第八十三話 細かい問題は多々あるが、それ以上に重要な事件が発生してるよな?
三月ももうじき終わり、無事に四月を超えれば俺は子爵に陞爵される状況になった。
ここにきて意外な申し入れというか、元ロドウィック子爵領側の街で暮らしていた者の一部がフカヤ領側に移住というか戻りたいと言い出したらしい。
申し出をした者たちも移住先で仕事は上手くいっていたらしいんだが、やはり生まれ故郷というか住み慣れた場所に戻りたいそうだ。その生まれ育った場所とやらは、既に区画整理で元の姿をとどめていないけどな。
レナード子爵家とアルバート子爵家の領内というか、特にレナード子爵家の領内は人口が密集しすぎて住宅地などで問題も発生していたので、この機会にいろいろ調整をしたいみたいだ。壁の傍の区画に住んでる奴だったらフカヤ領からレナード子爵領側に通勤させてもいいし。
それはともかく、今ちょっとした問題が発生しているので、オスヴァルド達を執務室の集めて今後の対応を話し合っているところだ。
「細かい問題は多々あるが、それ以上に重要な事件が発生してるよな?」
「内海の向こう側の問題ですかな」
「流石に気が付くよな。というか、あいつらはどこの所属なんだ?」
「おそらく新魔王派の魔族至上主義に所属する武闘派ですな。おそらく裏で糸を引いているのは三魔将の誰かでしょう」
そうだろうと思ったが、やっぱり三魔将の誰かか。
俺の正体というか中身に気が付いてのかと思ったが、今までに攻撃を仕掛けてこなかった時点でそれは杞憂だろう。
ひと月前だったら流石に俺も奴らに攻めて来てもらっては困ったが、今の状況であれば三魔将の誰かが一人ずつ攻めて来てもらえるとありがたい。
「で、問題は三魔将の誰かって事と、どのくらい汎用戦闘種を引き連れて来るかだな。魔族がどのくらい犠牲になっているかは知らないが……」
「……なぜ、その名を?」
「俺の方にもいろいろあってな。先に言っておくが、汎用戦闘種に改造された者は助からない。出来るだけ苦しまないように殺してやるのがせめてもの情けだ」
「元に戻せぬ事は知っておりましたが……」
「魔王と三魔将。正確にいえば封印されてるという魔王とその幹部三人。そいつらの正体は時空大魔怪皇帝と超魔怪将軍だ」
時空大魔怪皇帝と超魔怪将軍。俺たちが元の世界で追い詰めた時、時空大魔怪皇帝があけた時空の穴に逃げ込んでそのまま自爆したが、どうやらあの時死なずにこの世界に逃げ込んだみたいだな。
とはいえ、元の能力のままこの世界にしていたら数ヶ月もあればこんな世界の生物など一人残らず汎用戦闘種に改造して奴らの帝国を築き上げている筈。
やはりあの夢の通り、かなり弱体化しているのは間違いないな。
この記憶を完全に取り戻したのは本当に先日の事だが、十六歳から一年経って思い出すとかいろいろ問題があるんじゃないかと思うんだ。
【私がこうしてマスターと話せるようになったのは大きいですね。今やマスターは戦闘面で言えばこの世界でも最強でしょう】
そこそこ強いと思うが、まだ氣不足で一部の能力が使えないだろう。一部使用不可能なメモリがある。
それより、通信システムで紅井の奴と連絡はついたか?
