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第八十九話 確かに俺の護衛はオスヴァルドだが、ブリトニーが今も護衛なのは変わらないだろ?





 俺がブリトニーと知り合いだったのが意外だったのか、ギルベルトは目を点にして俺とブリトニーに何度も視線を向けている。


 というかなんとなく視線で感じ取れるんだが、こいつクラリッサと結婚してマルテちゃんまでいながらブリトニーに気があるんじゃないのか?


「リュークはブリトニー様と知り合いなのですか?」


「知り合いというか、私は元護衛で今は部下といった感じだな。護衛の任も解かれているわけではないが、お爺様が護衛しているので私の出る幕などない」


「確かに俺の護衛はオスヴァルドだが、ブリトニーが今も護衛なのは変わらないだろ?」


「今のお前に護衛が必要なのか? お爺様はいろいろと動いてはいるが、私の方はそこまであれこれ出来る訳ではないからな」


 魔法が使えないとはいえ戦闘能力に関しては記憶と力を取り戻した俺の方が上だし、今は気配を消したり力を隠したりするのも俺の方が上だ。情報取集をはじめとする諜報活動や方々への手回しは流石に部下や人脈の広いオスヴァルドにはかなわないが、ブリトニーに関してはその点も怪しいんだよな。以前はもしかすると誰かに頼っていたのかもしれない。


 ただ、他の魔族のブリトニーに対する態度をみると、魔族のまとめ役であるオスヴァルドの孫娘ってだけじゃなさそうなんだよな……。


「護衛?」


「ああ、俺はこれでもこの辺りを治めている領主でな、城塞都市トリーニで活動していたオスヴァルド達には領地運営に協力して貰っているんだ」


「この辺りはオスヴァルド様の領地なのでは? リュークがブリトニー様と結婚してこの辺りを任されたのか?」


「ほう、オスヴァルドがこの辺りの魔族領を治める領主だったのか。そりゃいろいろ詳しい訳だ」


 調べさせるまでもなくジークベルト達の事も知っていたんだろうし、あの時あいつらが俺をそこで警戒していなかったのはオスヴァルドを連れていたからだろう。


 しかしそうなるといろいろと話が変わってくるな。オスヴァルドが領主という事は元辺境伯はその領地を攻めて切り取った訳で、その時に配下の魔族は当然として領民も殺されている筈だ。人族に対していい感情は持っていなかったのは間違いない。


 という事は魔族の呪いやロドウィック子爵家に対して脅迫状を出していたのはオスヴァルドの手の者という可能性もあるな。流石に自分から白状する事は無いだろうが。


「闇の気配が強いがこいつは人族だ。お爺様は金で雇われている形だな」


「そういえばブリトニーはリチャーズの配下のままだったか? 向こうの盗賊ギルドのマスターも高い地位の奴だったのか?」


「私の直接の上司はお爺様だし、向こうには修行として行かされていただけだ」


「今だったらなんとなくわかるが、結構暇を持て余していたんだろ?」


 おそらくレナード子爵家側にある盗賊ギルド内でもブリトニーの扱いには困っていたんだろう。


 それで暇を持て余して俺にしょっちゅうかまっていたわけだ。


「人族? リュークは人族なのか? それにオスヴァルド様を金で雇うなど……」


「騙したようで悪かったが、間違いなく人族だな。先に言っておくが、だからといって魔族を皆殺しにしたいとは欠片も思っていないし、出来ればこれからも友好的でありたいとは思っている」


「その点に関しては私からも保証しよう。こいつはお爺様が認めて協力しようと思うほどの人族だ」


「信じられん。オスヴァルド様が協力してもいいと思う人族が存在するとは……」


 自分の領地を荒らして住み着いた人族の誰かに協力するとか確かに正気に沙汰とは思えない。オスヴァルドにしてみれば俺たち人族は魔族を殺して住み着いた侵略者に過ぎない筈。


 いくら俺が闇の力を秘めているとはいえ、それを遥かに上回る光の力も秘めていた。その力を封印していたとしても、オスヴァルドクラスになればその位見抜くだろうしな。


 もしかしてこの力を見抜いたうえで俺に雇われたのか? いずれ俺が三魔将と対峙して奴らを排除すると期待して……。


「そのあたりはいろいろあってな。オスヴァルドとはいい関係で付き合えていると思う。お互いに隠している事もあるが、そこは大した問題じゃないしな」


「お爺様が今まで隠してきたことが大したことではないというのか。この村の事や魔族の領主であったことなどは十分に問題だろう?」


「問題ないさ。この村にしても今回はたまたま俺が見つけて、なんとなく気になったから調べただけだ。できればはぐれのエルフ辺りがいてくれたら助かったんだが、そもそもエルフだと森の木をあんなふうに切ったりしないよな」


