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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第408話 王城の奇妙

 翌日のこと。


 ミリアは昨日示し合わせたとおりに、朝から王城へと向かった。王城の開門時間は午前10時となっている。


 王城の門衛に用件を伝え、しばらく待っていると、入城の許しが下り、謁見の間へと案内される。


 フロストボーデンの王城は多階層形式で、謁見の間は地上4階に位置している。そこまでは階段を上がってゆくしかない。ミリアを案内しているこの男もラーデンフォウル教のものなのだろう。灰色のフードローブを頭からすっぽりとかぶり、その裾は地面に引きずるほどの長さだ。


 見たところ、この城内には「2種類」の者たちがいるようで、一つはこの案内役のようなフードローブをかぶっているもの、もう一つは衛兵服を身につけ剣を装備しているものである。

 例えば「使用人」のようなものはまだ見かけていない。


「案内役殿、このお城には『使用人』のようなものはおいでではないのですか?」


 ミリアは少し前を歩く男に声をかけてみた。


「国王陛下の身の回りのお世話や城内の仕事はわたくしども「ローブ衆」が行っております。ですので、「使用人」も兼ねております」


 なるほど。確かによく見ると、「ローブ衆」の中には男性だけでなく女性もいるようだ。


「この扉の向こうが謁見の間です。ミリア様、()()()()()を預からせていただきます」


 そう案内役が告げた。

 ミリアの腰には、短杖『大地の恵みグナーデ・デア・エルデ』が刺さっている。

 

 まあ、渡したところで魔法が使えなくなるわけではないのだが、「この後のこと」を考えると、ここで渡すわけにはいかない。


「案内役、私はエルレア大使館長の「使者」であると言いました。今の私は両種族を橋渡しする役目を担っております。つまり、()()()()()()には縛られるものではありません。残念ですがその要請にはお応えできかねます――」


――もしどうしてもと言われるのなら、力ずくで私の腰から奪うしかないでしょう。


 と、言い放つ。


「失礼いたしました。通常謁見の間へは武器の類いは持ち込み禁止となっておりました故――。ですがこれはあくまでも、任意でのもの。どうしてもとおっしゃるならそのままで結構でございます」

と、案内役は返してきた。


「恐れ入ります。魔術師にとっての杖は、衛兵の制服、執事のペンのようなもの、そう御理解いただきたく存じます」

そう言うとミリアは謁見の間への扉に手を掛けた。



 謁見の間に入った瞬間に、ミリアは違和感を感じた。


――甘い香りがする。


 ミリアは即座に短く術式発動を行う。大々的にこの場で魔法を使うわけにはいかない為、全身に薄い空気の膜を張るにとどめた。防寒や耐熱などによく使う魔法の簡易版だ。


 展開すると、その「甘い香り」は感じなくなったため、おそらくのところ気のせいというわけではない。


 それに、昨日の話の中で、そのことについても言及されている。


『謁見の間には、リーキ草のお香が焚かれています。通常、リーキ草はお香としてもつかわれるものでありますので、これに違和感を感じるものはほとんどいないでしょう。しかし、王城で使用されているのは、ラーデンフォウルどもが品種改良したかなんらかの細工がしてあるものです。長時間それにさらされ吸引すると、異常に判断能力が鈍り、相手のいうことに抗えなくなる傾向が出てきます――』


 なるほど、彼ら「自称」国家魔術院の者たちの主張通りのことが起きている。ミリアはそれを確認しつつ、国王の眼前に進み出た。




「――要請の件、了承いたしました。これまでも我が国はエルルート族に対して供与するものを厳しく取り締まってきております。我が国はこの大陸最北の国家。遠き南の国へ渡るには大陸を周回せねばなりませぬ。この立地条件でエルレア大陸へと赴くのは現状はほぼ不可能、船も持ち合わせておりませぬし、今後も船を導入することはないでしょう」


 と、国王レイバン・フロストボーデンではなく、侍従長の灰色フード男、ヒュッケン・ジンザが応じた。


「わたくしは陛下のお言葉を確かめに来たのです。側近の方のお言葉ではありません」


 ミリアがそう毅然と返すと、ヒュッケンは国王の方へ顔を向けて頷いた。


「了承した」


 と、国王レイバンが短く言った。


(なるほどたしかに様子が変だわ――。謁見の間にいるのがお二人だけというのも気になるところね――)


――計画を実行するのが「良」のようね。


「ありがとうございます。これで安心して大使館長のもとへ帰れます。――ときに陛下、こちらの国家魔術院はどちらにあるのでしょう? 私も魔術師であります故、お近づきの御挨拶をと思っておりますので――」



 このミリアの言葉が、合図だった。


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