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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第22話 氷結の魔術師

 立春祭の夜の話だ。


 ニデリック・ヴァン・ヴュルストは貴族たちが集まる夜会に出席していた。

 毎度この夜会というものは彼にとってはあまり楽しいものではない。


 というのも、『氷結の魔術師』という二つ名で呼ばれるこの国家魔術師のトップに君臨する男は、いまだ40歳にも満たない青年だったが、まだ未婚で許嫁も取っていない。つまり、なにかと彼の立場を利用しようという貴族どもが、やれ自分の娘だの、やれ遠い親戚の娘だのと言っては縁談を持ち掛けるのが恒例になっていたからである。

 中には、見覚えのあるような女が別の貴族に伴われてくるようなこともあったほどだ。つまり、その女は名前と化粧を変えて現れているか、もしくは、パトロンの方が変わったのだろう。

 女と貴族、どちら側からの提案かは知る由もないし、興味もないが、いずれにしてもそのようなことが繰り返されるだけの会合だ。

 ただ、立場上、これに出席する義務があるから出ている――。それだけである。


 そんな退屈さを紛らわすものが一つあるとすれば、彼女の存在であろうか。


 ミリア・ハインツフェルト。


 今年から王立大学へ通っているらしいが、最近さらにその美しさに磨きがかかっているようにも見える。

 誤解を招きかねない為断っておくが、ニデリックはミリアを女性としては見ていない。いうなれば、年の離れた妹のような存在のように思っている。ただし、ミリアからすれば自分はただの魔術院の長であり、彼女の上司、あるいは先輩としてしか見られていないだろうことはわきまえている。


 ただ彼女の成長がとても愉しいのだ。

 魔法の腕も最近かなり向上している、彼女のクラスは「上位」、錬成は「3」であるが、それは現状のことだ。

 ニデリックはおそらく将来自分を超えるとすれば、彼女をおいてほかにはないだろうと密かに見ている。彼女はまだ若い、それに可能性の片鱗も匂わせている。この先もしかすれば、クラスアップや錬成力の向上も見込めるかもしれない。

 そしてあの容姿――。

 そうなればおそらく王国史上最高の魔術師となり、国家魔術院の象徴ともなるであろう。

 ニデリックはそういう意味で彼女を「溺愛」していると言ってもよかった。


 そんな彼女にしばし目を奪われている時だった。

 不意に、ニデリックへ耳打ちした者がある。秘書官のネインリヒだ。


(院長、お楽しみのところ申し訳ございません。少し妙な事件が起きました。急ぎ現場へ赴いていただきたいのです――)

小声でそのように言ったネインリヒの表情はややかたく見える。


 わずらわしい夜会から抜けられる口実は出来たものの、彼女ミリア正装ドレス姿が見れなくなるのは少し残念でもある。

 しかし、それが自分の役割だ。自分の役割には常に誠実でありたいとニデリックは常々思っている。


 やや後ろ髪を引かれる様な気持ちを残しつつ、ニデリックはこの会の今回の主催貴族にだけ挨拶を済ませ、その場を辞した。




「ネインリヒ君、いったい何があったのだ?」


「おそらく魔法です。ただ、少し妙だというのです。王国兵から魔術院へ連絡が入り、担当魔術師が向かったのですが、少し妙だということで、お忙しい中、院長へとお知らせしたという事です」


「なるほど。今日の担当魔術師は誰だったか?」


「メリードです」


「ああ、メリード君か。ふむ、彼ほどの知者をもってしても釈然としないというのは、確かに妙な話だな――」


 夜会に出ていたとはいえ、出席は公務の一環である為、魔術院の制服で出席していた二人は、表で待っていた王国兵と共に現場へ向かった。


 

 問題の現場は繁華街のど真ん中だった。

 そこにひと際趣味の悪い意匠を凝らした店がある、いわゆる「花屋」だろう。

 ニデリックは全く興味がわかない場所だが、それなりの貴族も《《ひいき》》にしている売春宿があるとは聞いていたが、それがこの店なのだろう。


(たしか、店のオーナーは、エドワーズ・ジェノワーズとか言ったな――)

 

 そんなことを思い起こしつつ、香水や化粧品のにおいが立ち込める店内へ3人は入っていった。


 小さい扉から従業員専用区画へ入り、その先の階段を上がって2階へ上がるころには明らかな異臭が鼻を突く。明らかに焦げた臭い、それから、これは生き物が焼けた臭いだろう。

(なるほど、『火炎フレイム』による焼死というところか――)


 2階の一番奥にその部屋はあった。

 中には数名の王国兵と、先についていたメリードの姿があった。


「メリード、待たせたな。院長をお連れした――。なにがあった?」

ネインリヒがその魔術院の制服の男に声をかける。


「ああ、院長。お忙しいところ申し訳ございません。少し私には手に負えないものだったので――」

メリードが言うより早く、すでにニデリックは現場の観察を始めていた。


(「火炎フレイム」と「風流ウィンド」……、「火炎放射ファイアーブロウ」だろうな。それで一体目の被害者を攻撃したのだろう、しかし、自分にまで延焼していながら術を解かないというのは――)

 

「たしかに、妙だな……」 

ニデリックが呟く。


「はい、自分に延焼してまで術を発動し続けるでしょうか?」

メリードも使用された魔法の痕跡は追跡できているようだったが、どうしてこうなったのかがわからないし、不審だったのだろう。


「ん? あと2つ、いや3つか、なにかの魔法痕跡があるな……だいぶんと薄れてはいるが、確かにある。しかしこれは、なんだ――?」


 ニデリックは自分が分析できない魔法など存在するのかと訝しんだ。

 もし存在するとすればそれは自身のクラスより上位の術式か、あるいは未知の術式のどちらかだろう。


「これは、実に興味深いね――」

ニデリックは口角を少し上げて、笑ったように見えた。

 

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