第九十三話 ジンブ国からの情報を分析すると、あの国で暴れているのは超魔怪将軍ロックタイガーで間違いないな
今日はオスヴァルドを呼んでジンブ国で暴れている奴らの正体の特定を行っていた。
魔王や三魔将と呼んでいるが、正式には封印されている新魔王は時空大魔怪皇帝サンダーボルトであり、三魔将はそれぞれ超魔怪将軍ファイヤーバード・ブリザードドラゴン・ロックタイガーと呼ばれていた。
やつらは四聖獣をもじったのか死征獣と名乗り、世界各地で超魔怪将軍がその能力に応じた魔怪種を引き連れて破壊の限りを尽くし、とうとう俺たちの所に救援要請が来たんだよな。
その前の半年近い期間敵組織の動きが無く、世界中で魔怪種による被害が出ていなかったので特殊能力保有生物犯罪対策組織ブレイカーズの解体まで話が進んでいた矢先の事件だ。
装備の再整備と隊員の再集結に時間がかかり、結構な被害が出たのだがそれでもいくつかの装備の補充が完了せず、結局奴らを次元の狭間に逃がしてしまった。
その後は例え敵組織に動きが無くても特殊能力保有生物犯罪対策組織ブレイカーズは司令部と装備だけは整備され、人員は極限まで削除されたが一応組織として機能させて貰えた。給料も下がったので土方の様に別会社と掛け持ちって奴も増えたがね。
「ジンブ国からの情報を分析すると、あの国で暴れているのは超魔怪将軍ロックタイガーで間違いないな」
「防御力に優れ、岩獣魔なる部下を操っているそうです」
「硬いのだけが取り柄の敵だ。紅井の奴が不覚を取る相手じゃないが一人で戦うのはきついだろうな」
新世代型ブレスに換装しているはずだしその状態だったら間違いなくバーニングブレイブの攻撃力が上回る。ただ、紅井の氣も無限じゃないし他の再生魔怪種や岩獣魔を連れていると流石にきつい。
そんなことは紅井も十分承知しているから、超魔怪将軍ロックタイガーの討伐にあそこまで時間がかかっているんだろうな。
「勇者紅井では超魔怪将軍ロックタイガーとやらに勝てませぬか?」
「いや、最終的には勝つだろう。あいつはああ見えて意外に頭脳派だ。敵を誘き出して各個撃破するのも、罠に誘い込んで袋叩きにするのもお手の物さ」
「それは頭脳派と言うのですか?」
「頭脳派さ。俺の部下には脳筋が多かったからな。あいつと土方は本当にいい意味で成長してくれた」
それが原因で悪知恵を働かせていろいろやらかしてくれたがな。
書類の偽造や捏造は上官相手に俺もよくやったから仕方がないが、給料日前になると回ってくる領収書の束は毎回巧妙になるから見抜くのが大変だったぜ。
【書類の偽造や捏造も問題なのでは?】
通らない要望を通すには仕方が無い事もあるのさ。
鏡原前司令も予算の獲得には苦労していたそうだし、時たまどこから手に入れたのか怪しい物件なんかも引き取ってきたが、いまだにあれをどうやってうちの部署の所有物にできたのかは謎なんだ。
土方が住んでいた廃棄寸前のマンションも謎だし、ブレイブウイングやライジングウイングに装備させている武装もそうだけど、あの危険物の所持と使用許可は何処をどうやって説得したのやら……。
【普通飛行許可もおりませんよね?】
使用場所が住宅地の上空とかだからな、避難完了した場所とはいえありえんさ。
世の中には知らない方がいい事も多いし、鏡原前司令が何をしていたのかは結局分からないままだったな。
……今は昔の思い出に浸っている場合じゃないか。ライジングウイングがあれば俺がジンブ国に出向いて紅井を助けられたんだが。
「ジンブ国にいるのが超魔怪将軍ロックタイガーだとしましたら、南方から攻めてくる三魔将は誰になりますか?」
「超魔怪将軍ブリザードドラゴンだろう。氷や水なんかの技を得意とした三魔将がいなかったか?」
「確かに居ましたな。あの女が超魔怪将軍ブリザードドラゴンでしたか」
「人間形態は女だな。何故か竜属性の幹部連中は女が多いんだよ。黒龍種アスタロトも女だったし……」
あいつもヒス女だったよな。
