第八十二話 これはおそらく夢だろう、気が付けば俺は真っ白な世界にいた。
昨日は投稿を休みましてすみません。
出来る限り毎日更新しますが、体調次第で休むこともありますのでご了承下さい。
なお、今回の話はリュークが転生する直前の話になります。
これはおそらく夢だろう、気が付けば俺は真っ白な世界にいた。
いや、正確には白と金色などの混ざる不思議な空間だ。それに何故かここは心が安らぐ……。こんな場所があったのか。
……これは奴らの気配!! 奴ら、あの時死んでなかったんだ!!
こうなると、たとえ俺一人しかいなくてもあいつらを倒すしかない。苦しい戦いになるだろうが、俺たちの甘さが生んだ状況だ。やるしかないな……。
「ここに迷ってくる人なんて本当に久しぶりね。しかもあなたが行こうとしているそっちは別の世界よ。元の世界に転生するんだったらあっちだわ」
いつの間にか目の前に一人の女性がいた。彼女の姿は神々しいが、神と呼ぶにはなんとなく俗世に穢されている気がする。
それにしても転生?
俺は死んだのか? あの世界で?
戦いに明け暮れた人生だったが、その事に対して後悔はない。最終的にあの世界は平和になったしな……。
「えっと、あなたの前世を見たけど、すごい実績ね。魂は若干闇に侵されているけど、今は殆ど神々しい光を放っているわ」
神々しい光? そんな訳はない。
俺は悪だ。
それも許されるはずの無い悪事にこの手を染め、その罪滅ぼしにライバルだったあいつの代わりにあの力を使い、そしてその後司令にあの部隊の運営と後輩の育成を任されただけの男だ。
この魂に光などある筈もない。
「許されない罪? ……なるほど、あなたはあの人の知り合いというか関係者だったのね。犯した罪に関しては……、確かに相応の罰が必要だったみたい」
そうだろう。
俺は許されざる悪事を働いた悪党だ。
もう一度生を受けられるんだったら、一生かけて罪の償いを続けていくとしよう。
「贖罪だったらとっくに済んでいるわよ。少なくともあの化け物たちを退治した時に、あなたの罪は全部清算されているわ」
そうか……。しかし、俺にはやらなければいけない事が残っている。
時空の穴から逃げたあいつら、自爆して死んだと思っていたが向こうから奴らの気配を感じる。あの四人を倒さぬ限り、俺の戦いに終わりなんてない。
「向こう? ……あ、確かにあの世界から禍々しい気配を感じるわ。ん~、この気配ってあの人たちが相手にしてた敵と同じ感じよね。でも、あの世界に逃げ込んだんだったら大丈夫かもしれないわ」
なぜ?
あいつらの力は脅威だ。俺たちみたいな存在がいれば何とかなるかもしれないが、俺たちと同じレベルの力を持つ者はそうそういない。
前司令がブレスの廉価版を幾つか別の世界に流していたが、この新世代型ブレスと比べれば性能はかなり劣る。
「あの世界はね、以前ある世界を襲った不幸を繰り返さないように、外部から流れて来る力を色々と制限している世界なの。特に悪というか闇の力はかなり制限されるわ」
……このまま俺が転生しても、力が制限されるという事か?
俺の力の大本は闇だ。ブレスの力があれば別の力も使えるが、流石にこれは……。なんでこいつがここにあるんだ?
【マスター酷いですよ。ブレスは魂とリンクさせてると説明したはずです。マスターが呼べば何処の世界にだって現れます】
そういえば技術主任がそんな事を言っていたか。
ブレスだけあっても変身できるのはベーシスフォームだけだろうが。
【最低でも一つはフュージョンフォームが使用できますよ。どちらもマスターの力ですが】
ああ、あのフォームか。
あれもそこそこ強いし、弱体化した奴らだったら倒せるかもしれないな。
「ひとつだけ力の制限を無くして転生する方法があるわ。記憶と力の殆どを封印してあの世界で赤ちゃんからやり直すの。あなたの力は大きいからそれでも記憶の一部は漏れ出るだろうし、魂とリンクした身体の特性も引き継がれると思うわ」
不死特性というか、死に難いって力だな。結局は元の世界で命を落としたが。
【それは元の世界でマスターが強引に転生しようとしたからです。あの世界にはもう脅威は現れませんから、あそこに居場所が無いとか言って……】
……そうだったか?
【そうです】
「そうよね……、そうじゃないとこんな場所に迷い込んだりしないわ。ここはね時空の狭間なのよ」
時空の狭間か……。
そういえばあいつも時空大魔怪皇帝とか名乗っていたな。部下の三馬鹿は超魔怪将軍とか言ってたか?
