第八十四話 つまり勇者紅井はジンブ国で三魔将の一人と戦ってるって事か?
オスヴァルド達というか魔族の情報網というのは思っていた以上で、何とか紅井の足取りというか現在どこにいるかはわかった。
ついでに三魔将の一人もな。
「つまり勇者紅井はジンブ国で三魔将の一人と戦ってるって事か?」
「はい。ジンブ国に潜伏している仲間の話では、もう三年近くジンブ国で戦い続けているそうです。三魔将の部下はかなりの数を倒したそうですが」
「この世界で部下を作ってるのか? ……いや、あいつらが他人を信用する訳がない。再生魔怪種を召喚した可能性もあるな」
奴らがこの世界にあれを持ってきているのかは知らないが、元の世界で敗れた一部の魔怪種を再生召喚するアイテムが存在する。
召喚出来る魔怪種に制限はあるし、奴らのアジトの設備だとそこまで数は残ってなかったはずだ。三年も戦い続けられるだけの魔怪種を用意できるわけがない。どんなカラクリがあるんだ?
「見た事もない魔族を率いていたという話は聞いております。リューク様が汎用戦闘種と呼ばれていた改造された魔族とも違うという話です」
「という事は魔怪種で間違いないだろう。といっても、再生魔怪種なので能力は劣るし知能も無いに等しい」
でなければ奴らに扱えるような連中じゃないしな。
それでもこの世界では十分に脅威だ。ジンブ国に住む奴らがどのくらい強いかは知らないが、そいつらが幾ら強くても汎用戦闘種あたりですら倒せる奴はいないだろう。
生身で汎用戦闘種を倒せそうなやつか……。俺の元の仲間や部下だったら問題はないが、どんなに重装備でも機動隊辺りでは流石に相手にならないからな。
雷牙や戦場辺りであれば素手で汎用戦闘種など余裕だ、多少武装していたが変身もせずに魔怪種ですら何とかして見せた事もある。
「その再生魔怪種とやらは強いのですか?」
「三魔将に比べれば雑魚だが、それでも最低十分の一以上の能力くらいはある。どいつを召還するかでかなり違うが……」
各組織の幹部クラスになると流石に紅井クラスでも苦戦する。
あともう一人ブレイブがいれば何とかなるんだが……。
「勇者紅井では三魔将には勝てないと?」
「いや、一対一に持ち込めばあいつの勝ちだ。それを分かっていて召喚された再生魔怪種を各個撃破しているんだろう」
「各個撃破ですか?」
「召喚出来る再生魔怪種は無限じゃない。各地で暴れている再生魔怪種を倒していけば、やがて三魔将を追い詰める事が出来る」
あいつの場合、何処かの街に住み着いてお節介を焼いているだけかもしれんがな。
結果として再生魔怪種を倒しているが、それが目的じゃない可能性もある。勇者と祭り上げられているが、その地位に価値を見出す奴でもない。
「では、ジンブ国の三魔将は勇者紅井に任せておけば問題無いと?」
「今の奴であれば問題ないだろう。最低でもジンブ国の三魔将を討伐次第、何とか奴と連絡を付けてくれ」
「今すぐでなくてよろしいのですか?」
「三魔将が俺の存在に気が付いていないんだったら、このままジンブ国の三魔将は奴に任せた方がいい。俺のはその間に南方から来るもう一人の三魔将を倒す」
状況から考えて、紅井の奴も新世代型のブレスに換装済だろうしな。流石に超魔怪将軍と戦えている時点でノーマルのブレスじゃ無理がある。
フュージョンフォームが使えないノーマルのバーニングブレイブでも新爆裂フォーム以上だったら相当強いが……。
【それでもアルティメットブレイブの神頼蒼馬さんにはかないませんけどね】
あいつの場合ベーシスフォームでも下手すると最終フォームより強いだろ。
神頼がいてくれたら本当に心強いんだが……。
「リューク様といえど、あの三魔将と戦えるとは思えませんが。インフェルノサラマンダーの一件は聞いておりますが、正直あんな獣では三魔将の足元にも及びませぬので」
「あの時の俺だったらそうだ。今の俺には三魔将を倒せるだけの力がある。その点については信用してくれてもいい」
「信頼はしております」
「そのあたりは攻めて来た時に証明して見せる。とりあえず、現状としてはそのあたりか?」
「南方からこちらを窺う三魔将の監視と、ジンブ国の三魔将の情報収集ですな」
ジンブ国については様子見だ。
