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第九十一話 魔導扇風機を発売したけど売り上げは好調らしいな。それ以上に好調なのはアルバート子爵家の氷販売だろうが……

この話から新章に突入します。

楽しんでいただければ幸いです。



 魔族が南方から侵攻してくると噂が経ってすでに四ヶ月。季節は夏になり毎日暑い日差しがこれでもかと照り付けてくれる。


【マスターはエアコンの利いた工房や執務室で快適じゃないですか~。商会の殆どの部屋にはエアコンが設置されていますし、快適なのはどこも同じですが】


 そりゃそうだろ。このクソ暑いのにエアコンの無い部屋で仕事なんてできるか!!


 城塞都市トリーニに金持ちが多いといっても、エアコンを導入している商会や貴族の屋敷は少ないけどな。


 うちで働いている商会員の中にはエアコンを購入した者もいるが、多くの領民はこのクソ暑い状況を我慢しているみたいだ。一応暑さを紛らわせる別の魔導具は販売したが。


「魔導扇風機を発売したけど売り上げは好調らしいな。それ以上に好調なのはアルバート子爵家の氷販売だろうが……」


「今かき氷が大ブームだからね。魔導モーターを組み込んだ自動かき氷気も人気だけど、それを手動にした廉価版のかき氷機は各家庭でも大人気よ」


「食用氷の小売りも始まったみたいだしな。冷蔵箱に使うサイズの四分の一位を少し割増しで売っているみたいだ」


 そのままのサイズだと流石に大きすぎるので、比較的小さいサイズでカキ氷用として販売を開始するそうだ。夏季限定らしいが、使用用途が多ければこれから先も同じサイズの氷も生産するらしい。


 他に生産過程で砕けた氷は今まで破棄していたらしいが、ちょっとしたミスでその氷が大量に発生したと聞いた俺がクラッシュアイスとして売り出したらどうかと提案した結果、大変好評らしく酒をはじめソフトドリンク用にかなり安い価格で売られていたりもする。


 各家庭に設置できるくらいに魔導エアコンが安くなればいいんだが、それはまだまだ先の話になりそうだ。


「平和よね。化粧水や理美容品の売り上げもいいし、魔族の侵攻は無いみたいだしね」


「ああ、そうだな」


【実際には汎用戦闘種が何体も攻めて来ているんですけどね~。変身もせずに処理しているマスターが凄いのですが】


 攻めて来たといっても近くに村が無いから被害はゼロだ。


 あいつら程度だったら変身せずに倒せるし、面倒な時は携帯型魔導砲で一掃しているからな。


 これで三魔将の一人が釣れればいいんだが。


【あの汎用戦闘種が攻めて来た方法が謎ですね。偵察衛星であの辺りは監視していましたが、出現するまで存在を確認できませんでした】


 そこなんだよな。


 内海を船で来るにしろ、空路を飛行物体で送ってくるにしても偵察衛星がそんな物を見逃すはずもない。しかも相手が汎用戦闘種だ、そんな真似をすればすぐにこちらのレーダーが感知する。


「そろそろ王都から呼び出しがあるんじゃないの?」


「三魔将の件が片付くまではここを離れたくないんだが……。移動に時間があまりかからなくても、あまり長い期間此処を留守にしたくない」


「高速馬車でも一週間はかかる距離ですよ?」


「いろいろあるのさ。流石にブレイブウイングクラスは持ち出せなかったけどな」


 アルティメットブレイブ専用移動手段ブレイブウイング。アレは元々アルティメットブレイブに合わせて設計された戦闘機だし、後から作られたライジングウイングを持ち出しても整備が大変だから荷物になるだけだ。


 ダークライジングサンダーの整備位はここの機材を使って俺でもできるが、流石に戦闘機クラスは俺一人でどうにかできるもんじゃないしな。


「リュークがおかしいのは昔からだから気にしちゃダメよ。王都に行くときは化粧水が心配よね」


「うちの目玉商品ですからね。一度使うと手放せないと絶賛されていますし」


「コランティーヌ商会とローズガーデン商会からも催促が凄いですし、王都のローズガーデン商会本店からの注文も凄いです」


「一週間出荷を止めますって言ったら怒るかな?」


「暴動が起きます。在庫に余裕のある美容固形石鹸やシャンプー系とはわけが違うんですよ」


 二十万スタシェルの化粧水を買い支えるだけの顧客がいるのが怖い。


 ほぼ無限に金を産出するダンジョンを抱える王族は金を持っているんだろうが、伯爵クラスの領主にこれを定期購入するだけの余裕があるのか?