何も考えずに自分で時空に穴をあけて飛び込んだんだよな。
「元の世界とここの時間の流れはずれているから、先に行ったその四人はかなり歳を取っているはずだけど」
あいつらは魔怪種だからな。しかも最終調整まで行った不老型だ。加齢による劣化は無い筈。
弱体化してもそこは変わらないだろう。
「……ちょっと調べてみたけど、その時空大魔怪皇帝って存在はあの世界の勇者に討伐されて封印されたみたいね」
封印か。不老だけじゃなくてほとんど不死だからな。奴らは全員特殊な技以外では滅せない。
【マスター達以外ですと、あの力を持つ者なんていませんよ?】
「ん~、割といるんだけどね。でも、あの世界には彼らは送れないの。一定レベルで滅びが迫っていないと、私たちが干渉出来ない決まりだし」
つまり奴らがいても世界が亡ばないって判断しているのか?
「すぐにはね。一定レベルで危機が迫れば、流石にあの人達に頼むわ」
弱体化したとはいえ、超魔怪将軍クラスを倒せる奴らか。
そんな奴が何人もいるのか? 俺の元居た世界でもそんな奴らは元指令を除けばレジェンド九人と新世代の三人位だぞ?
【全員新世代型のブレスに換装済ですけどね。超魔怪将軍クラスは旧型のブレスですと厳しいと思いますよ】
最初に超魔怪種が出て来た時に、ヴィクトリーの尚武が苦戦した挙句に変身解除まで追い込まれたしな。
元指令が残してくれたこの怪しい回路が無いと新世代型ブレスは完成しなかった。ホントにあの人何者なんだ?
「その人も誰だかなんとなくわかるけど、詳しく教えてはあげられないの。とりあえず貴方はそのブレスごとあの世界に転生させてあげるけど、割と不幸な人生を歩む子にしか転生枠が無いわ」
不幸な人生?
「詳しくは教えてあげられないけど、たぶん両親とは死別する事になるわ。元々転生枠の子は死産の予定だし」
避けられない死別か……。元の世界でも似たような人生だ。俺はそんな星の生まれなんだろう。
転生するにあたって何か気を付ける事はあるか?
「十六歳を迎えるまで力の制限かな? そのブレスの力も殆ど封じさせてもらうわ。そうする事でその能力を完全な形で引き継げるから」
【えっと、私は魂に語り掛けられますが。それと、マスターが意識を失った時に一時的に身体を動かせますし】
「それはできるだけ控えて。元の意識の一部を疑似人格として保存。いざって時はその人格を使うといいわ」
【……疑似人格の生成に成功。俺の力が必要な時は遠慮なく使うぜ】
音声まで俺の声を使うのか。
他の能力は十六歳までお預けだな。奴らの討伐もそこまで我慢するしかないだろう。
「もうひとつ朗報。元の世界の仲間がひとり、ほんの少し先にあの世界に移動してるみたいね。強引な転移してみたいだけど、力は割とそのままみたい」
誰だ?
そういえば紅井の奴が何やら調べていたな。それに、前司令にもいろいろ訪ねてたし……。
まさか時空大魔怪皇帝を封じた勇者って……。
「それは別人ね。一応あのクラスの魔物だったら封印できそうな人は割といるの」
それが勇者か……。
紅井の奴が先に行っているんだったら、俺が力を取り戻す前に時空大魔怪皇帝達を倒すかもしれないな。ひとりじゃキツイとは思うが……。
【厳しいと思いますよ。神頼さんでしたら安心ですが】
あいつは異常だったからな。
能力もそうだが、戦闘センスがずば抜けていた。アイツも前司令と同じくらいに謎の多い奴だったが。
「もしそうだったら第二の人生を謳歌すればいいじゃない。言っておくけど、贖罪は住んでるけど前の世界みたいな事しちゃだめだからね」
どれの話だ?
あいつと戦う前の事か?
「その後の事よ。上官泣かせというか、書類の偽造とか色々……」
ああ、予算を渋るから上官の屋敷に敵を誘い込んだり、予算が下りやすいように色々と工作したからな。
世界平和と一般市民を守る為、上官には泣いて貰う事も何度かあった。アレは仕方の無い事だ。
「……悪事はしないとか言ってなかった?」
予算獲得の為に必要な措置だ。
黒に近いグレーな行為だが。
【真っ黒だと思いますよ~】
予算が下りなけりゃ、お前も開発できなかったんだぞ。
【真っ白です!! それはもう驚きなくらい】
「このマスターにしてこの人工知能ありね。まあいいわ、あの世界で何やらかすか知らないけど、世界の破滅だけはやめてよ。私が止めなきゃいけなくなるのはちょっと寂しいから」
分かっているさ。
あの世界をよくする事はあっても、滅亡に向かわせはしない。
俺は……。
「あの世界に万が一があった時はあなたを頼るかもしれないからよろしくね。あ、私は女神ユーニス。あの世界でも女神としてあがめられているわ」
女神?
……女神にもいろいろあるんだな。
【そうですね~】
「最近はまじめに仕事をしてるから、その反応はひさしぶりね。それじゃあ、あの世界に送るわ」
新しい世界か。
まずは力を取り戻して奴らの討伐だ。その後は、会社でも起こして何か仕事をすりゃいい。
完全に力を取り戻すまで、最低十六年か。短いようで長い時間になるだろうぜ。
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