桐雄だったとき、学校で習った「古文・漢文」のような位置づけのようなものだ。
「――「地球」もいずれ同じ道を歩むことになるのかな?」
キールは思わずぽつりと零した。
キールが見ている「古代の残骸」は、原田桐雄の生きていた時代の地球の科学文明に酷似している。いや、そのものと言ってもいいぐらいだ。そして、あの技術の時代に滅亡したというのなら、「地球」の終焉もかなり近いのではないかと思ったのだ。
原田桐雄は「自分」ではない。だが、彼の記憶を有している「自分」にとって彼の家族たちはやはり、「他人」とは思えないのだ。出来ることなら平穏であってほしいと願うのは自然な感情だろう。
「――さて、どうじゃろうな。未来はわしにもわからぬ。予測や予想は出来るじゃろうが、未来はどんな時も「未確定」じゃ。確定していないものに「結果」はないのじゃからな。じゃから、わしにもそれはわからぬ」
「未来は未確定――か」
「そうじゃ、小僧。未来とは人が行動を起こした結果の積み重ねによって過去になる。過去は歴史となり後世に伝えられる。そして人類はその歴史から学びまた行動を起こす。本来なら『同じこと』は繰り返さぬはずじゃがのう」
キールにはなんとなくだがボウンの言っていることが理解できたような気がした。