「アレは確かに私だが、来るたびに髪を引っ掛けて気になっていたので仕方なく……」


「ブリトニー様……」


 いや、そうだろうとは思っていたが、そのくらい自分の技量で何とかしろよ。


 こんな場所にはめったに誰も近付かないとはいえ、冒険者が見つけてたら面倒な事態になっていた可能性もあるんだぞ。


「オスヴァルドだったらそんな真似はしないだろうに……。いつから代理でここに来るようになったんだ?」


「お爺様がお前の護衛に着くようになってからだ。私の方が時間があるだろうといってな」


「それでたまに見かけない日があったのか。最近は気配を消していてもそこそこ場所を特定できていたし、城に居ないのを不思議に感じていたんだ」


「あのクラスの城の中で私の気配が分かるのか?」


 領主館として活動している城の方はかなり広い。


 普段は殆ど隣に建設したアーク商会の執務室にいる訳だが、それでも城の中にいるブリトニーの気配くらいは察知できるしな。


「オスヴァルドに比べれば駄々洩れだぞ。比べる相手が間違っているんだろうが……」


「オスヴァルド様と比べるのはちょっと……」


「なんだお前まで!! 私だって最近はかなり腕が上がっているんだぞ」


 いや、俺の護衛になった後の方が気配の消し方は下手になってるぜ。


 いくら俺の能力が上がっているとはいえ、ここまで簡単に気配を感じるほど油断してなかったはずだ。


「いや、最近気を抜き過ぎだろう? 酔っぱらって悪酔いしてオスヴァルドに説教されている姿は流石にどうかと思うぞ」


「あの日はたまたま休みで、新鮮なオレンジとウオッカがあったから少し飲み過ぎただけだ」


「ブリトニー様がそこまで気を抜ける状況なのですね」


「俺が忙しいだけで、日々平和そのものさ。南方から三魔将の一人がこっちを攻めようとしているらしいが、いまだにその先兵も姿を見せないしな」


「奴らが攻めて来ると?」


「準備はしているだろうな。此処がオスヴァルドの領地だったということは、奴らにとっても敵対する勢力が住む領土だ。余裕があれば攻め落として自分の配下に任せたいと思うだろう」


 そんな奴がいればな。


 汎用戦闘種は意志を持たない戦闘員だし、召喚した再生魔怪種も最初は命令を聞くが時間が経つと何故か意志を持ち始めて下手すると謀反を起こす。


 再生魔怪種を従えるだけの力があればいいが、どの魔怪種が召喚できるか分からない以上選んで呼び出す訳にはいかないしな。


 俺は流石に再生魔怪種を使った事は無いが、昔の同僚が一度使ったのを見た事がある。暴走させた挙句俺にまで迷惑をかけやがったが。


「向こうで何か動きがあったのかもしれないが、そんなところだろう。話を少し戻すが、ここにオープンダンジョンがある事は聞いているんだろう?」


「ああ聞いた。オスヴァルドがオープンダンジョンで産出されない穀物類を運んできている事もな」


「それを知っているのに、このままこの村を見逃すのか?」


「二百年も管理しているんだったらこのまま管理を任せても問題ないだろう。穀物に関してはこれから先も提供する必要があるだろうがな」


 森を大きく切り開いて畑を作ってもいいが、百人規模の村人を食わせるだけの畑となるとかなりの大きさになる。


 その百人でその畑を維持するだけの水や肥料、そして手入れをするだけの人手を確保しつつオープンダンジョンに踏み込むダンジョン探索部隊を維持するのは不可能だ。守備隊も必要なのは変わらないしな。


 無理を強いる位だったら穀物位供給して此処の管理を任せた方がいい。その方がこちらとしては手間が少ない。


「このオープンダンジョンから産出される資源をこの村に独占させてもいいと?」


「最近オスヴァルドが手に入れて来た女神鈴はこのオープンダンジョン産なんだろう? 他にもいろんな薬草は入手できるだろうが、この村の連中を排除してまで手に入れたいとは思わん。穀物と交換で女神鈴が手に入るんだったらそれで十分だしな」


「本当に人族なのか? なぜ我ら魔族にそこまで譲歩する?」


「譲歩なんてしてないさ。ここはお前たちの村なんだろう? 敵対していないこの村に攻め込んで、オープンダンジョンを独占するのは人として正しい行為じゃない」


 話の出来ない魔物が支配する場所であればともかく、交渉可能な魔族が管理しているんだったらそのまま管理を任せていいだろう。


 欲しいからといって力でそれを奪うのはブレイブに選ばれた者のする事じゃないしな。


【当然ですね~。マスターはそう判断すると思っていました】


 強い力は誰かを守る為、そう気付かせてくれたアイツに呆れられない様に俺は生きなきゃいけないのさ。


「オスヴァルド様が心を許す訳だな」


「お父さん。このお兄ちゃんがこんなおいしい食べ物をくれたの」


「クッキーか。ブリトニー様から聞いていたが、本当にいろんな食べ物があるのだな」


「気に入ったのであれば、次回から穀物の外にクッキーや焼き菓子を追加してもいいだろう」


「いいのか?」


「帰ったらオスヴァルドにその事を話すさ、今後は何か必要な物があれば知らせてくれ。この村は俺が管理している訳じゃないが、ギルベルト達が俺の領地で暮らしているのは間違いない。困った時はお互い様じゃないが、出来る限りの支援は約束しよう」


 百人程度の村の維持で女神鈴が安定供給されるんだったら安いもんだ。


 こっちでも増産予定だが、同じ薬草や木の種などでもオープンダンジョン産の方が効果が高い。慈愛の粒程度だったら収穫した物でも構わないが、エリクサークラスの薬を作る場合はオープンダンジョン産の方が確実だからな。


「リュークとはこれからもいい関係でいたいものだ」


「こちらこそ、今日は良い縁が結べた。焼き菓子なんかもいろいろ送るから、好きな物があったら言うんだぞ」


「うんわかった!!」


「お前にはかなわないな。本当に器の大きな人族だ……」


 ブリトニーのうっかりミスが原因とはいえ、今回は本当に当たりを引いたな。


 もしかしたら他にも魔族が管理している森や洞窟があるのかもしれないが、この件を知ればオスヴァルドの方から話してくるだろう。


 他にも支援が必要な村があればこちらの負担の規模次第だが融通しても構わないしな。


 さて、俺はダークライジングサンダーで一足先に城塞都市トリーニに戻るが、ブリトニーが戻ってくるのは何時になる事か。


 魔族が何か特殊な移動手段を持っていなければ、戻ってくるのは来週の半ばだろうが……。




読んでいただきましてありがとうございます。

楽しんでいただければ幸いです。

誤字などの報告も受け付けていますので、よろしくお願いします。

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