【ブレス内蔵の通信システムですと無理ですね。ブレイブフォンも同様ですが】
仕方がない、汎用戦闘種が攻めて来たら俺が対応するしかないだろう。
この世界の冒険者や騎士たちじゃ流石に相手にならない。
「その情報は信用できますか?」
「ああ、間違いない。そして奴らは闇の力では絶対に倒せないんだ。だから奴らは魔族を襲ったんだろう」
「我ら魔族を狙ったのはその為ですか。人族ですと光の力を使う可能性もありますので」
「同じ魔力でも闇由来というか、少し違いがあるだろう。出力した魔法って状態でも違いがあるみたいだが」
光系の魔法とか風系の魔法とか色々あるみたいだしな。
魔族は光系が苦手でそのうえ基本の魔力も闇由来なんで多少はダメージを与えられるんだろうが、奴らを倒すには絶対に至らないって事だ。
「魔王を封じた勇者も光の力を使っていたという話です」
「封印魔法が光魔法だっただけだろ。攻撃手段も光だったら魔王を倒せてたさ。そういえば一つ聞きたい事がある。もし万が一封印している魔王を倒せた場合、魔族の国を治めるのは誰になるんだ?」
「先代魔王様のご子息がどこかにいるそうです。詳しくは教えられませぬが……」
「いや、王位継承者がいるんだったら問題ない。詳しい事は魔王面してる時空大魔怪皇帝を完全に滅ぼした後でいいしな」
その魔族の王子は三魔将がいるから今の魔王が封印されてても新魔王として即位できないんだろう。あいつらが誰かを担ぎ出すとも思えないし。
あいつを倒した後で魔族の国を任せられる王がいないと困るところだった。俺が魔王として君臨する訳にはいかないし、その気は欠片も無いぞ。
「リューク様が魔族国の王として即位されるのではないのですか?」
「俺は魔族国は魔族が治めるべきだと思っている。三魔将と封印されている時空大魔怪皇帝を完全に滅ぼすのが俺の望みで、それが魔族の手助けになろうが何であろうが俺はそれ以上関知しない」
「本当に器の大きなお方じゃな。魔族の為にそこまで協力しながら王の座を求めないとは……」
「俺が面倒を見るのはこのフカヤ領だけで十分さ、魔族の面倒は魔族が見るのが当然だ」
「儂らも魔族ですが」
「オスヴァルドにはここで出来る限り力を貸して貰いたい。平和になった後で国にどうしても戻りたいというならば流石に止めはしないが」
流石に裏事というか暗殺などの仕事を頼む事は無いだろうが、相談役としてこれほど頼りになる奴などいない。
いろんな知識が豊富で魔族側の情報に詳しく、エルフやドワーフと交渉が出来る魔族。しかも多くの部下に慕われているので、いざという時には戦力としても頼りにできる。そのいざは来ないに越したことは無いが……。
「王都の連中は儂らを嫌うでしょうな」
「嫌うならそれまでの連中さ。魔族ってだけでオスヴァルド達を排除しようとするんだったら、その時は俺が相手になってやる」
「魔族の為に、人の王と戦うというのですか?」
「魔族かどうかなんてこの際関係ないのさ。俺の仲間に手出しする奴はどんな理由があろうと許さないだけだ」
ドワーフや魔族も人と違いなんてありゃしない。
それを説明しても話が通じない奴らならば、こっちからお断りだ。
【その性格も変わりませんね。甘いと思われるくらいに部下には優しく、そして厳しい司令でしたよね】
その代わり泣かせた上官の数は数えきれないけどな。
俺たちが負けたら後が無いのに、今年は財務状況が厳しいだの何のと理由を付けて予算を削ろうとしやがる。
整備不良の為に魔怪種の襲撃に対応できないという不幸な事故が何度か起きたが、その後は一度たりとも予算削減の話は出なかった。
あの時は国を相手にしてでも仲間を守りたかっただけだが、ああするしか方法が無かったのも確かだ。
「リューク様が人族の王であればと何度思った事か。この老骨、命が終わる時までお仕えいたしますじゃ」
「そうして貰えると助かるが、無理だけはしてくれるなよ」
「そうですわ。私に任せて引退してもいいんですよ」
「やれやれ、五十年くらいはがんばるしかなかろうな」
「そこまでかかりません!!」
最近はブリトニーの話し方が完全に素に戻っているらしく、以前の様な話し方の片鱗すら見せない。
にしてもブリトニーは割とお嬢様だったというか、無理してあんな粗暴な言葉遣いをしてたみたいだな。ただ参謀として考えるとオスヴァルドの域まで達するのに何年かかる事やら。
とりあえず、今は内海の向こう側で北上しようとしている魔族の情報収集と、紅井の奴とのコンタクトだ。
汎用戦闘種なんて何匹引き連れてきても脅威じゃないが、俺一人だと周りに被害がでる前に殲滅するのが難しいしな。
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