第419話 ハルとリディー、センターコートに到着
「はあ~! ついたついた! ここが『センターコート』、エルレア統一王朝議会がある街だよ!」
ハルが意気揚々と声を発した。
「すっごーい! こんな高い塔に、立ち並ぶ建物もかなりの高層だよ? これまでのエルルートの街とは全然違うじゃないですかぁ!」
アステリッドがその街並みをみて歓声を上げる。
「センターコート」と呼ばれるこの地域は、中央にやたらと大きい木が生えていて、その周囲にも大木が乱立しており、その木々一つ一つに建物らしき建造物が作りこまれている。その木の大きさ一つ一つがメストリルの貴族屋敷ほどの大きさの建造物をそっくりそのまま呑み込んでしまってるようにすら見えた。
その大木の内部構造がどうなっているのか、それはまだわからないが、おそらく何層もの多層構造になっていることは、外観を見るだけで充分に想像できる。
これまで見た、草木を編んで建てられているエルルートの一般住宅とは明らかに一線を画しており、中には、大木一本丸ごとをそのまま切り出したような尖塔すら存在していた。
「真ん中の大きい木の中にあるのが統一王朝政府なんだけど、周囲の建物も木の中をうまくくりぬいて造られているんだ。結構広いんだよ?」
と、ハルが応じた。
アステリッドはこの幻想的な建物群を見て、どこかで見た『ファンタジー世界』の妖精の国を思い浮かべていたが、まさしくそのままの景色が眼前に広がっている。
「さあて。統一王朝には用は無いから、エルレア政都大書庫へ向かった方がいいかもと思ったんだけど、師匠は、キールや王様と一緒に行動しろと言ってたから、まずは、二人に会わないとだね?」
「そうですね。キールさんたちもこの街にいるはずなんですよね? どこにいるのだろう?」
「それなら大丈夫。もう居る場所は分かってるから。今朝方諜報部員から連絡があって、キールたちは『セントラル・ホテル』に滞在してるって。数日間はそこに滞在しながら、統一王朝と今後の交流について意見交換をするということらしいよ?」
「じゃあ、そのホテルに行けば会えますね!」
「うん! ほら、早く行くよ! ボクもキールに早く会いたいから!」
「ああ! 抜け駆けは無しですよぉ、ハルちゃん!」
二人は街並みを抜けて「セントラル・ホテル」へ向かった。
数分後――。セントラル・ホテルのロビーにて。
「キール!」
「キールさん!」
二人の女子がキールの姿を見るや歓声を上げて駆け寄る。
キールは慌てて両手を広げて二人を受け止めた。
「ちょ、ちょっと! アステリッド!? ハルも――!?」
さすがに人目もはばからず腕の中に飛び込んでくる二人の女子を受け止めるという状況は、周囲の好奇の目線にさらされることになる。
二人は、キールの腕の中でその温かさを噛みしめたのち、少し名残惜し気に体を離した。
「――いったい、どうしたというんだい? こんなところまで追いかけてきて?」
と、キールは二人に優しく語りかける。
「キールを追ってきたわけじゃないよ? ボクたちはちゃんと仕事でここに来たんだから、ね? リディー姐ちゃん?」
「そうですよぉ。私たちもちゃんと使命を負ってきたんですよ?」
と、二人から返事が返ってくる。
「使命、だって? 誰から?」
「えっとー、師匠からだけど、教授からかな?」
「翡翠様からですが、教授からですね」
二人とも同じことを返す。いや、もう少しわかるように説明してほしい。
「え? なに? どういうこと――? つまり、エリザベス教授が『翡翠』様に何かを頼んで、それを二人に命じたということでいいのかな?」
と、キールが整理する。
「「そう言ってるじゃない(ですかぁ)!」」
だそうだ。
なんでも、「聖エルレア大聖典」という書物の原版を探しに来たということらしい――。