あれだけ頻繁にこちらと交易できるという事は、まだそれだけの余裕があるという事だしな。交易船の連中からは向こうの窮状を伝える話はなかった。つまり、それほど大きな被害は出ていないという事か。
「魔族に関してはそれでいい。攻めて来たタイミングが今でよかった」
おかげで王都からの召喚というか、向こうに出向いて子爵に陞爵する儀式に参加しなくてよくなったしな。
今最前線から指揮官の一人である俺を呼びだす事はしないようだ。その代わり、城塞都市トリーニに魔族が迫れば最優先でパラディール公爵家の四女ラナエルを王都に送り届ける様に命令が来ている。
その任務に就くのはアルバート子爵家の前当主セブリアンが担当する事になった。アルバート子爵家の騎士団の指揮権はゴールトンが持っているしな。
【マスターは昔から上官との面接は嫌っていますしね】
今はそれほど嫌いじゃないぞ。
流石に王様クラスの誰かとの面接なんて、敵基地を爆破して大臣に呼び出された時以来だ。
【島の形を変えたといいますか、割と大きな島を半分吹き飛ばせば流石に方々から苦情も来ますし、他国とも問題になりましたので……】
あの魔怪種が世界規模で活動しててある意味助かった。
奴らを放置していた他の国でさらにデカい被害が出たし、俺の英断が評価されたのは良い事だ。尊い犠牲には心を痛めたが。
「一時的な事と思われますので、最終的には王都から呼び出しがあると思います」
「そうだろうな……。最低でも三魔将を全員討伐してから行きたいところだが、最後の一匹は魔族の国から出てこないだろう?」
「そうですな。奴が王城を離れれば反乱を起こす魔族もいましょう。いま魔王城にいるのは奴と汎用戦闘種だけと聞いております」
魔族に倒す術が無いと分かっていても、万が一って事は考えられるからな。
最悪時空大魔怪皇帝を倒した勇者の様な誰かを引き連れて攻めてこないとも限らない。それを警戒するから周りには反乱を起こさない汎用戦闘種しか置かないんだろう。
結局あいつらは別の世界に来ても、信頼できる部下一人作れなかった訳だ。
「魔族の一件はそれでいい。残った問題は領内と商会の状況か」
「穀倉地帯の耕作状況は順調です。ワイン用のブドウも秋には収穫が可能でしょう」
「これで秋にはワインの仕込みにも入れるな。となると問題はあれだな」
「女神鈴の数が限られておりますので、販売は当分見合わせていただければ……」
そう、化粧水の注文も限界ギリギリだがさらにそれを上回ると予想される商品がある。慈愛の粒だ。
既に必要な材料は入手し、後はマジックバッグから材料を取り出して錬金術用の機材で調合するだけの状態だが、困った事に現状では試作品として用意する数が精いっぱいな状況で、もし万が一俺が慈愛の粒を持っていると知られれば生産能力を上回る注文が来ることは簡単に予想できる。
その為アリスたちにもまだ材料が揃っていないという事にしてごまかしている訳だな。
「例の場所に植えた女神鈴の収穫、どれくらいかかる?」
「元が雑草ですので条件さえ揃えば二ヶ月もあれば……」
「二ヶ月か……。あれだけの種を植えたし、収穫できる種の数は期待できるな」
「予想では五月に収穫可能な女神鈴の種は数百を超えるでしょう。そのうちの何割か植えれば、千を軽く超える種が定期的に収穫可能です」
という事は商品として発表するのは七月以降か。
さて、その時までに他の材料もできる限り集めておかないといけないな。
もう一つの問題は値段だが……。
「例の薬は七月に限定で販売開始にする。そこまで売れないかもしれないが……」
「流石にそれはありますまい。一人最低七粒使っても、百人分で女神鈴の種が七百必要になります」
「その数だったら売り切れるだろうな。ただ、増産には時間がかかるし、女神鈴の種も無限じゃない。やっぱり予約制の限定販売になりそうだ」
生産数なんかの問題を説明して、ローズガーデン商会に丸投げするしかないだろう。
慈愛の粒は薬だからそのあたりは問題あるまい。
女神鈴は他の薬の材料にもなるので、余裕があればそのあたりも研究したかったんだがな……。
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