第416話 道中にて
『英雄王』一行は途中リューネの町に立ち寄り、前回来た時とは違いそのまま南へと向かう。リューネから『センターコート』までは約3日と聞いている。
今回は公式訪問とはいえ、『英雄王』パーティとして来ている。つまり、このレント初の渡航は、『王』ではなく『冒険者』たちが成し遂げたという態をとりたいというのが、『英雄王』の意向であった。
彼は常々、『自分は一介の冒険者に過ぎない。国王は先代から一時『預かった』だけだ。だから俺は、体が動く限りは『冒険者』としての活動は止めるつもりはない』、と言っている。
今回のエルレア到達が「人類の手によって成した初の渡航である」と、中央大陸中に公表できるのは、エルルート族の存在がようやく公になり、デリウスという『造船家』の力を得たからである。
この大偉業を為したのは「一介の冒険者であった」としたいのは、これにより「引退」の花道を飾ることができれば、という思いからだ。
「昔ある冒険者がね――」
そう言い伝えられれば、冒険者たちの夢も広がると言うものだ。その伝説はのちの世に続く冒険者たちの目標や夢、または道程の一つとなるだろう。
リヒャエル・バーンズは出発前に内務大臣のウェルダートや魔術院院長のニデリックら近臣たちにすでに伝えてある。
「――俺もそろそろ体が思うように動かなくなって来やがった。先年のダーケートで、「剣士」は引退した。戦闘が昔に比べて厳しくなっている。まあ、俺ぐらいになると、外から見てるだけではわからない些細な差だ。だが、俺にはわかる。『これは調子がいい悪いというのが理由じゃない』ってな……」
――だから、これが『最期』だ。『暴風』リヒャエル・バーンズはこれで引退だ……。
ともあれ、キールたちは、前回のように東へ向かわず、そのままリューネから南へと向かう。東に2日先のジダテリア山はあのあとどうなったのだろう?
そんなことが頭をよぎったが、その答えは翌日には明かされることになる。
リューネ出立から2日後の昼過ぎ、次の中継点である、ハーマレルという宿場町に到着する。
ここまでくれば、『センターコート』まではあと一日、正確に言えば、15時間ほどだという。つまり、明日の朝発てば夜には到着するらしい。
そしてここハーマレルにおいて、キール、ティット、キューエルの3人にとっては懐かしい顔と再会することになる。
「キールさま! ティットさま、キューエルさま! お迎えが遅くなり申し訳ございません!」
ハーマレルの逗留先の旅籠に1人のエルルートが訊ねてきたのだ。
フィエルテ・ローズブラッシュ――。ジダテリア山攻略の際、調査兵団たちの指揮を執っていた彼だった。
「――ああ、フィエルテさん! こちらこそ、いろいろとご配慮くださいましてありがとうございます」
と、キールが応じる。
実のところ、この道中の馬車から逗留先、野宿の仮拠点設営などなど、すべてはこのフィエルテの手配によるものであると、キールたちは初日のポート・レウラで詳細を聞いている。
「おかげさまで、ここまで難なく到達できました」
と、キールが挨拶をする。
「こちらが『英雄王』リヒャエル・バーンズ陛下です。リヒャエルさま、先の遠征の折にお世話になったエルルート族の剣士フィエルテさんです。今回の差配は彼の手によるものです」
「――リヒャエル・バーンズだ。世話を掛けたな?」
「初めてお目に掛かります。フィエルテ・ローズブラッシュともうします。道中つつがなくお過ごしいただけましたでしょうか?」
という紹介から、すこしだけ話をした。
ジダテリア山は、完全に鎮静化され、新たな脅威はその後生まれていないという。
とはいえ、魔族の出現が無くならないのは、いわばこの世界の共通常識であり日常だ。ただ、このエルレア大陸は「北の大陸」よりは魔族の出現頻度も低いと『翡翠』は言っていた。
フィエルテは、ジダテリア山攻略の功績を認められ、統一王朝政府軍司令に任じられたという。師団兵団長から一つ上がって、三つの兵団を指揮する立場になったらしい。三つというのは、「調査兵団」「魔術兵団」「近衛兵団」の三つのことだ。
「兵団長! ご挨拶を!」
というフィエルテの声に反応したのが新任の調査兵団長なのだろう。
「ルクレツィア・ナイリーと申します。キール様、ティット様、キューエル様とはさきのジダテリア山攻略の折に一緒に戦線に立たせていただいておりました」
と、進み出て挨拶をしたのは(人間で言えば20代前半の)美しい女性エルルートだった。




