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第九十六話 人に物を訪ねる時はまず自分から名乗ったらどうだ? 超魔怪将軍ブリザードドラゴンさんよ




 目的の場所までダークライジングサンダーを使って南下すること三時間。南方の街道がもう少し整備されていればここまで時間がかからなかったんだが、魔族領に隣接する内海があるから整備が遅れているんだよな。


 街道が整備されていなければ魔族の侵攻は遅らせられるかもしれないけど援軍を送るのにも時間がかかる訳で、三魔将問題が一段落ついた後でもう少し人員が確保できれば早急に街道の整備に入りたい。


 魔族領に近いからと言ってそこまで禍々しい魔素に汚染されている地域ではないので十分に人は住めるし、あの辺りに港を作ればあの内海のある資源は根こそぎ俺たちの物だしな。


【マスターがまた悪い顔をしています……】


 そこまで領地や資源に固執している訳じゃないが、海産物とかあの辺りの果物なんかは城塞都市トリーニの周辺で採れる物とはかなり違う。


 内海に暖流でも流れ込んでいるのか、いわゆる南国系の魚介類や果物などが収穫できそうなんだよな。


 というか……そんな暖かい海を良く氷で渡ろうと思ったよな。あいつ、前の世界ではもう少し頭がいいと思っていたんだが、三魔将一の頭脳とか言ってたのは記憶違いだったか?


【いえ、確かに超魔怪将軍ブリザードドラゴンは知能が高く狡猾な敵であったと記録されています。こちらの世界に来て長いようですし、そろそろ各部に問題でも発生しているのでは?】


 元の世界の俺もそうだったが、流石にあのクラスの魔怪将には異次元レベルの修復用ナノマシンが搭載されているだろう。


 一瞬で灰にでもされなければ何度か致命的な攻撃でも無効化出来るはずだし、時間が必要だが各部の修復や再生も行う。俺が不死身だのなんだのと言われていたわけだな。


 とはいえ、あいつらがこの世界に来て百年以上か……。封印されている時空大魔怪皇帝サンダーボルトはともかく、他の三人は流石に劣化が始まっていてもおかしくはないか。


【仕様書通りでしたら保証期間外ですね。修理は全額自費になるんじゃないですか?】


 魔怪将のナノマシン発生装置には初めから保証書なんてねえよ!! それにこの世界にはアレを治せる奴なんて存在しないぜ。


 初期不良が起きても平気で仲間を見殺しにするような奴らだぞ。安全装置も含めて何一つ保証されちゃいない。本当にブラック組織だよな。


【やってる事が犯罪ですからね。黒も黒の真っ黒です】


 そっちの意味でも真っ黒だがな。


 闇組織の幹部なんて上からのふわっとした計画に従って自分で計画組んだ上に予算と資材と人員工面して、そして実行段階で大体特殊能力保有生物犯罪対策組織ブレイカーズの密偵に見つかって蹴り飛ばされて爆発するのがお約束だ。


 三徹四徹当たり前の状態で仕事した上にほぼ寝不足でヘロヘロの所に敵に見つかって、準備期間も入れたら数ヶ月近い計画を阻止されたら懲罰が待っているんだぞ。いやほんと、あんなブラックな職場によく一年近くも務めたよ。


【マスターがゾーク・ダース(前職)時代の話ですね……。その頃の事もデータに入っていますし、敵組織の状況なんかもかなり詳しく分かったという事ですが】


 アレの贖罪や後始末にずいぶんかかったからな。


 その甲斐あって今はまじめに領主で商会の頭だ。前世でのやり残しはここでカタを付けておかないといけない。


【さて、そろそろ超魔怪将軍ブリザードドラゴンが乗った氷が見える頃ですが、どうしますか?】


 どうしますかとは?


【このまま上陸させるのかという事です。マスターは携帯型魔導砲をお持ちですし、ここからあの氷を狙撃する事も可能なのでは?】


 久しぶりのあのくそ女の顔を拝んでおこうと思ってな。


 気になる事が一つあるんだが、あいつの気配というか放出される魔怪種としての波動ってここまで弱かったか?


 これだと汎用戦闘種とそこまで変わらないぞ。


【流石に波動を抑えているのでは?】


 汎用戦闘種が倒された事は知っていても、ここに俺がいる事は知らないだろう?


 時空大魔怪皇帝サンダーボルトを封印した勇者とやらを警戒しているのかもしれないが、あれから百年以上経過しているんだ。流石に生きちゃいない。


【この世界にはエルフをはじめとする長寿種が存在しますし、混血などの可能性を考慮すれば百年程度では警戒を解かないのでは?】


 そういえば魔族も長寿だったか。


 周りに若い姿でそのまま生きている奴らがいれば、普通に警戒するって感じかな?


 まあいい、どっちにしろあいつを此処で倒すのは決定事項だ。力を抑えていようが何だろうが、戦いになれば隠す事は無い。


【……上陸しました。データベースの情報と照合。汎用戦闘種が三体、それと超魔怪将軍ブリザードドラゴン本人です】


 人間形態のままだな。


 こちらを舐めているのか、それともあの姿で何とかなると思っているのか?


