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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第100話 対決の時迫る

 しかし、そりゃあいつか来るだろうとは思ってたけどね――。


 キールはそう思いもした。

 ルイがこれまで自分に何も言ってこなかった方が不思議なのだ。ルイの親父さんに対しては、「僕個人」としては、なにも恨みに思うことはなかったのだ。僕もまさかあの魔術師の依頼主がルイの親父さんなんて思っても見なかったのだから。

 でも、僕を殺すために刺客を差し向けたことは事実なのだ。

 あんな展開はさすがに予想はしていなかった、すこし脅かせればいいと思っていただけだ、とは言わない。


 それは自身の身を護るために必要なことだったと、今でもそう思ってはいる。だが、客観的に事実だけを切り取れば、「僕の行動の結果、ルイの親父さんが死んだ」ことは変えようのない事実なのだ。


(と言っても、事実を話して信じてくれるかどうかなんて、もし仮に信じたからと言って、なるほどそうでしたかと、聞き分けの良い返事をもらえるとは思えないよなぁ――)


 キールはベッドに仰向けになり天井を眺めながら思案している。


(はあ、気が進まないけど、やっぱり「《《やる》》」しかないよねぇ――)


 そうと決まれば、段取りをとらなければならない。まずは、ルイの裏にいるやつを炙り出さなければ。おそらくそいつがルイを使って接触してきたのだろう。そのぐらいのことは見当がつく。

 それにそいつとあの魔術師もおそらく関係者だろう。仲間か家族か、そんなところか。

 とは言ってもあの魔術師の素性など調べようがない。その線からルイの裏のやつに辿り着くのは不可能だ。


(となれば、結局それしか方法はないってことだなぁ――はあ、気が進まないなぁ)


 しかし、鉄は熱いうちに打てともいう。このままのらりくらりとしていても、逆に裏をかかれる準備の時間を与えるだけだ。


 今夜やる――。


 しかし今すぐというわけにはいかない。もう少し時間をおいてからにしよう。国家魔術院と「契約」を交わしてからというより、カインズベルクにいたときからもそうだったが、僕には監視がついている。おそらく今しがたの出来事もネインリヒさんか院長の元に報告に行くだろう。

 取り敢えず灯りを消して、寝ることにする。報告に向かってくれればあるいは監視を外せるかもしれない。まあそうでなかったらそれはその時だ。


 数時間後――。

 キールはベッドから身を起こし、衣裳棚からフード付きのローブを取り出すと、それを羽織って夜の王都へと向かうことにした。街道はもう闇に包まれている。



******



 ルイの娼館に辿り着いたジルベルトは、そのままづかづかといつも通りルイの部屋まで入っていった。

 部屋には先についているルイが体を縮こまらせて、ソファに腰かけている。

 ジルベルトが部屋に入ってきたのを確認すると、すこし怯えたようにこう言った。


「あいつが、キールが俺の親父を? ころ、した? のか?」


「ああ、まあそういう事だろう。あいつは魔術師だ。いつからそうなのかは俺にもわからんが、今は間違いない。魔法痕跡があったからな。痕跡消去を使ってはいるが、それはそう簡単に消えないものなんだ。どうしたっていくらか残る。俺ぐらい使ってなければ消えてしまうんだがな」


「はあ、そんなものなのか。いや、そんなことはどうでもいい。どうして奴が俺の親父を殺したんだ、理由がわからない。そりゃ、ちょっと親父と揉めてたような節はあったけど――」


「揉めてた?」


「ああ、キールと親父が初めて会った時、ちょっと親父の様子がおかしかったんだ。2度目に出会った時もそうだった。あの二人が知り合い同士だってことはないと思うんだけど、親父もいろいろとやってきてるから――」


「ちっ、お前ほんとに使えないやつだな。どうしてそれを先に思い出さねえんだよ? おかげで、アイツに辿り着くまで余計な時間を食っただろうが――」


 そう言ってジルベルトはギロリとルイを睨みつけた。


「ひぃっ、な、殴らないで!」

「殴るかよ! お前なんぞ殴っても俺の手が痛いだけだ。まったく、殴る価値もねえ」


 しかし、手は打った。あとはキールがどう出てくるかだ。さすがにこのまま放置しておくという事はないだろう。まあ、もし何もしてこないなら有無を言わさず始末するだけだがな。

 まちがいねえ、アイツだ。そう俺の勘が言っている。本当のことなどどうでもいい。結局は俺の気が晴れればそれでいいのだ。兄貴を殺したやつをのさばらしておくのが気に食わないだけなのだから。

 そいつが兄貴を殺したという事にしておけばそれでいい。それで俺の気は晴れる。


 ジルベルト・カバネラとはそういう男であった。



******



 キールは王都に入る少し手前でフードを被った。

 ここまで最大限に魔法感知を発動しているが、魔法痕跡は近くに反応がない。追われていたり、あとを付けられているという事はなさそうだ。

 

 向かう先は決まっている。

 ルイの娼館だ。

 さすがにああいうところに入るのはすこし気が滅入るのだが、そこは致し方がない。取り敢えずルイに直接会って、「話を聞く」ことにしよう。もしかしたら、その場所で裏にいる奴にも遭遇するかもしれない。


 キールはフードの端を頬にしっかりと引き付けて、顔を隠したまま繁華街の方へと進んでいった。

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