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雨の日に

作者: lohman

彼女に出会ったのは、高校二年の梅雨だった。空はどんよりとした雲が隙間なくうまり今にも雨が降りそうだった。俺は友人の小林と一緒に駅へ向かう。ふと、腕に冷たい水滴を感じた。

「あ、降ってきたかも」と俺がいうと、小林は顔をしかめた。

「くっそお、今日夕方のドラマが最終回なんだぞ!」と彼が言ったか言わないかの時、地面にいくつかの丸い水の跡ができ、それからまもなくして、雨は音をたてて容赦なく俺たちに襲い掛かった。

「おい、隆志、はしるぞ」

100mくらい先にある屋根つきのバス亭まで全速力で走ったが、バス停についたころには上から下までずぶ濡れになっていた。

どうやら、ドラマの再放送はあきらめた方がいいだろう。小林は地面に泣き崩れるまねをしていた。

友人の不幸を笑いながらふと前を見ると、道のちょうど向かい側に赤い白いワンピースを着た女の人が赤い傘を持って立っている。強い雨のせいではっきりとは見えないもののすらっとした美人に見えた。こんなに雨が降り出したのにあの人はいったいあんなところで何をしているのだろうと思ったが、普段は待っていても来る気配もないバスが珍しくやってきて、はしゃぐ小林にそれどころではなくなった。

次の日からは、昨日の雨がうそのように晴れ、赤い傘の女の人のこともしばらく忘れていた。小林は相変わらず夕方の新しく始まったドラマの再放送の話をしていたしされると、高校の授業は相変わらずつまらないままだった。変わったことといえばそれから頻繁にバスを使うようになったことぐらいだろうか。

次にその女の人とであったのは、雨が降る夕方のバス停だった。この日は小林が部活をサボって帰ってしまっていたので俺一人バス停のベンチに座っていた。彼女は道路の反対側のこないだと同じ位置に赤い傘をもって立っていた。今日は雨も小降りでその人の顔をよく見ることができた。その人の目はこっちのバス停の方をじっと見ているようだった。不思議な人だなと思ったがその日もバスがすぐにやってきたので、それ以上深く考えることもなくバスに乗り込んだ。しかしそれからも、赤い傘を持った女の人は忘れたころにあのバス停の前に姿を現した。それも決まって雨のふる夕方だった。

それからまたしばらくして、めずらしく部活に参加した小林とそのバス停にいた。そうするといつのまにやら、あの女が、赤い傘を持って立っている。さすがに最近は気味が悪いなと思っていたので、小林に

「なあ、道の反対側に立ってる女の人気味悪くねえ?」聞くと。

「どこどこ」と、道の反対側をきょろきょろ見渡した。彼女はバス停の間反対にいるのだから気づかないはずはない。俺がちょうど道の反対側だよと教えると。

小林は「あの赤い屋根のほこらの所か?」と俺に聞いた。

背中に寒いものがはしった。おそるおそる目の前を見ると女の人の変わりに確かに赤い屋根のほこらがあった。俺はしばらくのあいだ声を失った。小林は、赤い屋根を傘と間違ったんだよと言ったが、社会人になった今でも俺にはその女の人の顔がはっきり思い出せるのだった。俺はあの日以来そのバス停を使っていない。


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