土方の事を思い出したから気が付いたんだが、あの当時はそこそこ強い敵だったが新世代後の敵と比べると雑魚だし、同じ竜属性だから再生魔怪種として召喚可能な気はする。
「広範囲の凍結攻撃も強力でしたが、こちらの攻撃が効かぬのが厄介でして」
「ああ、それはきつかっただろう。奴らもそれを承知であそこを攻めたんだろうからな」
「最終的に王都に住む一族は壊滅、この領地に逃げて来た者だけが助かったのですが……」
「それで森に拠点をと考えたが、そうすると時系列がおかしいな」
「あの村や洞窟などを拠点とする者は魔王様が健在な頃よりあの場所で暮らしておりました。主にいろんな物資や素材の確保の為ですが」
オープンダンジョンも普通のダンジョンも常識を無視して色々産出するからな。
それに、オープンダンジョン内などは禍々しい魔素が濃い。魔族が潜むには絶好の場所なんだろう。
長期間籠っていると問題があるそうだが、魔族の場合禍々しい魔素による影響は考えなくていいからな。
「禍々しい魔素が薄い地域で暮らす場合、オープンダンジョン内やその近くで暮らした方が安全という事か」
「そういう事ですな。ダンジョンなどが出来るという事は、その辺りには禍々しき魔素が流れているという事ですので」
「魔族は禍々しい魔素が無いと生きられないのか?」
「ある程度の魔族になれば年単位での活動が可能ですが、そうでない場合は禍々しき魔素の結晶などが必要ですな。安全策として、このようにアクセサリーとして身に着けております」
オスヴァルドが見せてきたのはブラックオニキスの様な宝石があしらわれた腕輪。なるほど、こうして言われなければ気が付かないだろう。
「それは普通の人間が装備しても影響はないのか?」
「飲み込んだりすれば影響はありますな。その後はその者の耐性次第ですが」
「流石に俺クラスになると内部の闇が強すぎて影響はないか。普通の人族だとまずいんだろうが」
「リューク様は闇の力が濃すぎますので、正直魔族よりもよほどに黒き魔素に愛されておりましょう」
「黒き魔素?」
「禍々しい魔素と呼ばれている力ですじゃ。魔族領のどこかに巨大な結晶が存在し、その結晶は意志を持っておると言われておりまして。選ばれた王だけがその力を得るといわれております」
どこにでもありそうな伝説だな。
そんな大層な物に認められるほど、俺はそこまで黒くないぜ。
【まったくです。マスターが黒いのは腹だけですよね】
俺はそこまで腹黒じゃねえよ!!
品行方正を地で行くような部隊運営だっただろう?
【品行方正が聞いたら泣きますよ】
勝手に泣かせておけ。
それはともかく、巨大な魔素の結晶か……。
「三魔将の最後の一人、超魔怪将軍ファイヤーバードはそれを探しているのかもしれないな」
「時空大魔怪皇帝サンダーボルトの封印を解く為ですか?」
「いや、自分が時空大魔怪皇帝になる為だ。あいつはそこまで忠誠度の高い奴じゃない。時空大魔怪皇帝サンダーボルトを上回る力を得れば、自分こそが時空大魔怪皇帝だと宣言して新しい魔王として君臨するような奴だ」
「今でも魔王を名乗れるのでは?」
「他の三魔将がそれを許しはしないし、もし万が一に時空大魔怪皇帝サンダーボルトの封印が解けた時に殺されかねないからな。だからまず奴以上の力を求めるだろう」
これで魔王が封印されたまま空位な訳が分かった。
とりあえず俺のこれからの行動は、南方から攻めて来る超魔怪将軍ブリザードドラゴンを倒し、ジンブ国で紅井が超魔怪将軍ロックタイガーを倒した後で合流。二人で残った超魔怪将軍ファイヤーバードを倒した後で時空大魔怪皇帝サンダーボルトの封印を解いて、やつを倒せば任務完了という事だ。
その後で魔族の王位継承者を探してそいつを王位につかせ、この国との不可侵条約を結ばせて国交を正常化、……こんな所か。
問題はこの国の王がそれを受け入れるかどうかと、魔族がどう出るかだよな……。
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