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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第425話 意外と知らない真実ってあるよね?

「ねぇ、キールさぁん、キールさんは帰ったらどうするんですかぁ?」

「そうそう、ボクもそれ聞きたかったんだよね?」


 甲板の上で風にあたっていたキールの元に、二人の女子が寄ってきて問いかける。


 キールはすこし考えを巡らせた。

 ここのところ、流れの中で動いていて、やるべきことを結構後回しにしている感が否めない。キュエリーゼからノースレンド、そしてまたキュエリーゼ、そこからエルレア。その前は、ミリアと一緒にグアンデーラ火山島に行っていた。


 キールの中に大目標は既にある。

 「海の国」をつくること、それが当面の大きな目標だ。


 とは言え、国境のない「海」に国家をつくるというのははっきり言って、荒唐無稽な話だ。

 つまり、キールの言う「海の国」というのは、あらゆる海域に出没し、海上の平穏を乱すものを管理監視する「海上保安組織」という形になってしまう。そして、もちろん人間である以上、その拠点は海上では不可能だ。結局はどこかの陸地に拠点を構えなければならない。これは単純な理由だ。海上では「飲料水」を補給することが非常に困難だからである。


(例えば、海水をろ過して真水に変える機械とかが発明されれば、それはそれでとてもありがたいのだけど――)


「そうだなぁ。例えば、海水から真水が作れるようになる魔法とかさがしてみるとか――?」

と、キールは何気なにげなくつぶやいてみる。



 あの緑色の装丁の本――。『合成魔術式の可能性』という本は、結局持ち出すことは出来なかった。しかし、そのまま、また本棚に戻すには惜しいと感じたため、受付に確認を取って、新規登録をしてもらい、一日だけ借りることが出来たので読んでみた。


 結論から言えば、可能性についてつらつらと書いてあるにすぎず、肝心の『実例』や『新術式』が記載されているわけではなかった。

 だが、この『出会い』がこれまでと同じものであるとすれば、全く無意味だとは思えない。今後のキールの熟練に従って意味が出てくるか、あるいは新たに出会う「誰か」にとって必要になるものなのか、現状としては何も答えが得られていない。

 それでもあの本(の著者、エウレノ・クスィージャレル)が言いたいことはあらかた分かる。


 現代魔術式(=いわゆる初等魔術式を基礎とした魔術体系。ミリアやアステリッド、『氷結ニデリック』や『火炎ゲラード』が習得している魔術体系のこと)は基本的には6大元素という考えに基づいている魔術体系である。

 6大元素とは、地(土)・水・火・風・光・闇の6つを言う。その6大元素を魔力の力で集約し、術式を展開することで具現化する。これが、現代魔術式の基本的な考え方だ。

 この6大元素の中でも、上位の二つ「光と闇」については、通常クラスのものには扱えない元素とされている。

 とにかく、それぞれ別々の元素を元に具現化させたものを組み合わせ、多種多様な形に変化させたり、複雑な現象を生み出したりすることが錬成術式なのだ。


 だが、『合成術式』というのはそれとはまったく異なる体系の術式であるという。


 元素の元になるもの『素粒子』。これの段階から複数の元素的要因を組み合わせ、「あたらしい元素」を生み出し、それをもとに術式を展開するという。

 つまり、もっとわかりやすく例を挙げて言えば、『水成+氷結』という基本術式がある。この術式は、そもそもは「水属性基本魔術式」である「水成」で、空間中に「水」を生成し、それに対して「風属性魔法基本術式」である「氷結」という術式を施し、温度を急速に低下させることで水を凍結させる術式である。これを為すには、錬成「2」、または、二人以上の術者が必要になるわけだ。

 だが、例えば、元素の段階で、「水と風」の双方の特性を持った元素を生成できるとする。そうした場合、発動する魔法は、その元素を基にする一つだけでいいことになるのではないかというのが、この『合成術式』の理論の根幹となっている。


 言いたいことは分からないでもない。だが、その肝心の『二つの特性をあわせもつ一つの元素をどうやってつくるんだ?』という新たな問題が現れ、それに対する解答については言及されていなかった。



「海水から真水をつくるだって? どうしてそんなことをする必要があるのさ?」

と、ハルが言った。


「だって、海水のままじゃ飲めないだろ? 船の上で水がなくなったらどうするのさ?」

と、キールが応じる。


「え? キール、本気で言ってるの?」

とハルがなおも食い下がる。


「ど、どうゆう意味だよ――?」

キールはハルの表情が明らかにこちらを心配している表情になってさすがに動揺する。僕はなにか見落としているのだろうか。


「はぁ~。ちょっとまってて――」

そう言ってハルはたたたと甲板を走って船室の方へと消えてゆく。しばらくそのまま待ってると、再びたたたと駆け戻って来た。その手に握られているのは、木でつくられているカップだ。


「え? それって、僕のカップだよね?」

と、キールが質問する。


「リディねぇ、ちょっと、「水成アクア」やってみて」

とハルがぶっきらぼうに言う。

「え? ここで?」

と、アステリッドがやや面食らって聞き返す。

「いいから。ああ、量はある程度調整してね。船の甲板のものが流れたら困るから」

「う、うん、もちろんだけど――。いい? いくよ? ――「水成アクア」!」


 アステリッドが術式展開すると、ハルの掲げるカップの上に拳大の水の塊が現れる。さすがアステリッドだ。この量なら、せいぜい甲板が濡れる程度で済むだろう。


「おっけー、そのまま保っててよ。――ほい!」

ハルは空中に浮かぶ水の塊をカップですくいあげたのだ。

「ほら、キール、飲んでみなよ?」


「え? まさか――」

「ほら! はやく!」

「う、うん……。――――!! これって――!」

「真水だったろ?」

「うん……」


 その二人のやり取りを見ていたアステリッドもいまさらながら驚愕し、

「え? 水成で生成した水って飲めるんですかぁ!?」

と、真顔で驚いていた。

 

 どうやらこれで大方「飲料水」の問題は解決したようだ。




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