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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第41話 キールの魔法、アステリッドの魔法

 キールがヘラルドカッツへ来てからあっという間に月日は流れた。


 毎日が同じルーティンの繰り返しだ。

 朝起きて朝食を食べ、支度をしたら、ケリー農園へ出勤する。昼過ぎてしばらくしたら店の片づけを始める。夕方日が傾く前には店を閉めて農園に戻って仕事は終わりだ。

 そこからカインズベルク大図書館に向かう。

 大図書館の個人部屋で魔法書の解読を進める。数時間したらネール横丁へ行って夕食を食べて下宿宿に戻って少しお喋りしたり風呂に入ったりしたあと、部屋に上がって寝る。


 数日おきにアステリッドが大図書館にやってきては、一緒に魔術書の解読にあたってくれた。

 そのおかげで、解読作業は少しづつ進み、いくつかのワードの意味も理解できるようになり、虫食いのように読めるようになったが、言葉のつながりが全く見えず意味が不明のままだ。

 どうやら、文法も今とだいぶん違うようだという事がおぼろげにわかってきた程度だ。


 語句は理解できても文法が違えば意味が全く違うものになる。


 そもそもどうして最初の4つの魔法は理解できたのか?

 いまだにキールはわからなかった。なぜかその4つの魔法の記述だけは「読めてしまった」のだ。

 しかし、その4つの魔法の記述はすべて共通点がない言語で書かれているかのように語句スペルに一切共通したものがないのだ。


 4つの魔法――。

『魔法痕跡感知』、『音声遮断』、『魔法痕跡消去』、そして『幻覚魔法』。

 

 この4つの魔法の記述はすべて語句スペルが共通していない……。


 つまり、4つとも違う言葉で書かれているのではないか? ふとそんな感覚が不意によぎった。

 そんなことがあるのか?

 一冊の書物にページごとに言語が違うもので書かれているなんて――。


(おいおいおい、冗談だろ? これってもしかして、全部異言語なんじゃないか? そうだとすれば共通語句が同じものを指すとは限らない。つまり、同じつづりでも意味が違って、文法も違うって、そんな――)


 もしそうだとすれば、この書物全部の解読なんてほぼ不可能に近いことになる。


(そう言えば、『魔法痕跡感知』って基本的な魔法だと思うけど、ミリアも使えるって言ってたし。まさか、詠唱が違うとか、あるのか?)


 じゃあ、『傀儡』と『引金』はどうして解読できたのだ?

 慌ててそのページへ戻って解読作業の行程を調べると、あることに気付いた。


 『傀儡』は『魔法痕跡消去の語句』と『音声遮断の文法』、『引金』は『魔法痕跡感知の語句』と『幻覚魔法の文法』が組み合わされている――。


(なんてことだ、くそ、ボウンめとんでもないことをやってやがる――)






「え? 詠唱が違う? ですか?」

アステリッドは目を丸くして聞き返した。


「ああ、同じ魔法効果だけど詠唱が違うってことあるのかな?」

キールは真剣な表情でアステリッドににじり寄る。


(ちょ、キールさん、ち、ちかいですぅ――!)

とどぎまぎしながらも、出来るだけ平静を装ってアステリッドは言葉を返す。


「そ、それはあるかもしれません、ね。今でこそこの世界には共通語というものがありますけど、この言語の起源は2000年ほど前だと言われているんです。もしそれより以前に言語が存在していて、各国や地域で別の言語を使っていたとして、なおかつ、魔法も存在していたとしたら、「詠唱」が違っても「効果」が同じという魔法も存在するのかもしれないですが――」

アステリッドはあくまで仮説として答えたのだ。


「アステリッド。君は魔法痕跡感知の魔法は使えるのかい?」

キールがアステリッドに唐突に聞いた。


「え? ええ、その魔法は初等魔術学院でも習う基本術式ですので、当然私も使えますけど。キールさんも使えますよね?」

アステリッドはさも当然かのように聞き返してくる。


 そうなのだ。キールも同じ魔法を使えるのだ。しかし、重大な()()()がある。


――キールは初等魔術学院などという現代の魔術学校で習ったものではないのだ。独自にこの『総覧』から学んだものなのだ。


「アステリッド、その魔法ここで使ってみてくれないか?」

「こ、ここでですか?」

「ああ、魔法感知程度なら特に他には影響を与えることはないだろう?」

「ええ、まあ。分かりました、じゃあ行きますね――」


 そう言うとアステリッドは詠唱をゆっくりと丁寧に唱え始めた……。


「発動確認しました。これでいいですか?」

アステリッドがキールに問いかける。


「ああ、ありがとう。ようやくわかったよ。そうか、そういうことだったんだ。ようやく、一つ前進した気分だ。なぜ今まで気づかなかったか、そりゃあ気付くわけないんだ、これまでの経験で詠唱を高らかにはっきりと唱えあうなどという事はほとんど皆無だったのだから。まさか同じ術式だと思っていたものが全く違う術式だったなんて――」

キールは目を輝かせて晴れ晴れとしていた。


 対照的にアステリッドは怪訝な顔でキールを見つめていた。


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