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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第409話 ミリア、罪人になる

 もちろんミリアはすでに、この国の国家魔術院が放逐されていることを知っている。知っててなお知らないふりをしただけである。


「――ミリア様。この国の国家魔術院はすでに解体されております」

「解体? ――しかし、そのようなことは今初めて聞きましたが、いつのことですか?」

「一月ほど前のことです」

「そう、ですか。それではこの国の魔術師の管理はどちらが為されているのです?」


 というやり取りを、灰色フードの近従、ヒュッケンと行った。

 ヒュッケンは、少し言いにくそうな面持ちで、

「実はミリア様を前に大変申し上げにくいのですが――。我々フロストボーデンは魔術師をそれほど評価しておりません。ですので、魔術師を管理することを止めることとしたのです――」


と、ここまで言った時だった。


 謁見の間の扉が開くと、衛兵が声を発した。


「ヒュッケン様! 侵入者です! 城内に複数人の魔術師と思われるものが侵入いたしました!」


と、その衛兵が言った。


「魔術師だと? 早く探すのだ!」

と、ヒュッケンは慌てて返すと、

「ミリア様、謁見はここまでとさせていただきます。申し訳ありませんが、お引き取りを――」

「しかし、侵入者がいるのでしょう? 陛下をお守りするのを手伝います! ここは広すぎて魔術師に狙われたら厄介です。部屋を移りましょう」


 そう言って、ミリアはすかさず国王に歩み寄り、その脇に手を掛け立ち上がらせる。

 国王はあまりに従順にそれに従った。ミリアはここで確信した。

(やはり、『リーキの葉』の影響じゃないかしら。この国王、何にでも「イエス」と答えてしまう精神状況なのだろう――)

 つまり、判断能力が無い状態になっている、と言っていい。


「あれは、寝室への扉ですか!? 寝室へ移りますよ!」

ミリアは有無を言わさず、国王レイバンの腕を引いて、「あらかじめ《《聞いていた》》扉」を目掛けて駆け出す。国王も腕を引かれるままに従って駆けだした。


 判断能力は失われているが、運動能力はしっかりしているようで、レイバンもかなり俊敏に動いてくれている。そもそもこの国王、それ程の年齢ではない。おそらくのところミリアの父ウェルダートと同年代ぐらいのものだろう。


 ヒュッケンも、このミリアの動きに若干翻弄されている。ミリアは相手が状況を把握する前に「計画」を進めるところまで進めたいと思っていた。


「ヒュッケン殿! 陛下は私にお任せを! あなたは侵入者の捜索をなさってください!」


 そう言い切ると、ミリアは寝室の扉を閉めてしまった。


「あ! ミリア様! なにを!?」

ヒュッケンの慌てた声が扉の向こうから少し漏れ聞こえた。さすがにそろそろ察知されても仕方がないだろう。

 ミリアは寝室の扉の鍵をさっと閉めると、壁面のガラス扉前のカーテンを大きく開いた。そのガラスの向こうはバルコニーだ。


「陛下! 逃げますよ! バルコニーへ!」

「ああ」


 『リーキの葉』の影響なのか、状況を察しての答えなのかはミリアには判断しかねる。が、レイバンがミリアの意図に従ってくれているのは間違いない。


「ジョド!! お願い!」


 そのミリアの声に反応した腕のブレスレットが輝くと、バルコニーの向こうの空中に炎竜の姿が現れる。


 ミリアはレイバン国王の手を引いて、ジョドの背に移る。


「陛下、しっかり掴まってください! いいですか? 動きますよ?」

「ああ、だいじょうぶだ」

「ジョド、行って――!」


 こうしてミリアは国王レイバンを城から「拉致」することに成功したのだった。



 ようやく、隣のバルコニーから寝室のバルコニーへと駆け付けたヒュッケンが、こちらに向かって何ごとかを叫んでいるが、すでにかなり離れてしまっていたので何を言ったかは判別できなかった。

 ただ、間違いなく、危機を避けてくれたことに対する「感謝」ではなく、レイバンを連れ去ったことに対する「怒り」の声だったように見えた。


 ジョドはミリアとレイバンを乗せて、城から遠ざかって行った。目的地は昨日の教会だ。

 おそらくこと絡繰からくりにそろそろヒュッケンも気が付く頃だろう。そうなれば、レイバン国王の居所もすぐに判明する。

 それほど時間が掛からないうちにヒュッケンたち「灰色ローブ」の軍団が、教会へ押し寄せるはずだ。


 もし衛兵隊を連れていればその時は、正気に戻った国王に活躍してもらおう。「灰色ローブ」たちだけなら、全面対決になるだろうが、こちらには炎竜ジョド氷竜べリングエルの2頭がいる。


 しばらく空を行くと、眼前に教会の屋根が見え始める。


 「衛兵」に化けていたケリー・グラントはどうしただろうか。ちゃんと脱出できているのだろうかと、少し気にはなったが、ミリアも感知できないような隠密スキルを持っている彼のことだ、そう心配するほどのこともないのだろうと思い直し、それよりも、自分が犯した「犯罪」のとがをどうしようかと考え始めていた。

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