 オープンダンジョンクラスの美味しい何かを持っているんだったら話は別だが、アルバート子爵家やレナード子爵家の様に金になる魔導具やシステムの登録なんてしていないだろうし。


「化粧水の調合が出来るのは俺だけだし、他の商品はもううちの錬金術師たちで何とかなるからな」


「ファネッサさんが手伝ってくれているからね。彼女がいなかったらここまで余裕はないわ」


「他の人の数倍働きますからね。保湿剤の量産はファネッサさんが頼りですし」


「保湿剤はほとんどの商品に使われているからな。消費する量も凄い」


 原材料はあまり人には見せられないが、実は保湿剤と言っても原材料を変えて数種類存在する。


 海藻などを使った保湿剤は他の商会員でも任せられるが、動物由来の原材料を使った物を任せられるのは流石にファネッサだけだ。彼女はあの原材料を見ても眉一つ動かさなかったしな。


 以前はそっちは俺が担当していたので非常に助かる。


「商品の売り上げは大きいけど、税金も払わないといけないんでしょ?」


「流石にそこは譲れないしな、うちの商会からの税金が無いと領地経営が詰む。他の商会や再建中の穀倉地帯の農作物の収入なんて微々たるものだ」


 税収のほぼ百パーセントがうちの商会からの税金で、他からの税金はまだ入ってこない。


 ドワーフの村から入る税収なんて物納だし、オリボの村からは三年先まで税金を取らない約束だ。穀倉地帯の麦や他の農作物も早くて秋ごろだし、村人達が夏野菜や森の恵みを売った利益なんてほとんどないしな。


 三魔将問題が片付けば内海に港街を作って海産物なども期待できるが、海底や海流の分からない場所で漁ができるようになるまでどれくらい時間がかかる事やら。


「穀倉地帯の税収がすくないのは、清酒用に米の作付けを増やしたからでしょ」


「俺が食う分の飯もあるが、清酒に関してはそのうちフカヤ領の主力商品になるんだ。今から増やしておかないと駄目なんだ」


「その代わり麦の作付けを減らしたって聞いているけど」


「輪作の為に大豆の作付けも増やしたぞ。肥料や労働力目的として牛の数も増やしたし、そのあたりの改革は順調だ」


 魔導耕運機を運用する為にも牛は必須だったしな。


 各村につがいで結構な数の牛を導入したんで、後は繁殖させて増やすだけだ。あの辺りの村に牛を食う習慣は無いし、魔物対策もしているからしばらくは大丈夫だろう。


 牛乳については子牛が飲んで終わりだろうな。


「後は人材?」


「そこは聞いてくれるな。うちの商会に入りたいという奴は多いが、実際に使えるレベルの奴は五人にひとりだ」


「最低でも読み書き計算ができる人間か錬金術師。貴族出身で次男とか三男以下もしくは子女でしょ?」


「仕事を任せられる奴にはもう役職を与えて仕事をさせているからな。俺がいまだに召し抱えていない奴はつまりそういう奴だ」


 能力か人格、もしくはその両方が問題な奴。


 読み書き計算を覚えさせたマカリオですら今は騎士爵を与えて警備隊を指揮させているからな。あそこの運営には流石に副官を付けたが、この広大な城塞都市トリーニのフカヤ領を何とか警備できている状況さ。


「食堂を経営しているギルバートさんたちを別の仕事に回したら?」


「今更あいつをあそこから移せない、親子で仲良く食堂運営中だぞ」


 元山賊らしさがすっかりなくなったギルバートの奴は、毎日アーク商会が運営する食堂で朝から晩まで働いている。


 最近は利用客も多いので店員を雇っているが、そいつらはうちの商会に入った訳じゃなくてギルバート達が私的に雇ったバイトなので賃金はかなり安い。それでも他の仕事に比べれば高給取りなんだが……。


「リュークも大変ね」


「仕方ないさ。さて、休憩はそろそろ終えて化粧水の生産に戻るかな」


「行ってらっしゃい。毎日夜遅くまで大変ね」


「それでも在庫がほとんど出来ないのが恐ろしい」


 毎日夜遅くまで生産しているのにな。


 余裕をもって生産していないと、先日みたいに汎用戦闘種の反応があった時にすぐに現場に駆け付けられない。


 仕方がないから深夜まで調合するしかないんだよな。


 大事な商会員の生活と税収の為だ、今は我慢して出来るだけ生産するしかない。




読んでいただきましてありがとうございます。

誤字などの報告も受け付けていますので、よろしくお願いします。

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