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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第402話 国家魔術院の役割

 レイモンドは、ニデリックを見返し、このままで会談を終わらせて良いものか、数瞬、思案した。

 が、適切な質問や言葉がすぐに出てこない。ようやく出た言葉は、これであった。


「メストリルの魔術師の素養の高さには驚愕いたしております――」

と、レイモンドは前置きをしつつ、

ことに、ミリア・ハインツフェルト殿は幼少のころからその素質を開花させ、たゆまぬ努力と研鑽の果てに今では『七彩光しちさいこう』と冠せられる魔術師となられました。後学こうがくの為、そのような優秀な才を育てるため、どのような点にお気遣いされているのか、伺ってもよろしいでしょうか?」


 言ってしまった後、あまりに社交辞令が過ぎた軽い言葉だったかと後悔した。

 

 が、ニデリックの反応は柔らかく温かだった。


「ミリアは本当にいい子です。まっすぐで負けん気が強く、自分に厳しい。これらは魔術師において必要な素養だと、私は思っています。しかし、それだけではあそこまで成長したかどうか、私は彼女をあそこまで引き上げられていたのかと自問しております――」

そういうと、ニデリックはやや自嘲気味に微笑んだ。


「キール・ヴァイス――ですか?」

と、レイモンドが問う。

「ミリア殿とキール殿の関係は知る人ぞ知る関係です。人が人に惹かれるのは世の常、ただそれだけであれほどまでに成長されるものなのでしょうか?」


 ここで一旦言葉を切ると、レイモンドはさらに続けた。


「キール殿は今や『稀代きだい』とうたわれ、現代魔術師最高の素質を有する超絶魔術師。しかし、その魔術師の素質を開花させてからまだ10年にも満たないとか。一体そのような魔術師がどうして各国の目に留まらずいきなり出現したのでしょう?」


 ニデリックは、その言葉を受け、数秒、思案しているようだった。


「――わかりませんね。わたしも彼を認知した当初は、「見逃し」を疑ったのです。が、いくら調べさせても結局はどうして「漏れた」のか、不明のままでした。つまり、生まれながらに魔術師の素養を持ち合わせていたわけではないのではないか――と、最近は思うようになりました」


「――突然、魔術師の素養が芽生えた、と?」


「――そう考えるしか、説明がつかないのですよ。まったく、彼に関しては謎だらけです」


「そう、ですか――」

と、レイモンドは返す言葉を探す。しかし、それに対する言葉は何も出てこなかった。そこで、

「もし――、キール・ヴァイスが私のもとへやってきて、私と面談するようなことになったら、普通の魔術師の私など、相手にされるものでしょうか? 彼はすでに、ウォルデランのゲラード・カイゼンブルグ卿やシェーランネルのリシャール・キースワイズ様とも親交が厚く、また、『英雄王』リヒャエル・バーンズ陛下のパーティメンバーでもあり、『翡翠の魔術師』ジルメーヌ・アラ・モディアス様とも親しいと聞いております。もちろん、あなた様もそのお一人です。そんな超級魔術師ばかりと親交が厚い若い魔術師が私になど興味を持つものでしょうか?」

と、問い返してみた。


「――キール・ヴァイスは必ずやってきますよ。――まあ、すぐにではありませんがね。今彼はエルルートの地エルレアへ向かっています。ですから、早くても一月ほど先のことになるでしょう。さて――、それではそろそろいとまをいたします。レイモンド院長、いいお話でした。とくに、あなたの魔術師世界の安寧に関する考察は見事です。長い道のりになるでしょうが、出来れば成し遂げたいものですね――では」


 そう言ってニデリックは立ち上がった。


 

 レイモンドは魔術院の玄関まで送り届けたところで、ニデリックの「非公式ですのでここで結構です」という言葉に甘え、その場で見送ることとした。


 レイモンドはニデリックが遠ざかり、人波の中に消えると、一礼して踵を返し、院の中へと戻った。

 

(この先、私は彼らと協力し合いながら、新しい魔術師の世界を作り出していかねばならないのだろう。そもそも、幼少期に魔術師の素質検査があって、そこで見出されたものは魔術院の保護を受けることができるなんてのは、ただの口実だ。すべては国家が優秀な魔術師を国外へ流出するのを防ぐために監視するために他ならない)


 しかし、それはそれほどに「魔術師の力が強力である」ということでもある。魔術師一人は一個小隊ほどの戦闘力を持つと言われる。そんなものたちが、魔術院の監視もなく野に放たれたら、おそらくあっという間に世界の秩序が崩壊してしまうだろう。

 このような豊かな自由経済思想の世の中になっても、裏では、各国の国家魔術院が諜報活動を張り巡らし、粗暴魔術師を「排除」し続けていることは、魔術師の間では周知の事実である。


 魔術院というのはそういう機関なのだということを知る一般のものはそれほど多くはない。

 表では、きらびやかな魔術院制服を着こなし、重要人物の護衛にあたり、政務に的確な意見を述べる。そう言った「日のあたる部分」にばかり目が行く。


 しかしながら、こんな世界になっても、魔術師の力は一般人にはどうにも対応できない程に強力が故に、粗暴魔術師による強盗、強姦、脅迫、そして殺人などという問題はまだまだ多い。

 

 魔術師を取り締まるのは魔術師――。


 これが、そもそも国家魔術院が各国に存在する理由である。


(たしかに、長い道のりになる――。我々の世代だけで成し得るものだろうか――。ニデリック様、あなたはどうするおつもりですか――)


 問いかけることができなかった「問い」の「答え」はいつか見せてもらうことができるのだろうか、と、レイモンドは考えていた。

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