 流石にこの距離になればこっちに気が付いたようだな。


「そこの魔族、お前は魔王時空大魔怪皇帝サンダーボルト様に仕える者か? それとも愚かな前魔王に忠誠を誓う下級魔族なのか?」


「人に物を訪ねる時はまず自分から名乗ったらどうだ? 超魔怪将軍ブリザードドラゴンさんよ」


「いいだろう。我が名は……、なぜその名を知っている?」


「このやり取りも二回目だが、流石にお前には俺の名はわからないだろう? 当ててみろよ、俺は魔族じゃないんだぜ」


 実は元の世界で最初にあった時も同じような掛け合いをしてこいつをからかったんだよな。


 さて、こいつがその事を覚えているかどうか……。


「誰だ? この世界で出会った者の記憶にそんな姿の奴はいない。元の世界のブレイブ? バーニングブレイブの紅井(あかい)(ほむら)はジンブ国にいる筈よ」


「残念ながら俺はバーニングブレイブじゃないぜ。お前はこの世界であいつと戦った事でもあるのか?」


「ある訳ないでしょ。こんな状態であいつとなんて戦える筈が無いわ」


 ん? 人格データに異常でも起こしたのか?


 こいつはもっと高圧的に人を見下したような話し方をする奴だった筈。


 百年という年月がこいつをまともな性格に変えたのか?


「こんな状態がどんな状態か知らんが、ここで俺と出会った以上お前の運命は一つだけだ。元の世界で貴様が殺した万を優に超える人の無念と、この世界で汎用戦闘種に変えられた魔族の恨みを晴らす為。この俺が跡形もなく消し去ってくれる」


「ずいぶんと吠える。こんな状態でも貴様の様な小僧に遅れはとらないわよ」


「連れて来た汎用戦闘種が三体では牽制にもならんぞ。俺が誰だか分からないようだが、この姿を見て思い出すがいい」


「な……、汎用戦闘種を素手で破壊しただと!! それに……」


 ああ、流石にこのブレスは魔怪種とブレイブには見えるからな。


 ブレス自体はデザインがほとんど同じだし、この距離では細かい仕様が分からないだろう。


「セットアップブレス、深闇(ふかや)零慈(れいじ)


【セットアップ、深闇(ふかや)零慈(れいじ)。アクセス】


 ブレス内のアイテムボックスから二枚のメモリーチップを取り出す。


 新世代ブレス専用のチップで、これ一枚で該当ブレイブの全データがインプットしてある。ただ、基本的にベーシスフォームのデータだけどな。


「魔怪将ゾーク・ダースチップセット、ライジングブレイブチップセット!! フュ―ジョンフォーム」


【フュージョンフォーム】


「これが俺の勇気だ!! ブレイブ!!」


【ブレイブレイジフュージョンフォーム。ダークライジング!!】


 魔怪将ゾーク・ダースの闇の力と、ライジングブレイブの光の力を融合させた新世代型ブレスで変身したこの俺、ブレイブレイジの基本フォーム。


 これでもノーマルブレスで変身したブレイブの十倍以上の能力があるって言うんだから凄まじい。


「そ……その姿はブレイブレイジ!! なぜこの世界に!!」


「元の世界から逃げた奴がいてな。そいつらが此処で悪事を働いてるようなので俺の出番って事なのさ」


「それだけのエネルギー……。バーニングブレイブは弱体化しているという話だが、貴様のその力はいったい」


「それは秘密だ」


 女神ユーニスに感謝するしかないな。


 あれだけ制限をかけて転生しなければ、こうやってこの力をそっくりそのままこの世界に持ち込めなかったという事だ。


 ガキの頃にこの力の半分でもあれば、両親を失わなくても済んだのかもしれない。でも、世界を救う為には選ばなければならない茨の道だったんだろう。


「フリージングブレス!!」


「……手加減しているのか? これだとこんな南方じゃエアコンの風と変わらないぜ」


「ば……馬鹿な。力の差があるとはいえ、この冷気に耐えているだと!!」


「お前がこの程度では本来だったら変身するまでも無かったって訳か」


 なるほど、あの超魔怪将軍ブリザードドラゴンがこの程度か。


 俺の様に制限をかけて転生せずに力を持ち込んだこいつはここまで弱体化したって事だ。


 逆にこの世界で改造した汎用戦闘種は元のスペック通りだからそこそこ強かった。あいつらがあのくらいの実力だったからこいつももう少し強いと勘違いしてたぜ。


「無限粒子加速装置作動!!」


「な……」


 全身を(ヴリル)で包み、光と同じ速度まで加速する。


 例のナノマシンが装備されている超魔怪将軍たちはこの技でいったん全身に光速の打撃を加え、各部に装備されている機能を停止させる必要がある。


 そして……。


「ダークバインド!!」


 加速状態のまま更に闇の雷で拘束し、右足に(ヴリル)と闇の力をチャージする。これで準備は整った!!


「ダークライジング、クラァァァァァッシュ!!」


 光と闇の力を秘めた必殺の蹴り。


 拘束しているうえに俺が光速まで加速しているので、敵はこの技を叩き込まれた事にすら気が付いていない。


 俺が加速を解いた瞬間、闇の力と(ヴリル)神力(プラーナ)が敵の内部を浄化する。数瞬前まで敵だったそれは光と化して跡形もなく消滅した。


「ぁ……」


 最後に残された音が虚空に響き、三魔将の一人である超魔怪将軍ブリザードドラゴンはあっさりとこの世界から消滅する。


 黒龍種アスタロト辺りでも召喚するかと思ったが、こいつがこの程度まで弱体化する世界だ。呼び出したところで汎用戦闘種とほとんど変わらないだろうな。


 苦戦するかと思ったが表紙抜けだった。この様子だと、弱体化している紅井(あかい)の奴も苦労しているだろう……。





読んでいただきましてありがとうございます。

楽しんでいただければ幸いです。

誤字などの報告も受け付けていますので、よろしくお願いします。

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