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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第426話 ハルの休日

 ハルはくすっと思い出し笑いをしていた。


『なんだぁ? 気持ち悪いな? 何がそんなに可笑しいんだよ?』


 ハルの傍らに上半身は人型のような形、下半身は蛇か雲かのように伸びている半透明の存在が現れて問いかけてくる。


「あ、ああ、リーチか。いやね、キールってときどき変なこと言うんだよね――」

 

 今、ハルは大使館の自室で朝の支度をしているところだった。



 クルシュ暦371年12月中旬――。


 先日、メストリルへ戻ったばかりのイハルーラだったが、今日はもうメストリルを離れることになっている。

 メストリルは「北の大陸」の中でも南方に位置しているため、比較的温暖な気候の地域であるが、さすがにこの季節になるとかなり冷え込んでくる。

 ハルは相応の服装で、支度を整えると、姿見の前から離れようとした。


『それで? 変なことって何だよ?』

 

 リーチがまだ返答を貰ってないとばかりに詰め寄る。この子、たまにこういうどうでもいいことに突っ込みたがる傾向があるんだよね。

 ハルは今から出かけようとしているところに付きまとわれたものだから、ややぶっきらぼうに、

「魔法で生成した水が飲めないと思ってたんだよ」

とだけ答えた。


『――どういう事だよ? 水は水だろ?』


 なおもリーチが食いついてくる。


「さあね。レントの人たちはエルルートよりやや自然から離れている傾向があるんじゃない? 水にも飲めるものとそうでないものがあるんだろう? ――もういいだろ? ボクにだってよくわからないことってあるんだから!」


 ハルは付きまとうリーチにそう言い放ち、部屋を出た。


 今日はバレリア遺跡へ出発する日だ。

 通常なら、こんな寒い時期に探索に出るのはあまり気が進まないのだが、今回は目的がはっきりしていてそれほど長期の探索にはならないという計画だった。

 それに、向かうのは「深層」ではなく、『円盤の部屋』だ。


 バレリア遺跡第5層にある『円盤の部屋』は、現在はバレリア遺跡探索の中枢拠点となっている。

 エリザベス教授が自発式電灯を開発してから、この『円盤の部屋』を拠点として構築し、そこまでの道すがらは全て電灯で明るく照らされているため、魔物が出現することはほとんどといっていいほど無かった。たまに、『奈落』という縦穴をつたって上がってくるものがいるが、それも小型のブラックスライムほどで大した脅威にはならない。

 エリザベスでもすでに片手で叩き落せる、その程度の小さく弱小な魔物だ。


 いつもならハリーズさんや、クリュシュナさんなどの《《超》》前衛職の人が護衛についてくるのだが、今回は二人はこないらしく、シルヴィオさんとウォルデラン国家魔術院諜報部の方が数名来てくれることになっているらしい。

 おそらくのところ、それでも充分に多いぐらいだろう。それほど『円盤の部屋』までの道中は平穏が保たれている。



 キールはキールでまたふらりと海へ出て行った。なんでも「約束」があるということだ。

 ハルはその約束の相手が「女」ではないかと訝しみ、問いただすと、キールは、「違う違う、王子様だよ」と、そう言って面倒そうな顔をした。


 キールがメストリーデに留まっていたのはわずか4日ほどだった。でも、久しぶりに、食事に行ったり、お買い物に出たり、ああ、それから、あの森の広場にもピクニックに行ったりできたから、とても楽しく過ごせた。


 特にピクニック。

 二人きりだったらもっと楽しかったかもしれないと思ってしまうところもあったけど、リディ姐ちゃんやミリア、あと、なぜかわからないけどあの「ジルベルト(おっさん)」も付いてきたし、もちろんエリザベス教授やミューランさん、ルドさんもいた。

 リディ姐ちゃんが焼いてきた「マフイン」というお菓子や、ミリアが作ってきた「サンドイッチ」、ミューランさんと教授はメストリーデの料理屋で注文したオードブルを、「ジルベルト(おっさん)」はジェノワーズ商会が扱っている「ぶどう酒(ワイン)」を、ルドさんは「高級チキンロースト」を、皆思い思いのものを持ち寄って、わいわいと楽しんだ。


 寒くないのか、だって?

 大丈夫。ボクたちは「魔術師」だよ?


 そこはみんなで少しずつ魔法を使えばまったく問題ない。


 みんなで作り上げた、「グランピングコテージ(リディ姐がそう言っていた)」とかいうテントのようなものは上出来だった。魔法「岩石生成」でうまく形作った「暖炉」もうまく機能していたから、コテージの中は快適だった。

 コテージの壁は、「魔法の障壁」だから、屋外にいるように景色を満喫できるうえ、日の光も充分に浴びることができた。


 昼前からゆっくりと過ごしたけど、一つ残念なことと言えば、この時期だけに日が短いことだろうか。夕方にはさすがに日が落ちてきて、真っ暗になるからね。

 それでも、魔法で明かりを作らず、暖炉の炎の光でしばらくゆっくりしたあと、


「――また、みんなで「はる」にでも……」


 キールがそう言ったのが、「《《お開き》》」の合図になった。

  


 あ、そうそう、「水」の話。

 もちろんミリアは知っていた。さすがにそこは魔術院副院長だ。キールやリディ姐のその時の反応と驚いて口をあんぐりしている顔のことを話したら、


「ふたりとも、馬鹿なの?」


と、冷たく言い放った。でも、ボクには見えたんだよね。ミリアが口元を隠して笑っているのが。

 なんだろうな。ああいう仕草をしているミリアって本当に《《可愛らしい》》んだよね。

 周りで聞いていた皆も爆笑してたけど、「ジルベルト(おっさん)」が、


「おいおい、旦那! マジかよ? 笑えねぇぜ!?」

とか言いながら馬鹿笑いしてたのはちょっとウザかった。笑ってるじゃん。



 そんな「休暇」もあっという間に過ぎ去って、みんなまたそれぞれの「仕事」に戻っていった。


 また「《《ハル》》」に――。


 ボクはやっぱり、「ハル」という響きが大好きなんだなって改めて思った、本当にいい休暇だった。


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