第27話 新しい拠点を見つけました
キールは適当な場所に下宿宿を探すことにした。
カインズベルクにも大学はある。しかし、もちろんそこへ通うことは出来ない。編入手続きをしているわけではないし、入学試験を受けたわけでもないからだ。
入学試験は毎年どこの国も2月の上旬頃に実施される。
つまり、今年の分はもう終わってしまっているのだ。
次の入試は後期編入試験があるが、それを受験するためには前の大学の在学証が必要だ。それに、編入試験の履歴は元の大学にも記録される為、それでは、メストリルを離れた意味がない。
仕方がない――。一年ほどはこのまま浪人暮らしをするしかないか――。となると、さすがに持ち合わせの資金だけでは食べていけない。何か仕事を探さないとな――。
道行く人にまずは、定宿を探しているが斡旋してくれるところはないかと問うと、それなら、その先の案内所へ行けと教えてくれた。
言われるままにそこへ向かい、案内所で一軒の下宿宿を紹介してもらった。
紹介状を持って、その宿へ向かう。
まあ広くはないが、学生たちが住んでいる下宿宿だという事もあるので、キールがここに入っても特に目立つことはないだろう。
下宿宿の軒をくぐり、屋内に入ると、メストリルの下宿宿と同じような玄関先のカウンターを見つける。
そこから中の管理人室へ声をかけた。
「すいませ~ん。案内所からの紹介状を持ってきたんですけど……」
「はいは~い。ちょっと待っててね~」
恐る恐る声をかけると、中から返事があった。声の感じから、意外と若い女性のようだ。
数十秒ほど待っただろうか。
「はいはいはい、お待たせお待たせ――」
そう言って20代後半か30代前半ぐらいの女性が現れた。キールから見れば10ほど上のお姉さんという感じだ。
「案内所の紹介状を持ってきました。こちらで下宿させていただきたいのですが――」
そう言いながら、紹介状を女性に差し出す。
「ふうん。留学生かな。どこの大学生?」
「じつはまだ大学生じゃないんです。田舎を出るのが都合で遅れちゃって、今年の試験は受けられなかったんで、浪人生ですね。来年入試を受けようと思ってて――」
キールはさらりと答える。
「そうなんだ、で、先にこっちに出てきて一人暮らししながら勉強するってわけね?」
「まあそんなところです」
「――ん。いいわ、部屋を案内するわね、こっちへどうぞ」
「え? いいんですか?」
あまりにもあっさりとした許諾《OK》だったため、思わずキールは上ずってしまった。
「ふふふ。君、面白いね。部屋借りに来たんでしょ? じゃあ決まってよかったんじゃないの?」
「ハハ……、なんかあまりにあっさりとだったんで、拍子抜けしたというか――」
「なるほど。確かに、それ、よく言われるわ。なんか、私の性格? みたいなのよね。ああ、気にしないで。ちゃんと部屋は用意するからね――」
キールはその女性――女将さんなのかな――の後に続いて部屋に向かった。
部屋は2階の一室だった。炊事場の先が部屋になっていて、備え付けのベッドと机、本棚まである。すぐにでも生活が始められるのはありがたい。
「じゃあ、これ、鍵ね。出かけるときはカウンターに預けてね。あと、この階には2人の学生が住んでるわ、隣とその向こうね。仲良くするのよ、喧嘩は駄目だからね」
「あ、はい。ありがとうございます。これだけ揃ってると助かりますね。えっと……」
「ああ、私? わたしはここの女将のメイリンよ。メイリン・ファーガス。よろしくね、キール・ヴァイスくん――」
女将は紹介状に目を通した時に名前を確認したのだろう。すでに覚えていてくれた。
「よろしくお願いします」
――――――
荷物を、机と本棚に取り敢えず押し込んで、部屋を出る。
まずはこの下宿宿の構造を確認しておこうと思ったのだ。
キールの部屋がある2階は廊下の右片側に扉が4つ。つまり4部屋ということだ。その一番手前の階段側の部屋がキールの部屋だ。つまり、さっきのメイリンさんの話だと、一番奥の部屋は誰もいないことになる。
隣人がどんな人なのかは気になるところだが、学生ならこの時間はまだ学校だろう。階段はさらに3階へ続いているが、階段の先は屋上への扉になっているようだ。キールはその扉を開けてみた。なるほど、おそらくベランダになっているのだろう。物干し竿が置いてある。あと、木のテーブルとベンチ、スツールもある。3階なので、柵が設けてあるが、その向こうには街並みの屋根が続いている。
(ほお、これはなかなか――)
いい場所だ――。ここなら確かに誰にも邪魔されずに静かに本が読めるかもしれない。
キールはベランダを後にして階段を降り、そのまま1階へと向かった。1階は階段の踊り場からまっすぐに廊下が伸びていて、階段のすぐ前に化粧室と浴室、少し先の左手に玄関、その隣がメイリンさんの部屋だろうか。そして向かいに大きな部屋がある。おそらく食堂だろう。
食堂へ向かってみたが、人影はない。食堂の奥にはたぶん厨房があるのだろう。食堂の壁にはいくつかメニューが貼ってあるので、食事も頼めば作ってくれるのかもしれない。
(――と、これで終わりだな。てことは、住人は僕以外に女将のメイリンさんと、あと2人ってことかな――)
取り敢えずのところ、落ち着けそうだ。あとは仕事を探さないとだけど、それは今からでは時間が無いから明日にするとして――。
(とりあえず、夕飯のこともあるから、街に出てうろついてみるかな?)
そう考えたキールは、カウンターからメイリンさんに声をかけて鍵を預けた。
その時にメイリンさんに質問をしてみる。
「すいません、この街に、書庫とか図書館とかそういうのってありますか?」
キールのその問いかけに対してメイリンさんは、やや驚いたような表情をしてみせた。




