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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第424話 「見送り」

 クルシュ暦371年12月6日――。


 キールたち一行はポート・レウラを出港し、『中央大陸』へと向かった。

 来た時と同様、二隻の帆船で寄り添うように港を出てゆく一行を水平線に消えゆくまで眺めていたフィエルテとルクレツィアは、これが今生の別れではないことを予感している。


「なあに、またすぐ会えるさ。ルクレツィアは()()()()に再会できてよかったな?」

と、フィエルテがルクレツィアをからかう。

「憧れだなんて――。畏れ多いですよ。あの方はもう私の手の届くようなところには居ませんでした。この短期間であそこまで強くなられているとは……。いったいどのような修練を積めばあれほどまでに成長するというのでしょう?」

と、ルクレツィアが返した。


 ルクレツィアがジダテリア山での魔物掃討作戦の時から、キール・ヴァイスという少年に少しばかり『入れ込んでいた』ことを知っているフィエルテは、ルクレツィアが本当は一緒について行きたい気持ちに駆られていることを知っていた。

 ただ、彼女には、このエルレアを守る使命がある。調査兵団長の彼女には、きたる『魔物襲来』に備え、大陸中の探索と調査、そして訓練の日々が待っているのだ。

 

 この『魔物襲来』はある程度定期的に発生する。


 人が定住しているような街中には発生しないが、少し離れた場所に『出現ポイント』が突如として現れるのだが、その原因や原理は長い研究を続けているが今もなお不明のままだ。

 これがエルルート特有の守護精霊の扱える場所でならそれほどの脅威ではない。調査兵団のみでも充分に対応できる力を持っている。

 しかし、ひとたび、ジダテリア山のような、『特殊地域』に出現した場合、エルルートのみでは対応が難しく、またレントの力を頼ることになるだろう。

 ジルメーヌさまが定期的にレントの地を訪問し、友好関係を続けてきたのも、そもそもはそれが目的だった。


――まあ、途中ですこし主目的がれたような事はおっしゃられていたが。


 それも、今回の『邂逅であい』で、なんとなく理解できた。たしかに、ジルメーヌさまが愛されるに足る御仁ごじんであった。あの方がご存命である限り、ジルメーヌさまはエルレア(ここ)にはお戻りにならないだろうと、フィエルテは確信している。


――とはいえレントの寿命ははかない。あの『英雄王』と言えども長くてせいぜいあと20数年ほどの命だろう。


「短いな――」

と、フィエルテは思わず声に出してしまった。

「え? なにがです?」

とルクレツィアが聞き返す。


「いや、レントの寿命のことさ。レントとエルルートの間に横たわる大きな溝でもある。今後この寿命の差が大きな問題になることもあるかもしれない」

「――たとえば、エルルートとレントの間に子が為せるとなれば、その寿命はどちらに寄るのでしょう?」

「――! ルクレツィアはレントの子を産むつもりなのかい!?」

「な!? なにを仰っているのです! わたしはただ、一般論として――」


 ルクレツィアはフィエルテの思わぬ質問に多少表情を上気させているように見える。


「あ、ああ、すまない。唐突に言い出すから、少し動揺してしまった。おほん! そうだな。普通に考えれば半分ぐらいになるって感じなのかもしれないけど、そうなれば、レントとエルルートの間に子を為したそのエルルートの方は、自分の伴侶と子を「見送る」ことになるだろうね……」

と、フィエルテもまた一般論を返す。


「――伴侶と子を……。なんだか、寂しいですね」

「そうだね。愛した人を見送ることはお互い様だから致し方ないにしても、その人との間に為した子供たちまで先立ってしまうことになるというのは考えただけでも辛いだろう」

「ジルメーヌさまが、不憫ふびんです――」

「ああ。だからジルメーヌ様に今は()()()()()()()()()()()と、私はそう思っている」

「――ですね。出来る限りゆっくりとして頂かないと。さて、と。では私は任務に戻ります。今回のお役目はいわば休暇のようなものでしたから。では――」


 そう言ってルクレツィアは海から背を向けて去ろうとする。


「――え!? もう、もどるの!? 今日もう一日ぐらい、ここでゆっくりして行けばいいじゃないか? どうだい? このポート・レウラに最近できた評判のお店があるんだが、こんな時間だからそろそろ夕食でも――」

「いえ、いつまでも休んでいると体がなまってしまいます。すぐに任務に復帰することにします。ああ、ちなみに「なまる」のは私ではなくて兵団員の方ですから。誤解の無いように。それでは統一王朝政府軍司令閣下、こちらで失礼いたします――」


 そう言い残すと、ルクレツィアは敬礼しきびすを返すと、たたた、と、走り去っていった。


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