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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第423話 『百一話』翁勇問答

――――――


「よくぞここまで辿り着いた」

老人はそう言った。

「ここはどこなんですか?」

と、勇者は問うた。


「ここは世の果て、人々の未来、行きつく先、終着点、目的地」

と老人は答える。

「こんなところが人々が行きつく先とそうおっしゃるのですか、あなたは?」

と再度勇者が問いかける。


「人はあくなき探求心、欲、好奇心を持つ生き物。それが繁栄すれば必然、世界はこうなる」

と老人は答えた。


「――これが、世界……。この何もないただ真っ白な空虚な空間が世界で未来だとは……」

勇者は力なく肩を落とした。


 が、そこは勇者だ。

 彼は「希望」だ。


「これが未来だというなら、それを生み出さなければいいだけだ。ご老人、我々に足りなかったものは何ですか?」

勇者はまだあきらめていなかった。


 老人は、

「足りないものは無かった。お前たちはただ気付かなかったのだ」

と答えそして姿を消した。


 勇者はひとりその世界に佇んでようやく気付いた。

 

「人が追い求めると行きつく先はこの空虚――。だとすれば、どこかで止めることができれば……? そうか、私たちは立ち止まることの大切さに気付かなかったのだ」


 そして勇者は元の世界へと帰って行った。



――――――



「――と言うのが、この隠された101話目だった」

と、ハルが一同に話して聞かせた。


 一同はしばらくその話を咀嚼そしゃくしている。

 先に伝えておいた再集合の時間に大書庫に集まった一同が、丸いテーブルに並んで座り、『聖エルレア大聖典』を囲んで、ハルの『翻訳』を聞いていたのだ。


 数秒経って、

「――つまり、追えば追うほどに空虚に近づいているということになるんですかね?」

と、アステリッドが口を開いた。


「確かに――。言っている意味はそういうことになるでしょうね」

と、キューエルが応じる。


「しかし、探求を続けるから発展があるのだろう? 探求を止めれば発展は止まる。発展が止まれば、やはり衰退するんじゃないのか?」

とは『英雄王』の言だ。


「いや、だからさ、ちょうどいいところで止まれってそういう事だろうがよ?」

と、ティットが簡潔にまとめる。


 キールだけがまだ言葉を発していない。

 5人がキールの顔を見つめて、言葉を待っている。


 「止まれ」と物語は説いている。そう聞こえる。ただ、「ただ止まれ」と言ってるようにも聞こえない。なんだろう。そんな簡単な話じゃないようにも思うが、実はそれほど難しいことを言ってるようにも思えない。


「――これって、つまり、『考えろ』ってことなんじゃないかな?」

と、キールはそう言った。


 皆が一瞬、固まって、そうして難しい顔をし始める。


 そこから数秒、最初に口を開いたのは、ハルだった。

 

「――キールの言っていることは間違ってないとボクは思うよ。エルルート族がどうしてこれほど長い寿命を持つに至ったか、実は今となっては良く分からないんだよね」

と、ハルは言った。そして、

「でも、エルルートの世界はボクの知る限りずっと昔から今と同じままだった。確かに発展はしていない。でも、衰退もしていない。いや、衰退はわからないな。もしかしたら、寿命が長いせいでゆっくりとした変化には気が付いていないのかもしれないしね。でも、今はこれが一番エルルートに合っている暮らし方なんだとは思うよ」

と、続けた。


「なるほどな。確かに俺たち『レント』はエルルートたちより好奇心が旺盛で、探求心が深いと言える。そのせいで、無茶な冒険や無謀な戦いに向かうものも多い。結果待っているのは「死」、つまり「無」だ。俺たち「レント」はエルルートに比べて、よりこの物語の状況に「近い」と言えるかもしれん」

と『英雄王』がこれに応じた。


「まあ、中には人並み以上に好奇心旺盛でありながら、じじいになってもまだ飽き足らず遠くの大陸まで海を渡ってくるやつもいるがな? ぐえっ! いってなぁ!! 殴るなよ!」

と、ティットが『英雄王』から《《小突かれる》》。


「まあ、私たち「レント」の世界はまだ未熟なのでしょう。先程、この国の教会を見てきましたが、レントのものより壮麗で優美、何よりも平穏でした。ゆっくりと時間が流れている。それを強く実感できるのです。もちろん「レント」の教会もその傾向がありますが、なんと言いますか、彼らも食べて行かなければならないという根っこのところはどうしても隠しきれてないのです。この国の教会にそのような『におい』は感じられませんでした」

と、キューエルが感想を述べた。


「――まあ、でも、今ここで言えるのは、『この物語』が私たちの探し求めていた『もの』かどうかはここでは結局わからないってこと、ですよね?」

と、アステリッドがまとめにかかる。


「――いや」

と、キールはこれに異を唱えた。

「これは僕の()だけど――。『この物語』で()()()()()とそう思う。問題は『鍵』がどこかだ。これまでの流れで、『レーゲンの遺産』に関しては一つの法則があることに気が付いていた。たぶん、クリストファーもエリザベス教授もそれには既に気が付いていると思う。だから、教授きょうじゅは急いでハルとアステリッドに僕たちを追わせたんだよ。そして『この物語』に遭遇した」


 『レーゲンの遺産』の謎を解いてきたこれまでの歩みに、基本的には分岐点は用意されていない。


 そのことにキールは少し前から気が付いている。

 

 Aという事象がBという結果を生み、新たにCという問題が発生すると、Dという事象が現れる。


 そうやってこれまで一本の糸によってずっと繋がっている。

 ならばおそらくこれもその一つの「事象」である可能性が非常に高いと、キールはそう確信していた。

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