第九十五話 という訳で俺はこれから魔族退治に出向く。化粧水は何とか今日分はあると思うが後は頼んだぞ
こちらの予想を上回ったというか、ジンブ国の三魔将が片付く前に先にこちらの三魔将である超魔怪将軍ブリザードドラゴンが動きを見せた。
やはり内海の対岸で色々と動いていたらしく、こちらの偵察衛星に引っかかる頃にはすでに内海を半分以上渡った後だったんだよな。
超魔怪将軍ブリザードドラゴンは氷の攻撃が得意だったが、今回は大きな氷を作ってそれを使ってこっちに流れて来るというまさに流氷と呼ぶにふさわしい作戦だった。
【ブリザードドラゴンで流氷ですか。マスターの思考から竜氷というくだらないネタが流れて来たんですが】
気のせいだ。しかし、あんな方法で内海を超えられるもんなんだな。
意外な方法だったし流れてくる物が氷で、しかも当然海面に近いから偵察衛星のレーダーにも引っかかりゃしねぇ。
今回気が付いたのだって、あの馬鹿がせっかくカモフラージュしてる氷の中で力を行使してくれたおかげで、魔怪種特有の波動を関知できたからなんだが。
以前の汎用戦闘種も同じように氷に乗せて送り込んできたんだろうな。というか、こっち側に辿り着く前に海底に沈んでる奴もいるんじゃ無いのか?
「という訳で俺はこれから魔族退治に出向く。化粧水は何とか今日分はあると思うが後は頼んだぞ」
「ちょっ……、今から?」
「今からだ。どんなに遅くても明日の昼頃には戻ると思うが、最悪明日の化粧水の生産は間に合わないかもしれない」
「それは困りますが、リュークさんには領主としての仕事もありますので仕方ないですね。流石に先方もこの理由に文句を言う人はいないでしょうし」
「そうなんだけど……、それでも化粧水の在庫には余裕が欲しいかなって」
在庫があるのか?
最近は限界ギリギリまで生産しているので少しは余裕があるんじゃないかと思っていたが……。
「流石に転売なんかはしていないだろうし、横流しもしているとは思えない商会だ。それでも今後は出荷数の制限を告知するべきだろう」
「制限ってどの位に?」
「週に五百程度。化粧水に関しては原材料が無くなる事はほぼ無いが、それでも無限じゃないんだ。原材料資源の保護の為と言って交渉してくれないか?」
「わかりました。最近はリュークさんに無理ばかりさせていましたし、いい加減にしていただかないと二度と化粧水が手に入らなくなる事もあるんですと伝えておきます」
「助かる。商会の売り上げも大切だが、今は資金の心配をしなくていいレベルで稼げているからな。無理してこれ以上業績を挙げてもあまり意味はない」
化粧水の生産ラインが俺だよりなのが問題なんだが、こればっかりは誰にも変わって貰えないからその辺りで制限して後は緊急時用の在庫として残して貰えるとありがたい。
今回で超魔怪将軍ブリザードドラゴンは倒せるだろうが、魔族の侵攻がそれで終わりっていう保証はないからな。
三魔将を壊滅させれば、後は交渉次第で平和的に解決できる気はするが、この国や周りの国が俺と同じ考えに至れるとは思えない。
魔族は悪だから殲滅すべきだって主張する奴は出て来るだろうし、今まで魔族領と隣接して苦労してきた奴らはこれ幸いと魔族領に攻め込むべきだとか言い出しかねないからな。
「業績が挙がるのはいい事だけど、別にそこまで売り上げに拘っている訳じゃないのよね。給料は十分に出してるし、ボーナスだって年に二回出てるから」
「独立組やオリボに払う役員報酬を考えても、十分すぎる位な貯えがあるからな。今すぐ化粧品とかの販売を辞めても死ぬまで困らないレベルだ」
「化粧品を必要としているひとや、美容商品を愛用している人から恨まれそうです……」
「恨まれるで済めばいいけど」
化粧水に関しては使用をやめてもすぐには元には戻らない。しかし、それでも数ヶ月もすれば少しずつ使用前の状態に戻り始めるからな。
シャンプーやリンスに関してはレシピを公表すれば他の商会でも生産可能だろうが、化粧水に関しては絶対に無理だ。そこがアーク商会の強みでもあるんだが、同時に厄介な面でもあるんだ。
「生産停止は冗談として、何かあれば商会を畳む覚悟位はある。その時は全商会員に退職金を払うから安心してくれ」
「頭って本当に凄いですよね。普通の商会なんて、潰れる時は夜逃げがほとんどですよ」
「うちの財務状況で夜逃げする必要なんて無いからな。もう働かないでいい位の額は渡せると思うぞ」
「退職金はそこまで払う必要はないですよ。給料半年分でも多い位です」
商会を潰す場合でも流石に全額頭割りにはしないが、それぞれに働いていた年数分の給料は最低でも払いたい。その場合は勤務年数一年に対して給料三ヶ月分程度と考えている。
今すぐどうこうするつもりはないし、商会を潰すつもりも無いから仮の話でしかないが。
「いざって時にはその覚悟もあるぞって事だ。それと、最近は土曜を午前出勤にしているが、来月辺りから完全に週休二日制にしようと思う。働き過ぎは身体に毒だ」
「……わかりました。その方向で全商会員に通達しますね。取引先にも伝えておきます」
「頼んだ。それじゃあ俺はそろそろ出るぞ」
偵察衛星の情報だと、超魔怪将軍ブリザードドラゴンが乗った氷はアンドロシュ村の近くの海岸に直進している。
偶然だといいんだが、やつの狙いが各地に潜んだ旧魔王派の可能性も捨てがたい。
オスヴァルド経由でこちらにいる魔族の情報は入るしそいつらがどこまで理解しているかはわかったが、魔族領内にいる奴らが人族をどう考えているとかこちらをどう攻めるつもりなのかは分からない。こちらの戦力は知られていない筈だから、そこまで汎用戦闘種を引き連れていないと思いたいんだがな。
「行ってらっしゃい。怪我だけはしないでね」
「危なくなったら戻ってきてください。リュークさん一人で何とかする必要はないんですから」
「ありがとう。だが、これは俺の仕事なんでな。他の奴には任せられないんだ」
【流石はマスターです。氣残量はマックスですので、変身時間の制限はありませんし、再変身までのクールタイムもありません】
それは助かる。
今回は流石に変身せずに倒す事は無理だろうからな。さて、現時点でのやつの力がどの程度かにもよるが……。
とりあえずダークライジングサンダーを使って向こうに着くのが大体十七時頃。奴らがどの位で着岸するかにもよるが、倒して帰るのは早くても今日の深夜か明日の朝早く……。
前の世界でもよくあった事とはいえ、やっぱり結婚できるような職業じゃないよな……。
【マスターは立派に熟していました。女性に見る目が無かったんですよ】
結婚できなかったのが俺の事だとは一言も言っていないが?
半数以上が結婚できていない訳だし、俺だけが特殊なケースじゃないさ。
今回はブレイブをしながら結婚できそうな気はするが、それはそれで問題なんだよな。
さて、そろそろ本当の仕事に戻るか。この世界にただ二人しかいない、特殊能力保有生物犯罪対策組織ブレイカーズのブレイブとしての仕事に……。
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