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第八十一話 新しい屋敷に引っ越してあそこに執務室があるけど、結局は商会の仕事もあるからこうなるんだよな




 新年会から既に二ヶ月経過し、今は三月の中旬だ。


 春小麦の作付けも完了したし、リチャーズから植物育成魔法を使える魔法使いを借りてブドウ畑の設置も完了した。いろいろ特殊な肥料を使ったから今年から一応収穫が可能という話だがどうなんだろう?


 新しく寄子になった騎士爵たちの再編というか、領地の再配分も完了して任せられる場所は彼らに任せる事にした。使い勝手の悪い畑の一部を牧草地に変え、そこで牛やヤギなどを飼育させる。家畜の糞はそのうち肥料にするので、最終的には収穫もよくなるはずだ。


 本来であれば街道の整備も始めたかったが、優先順位がやや低いので他の場所の改革が終わり次第着手する事にした。元々ロドウィック子爵領内の街道はそこまで悪くなかったしな。


「新しい屋敷に引っ越してあそこに執務室があるけど、結局は商会の仕事もあるからこうなるんだよな」


「領主としての仕事はここで指示を出せばいいけど、化粧水の生産はここじゃないと出来ないから仕方ないでしょ」


「そうですよ。女神鈴を手に入れたって話も聞いていますし、例のお薬の開発も気になるんですが……」


「慈愛の粒の生産には他にもいろいろ材料が必要なんだ。アレは薬ではあるけど錬金術師が作る秘薬なんだぞ」


「リュークだったら作れるんでしょ? 効果に関しては私が責任をもって確かめてあげるわ」


「アリスさんずるいです。私だって……」


 カリナは控えめに主張しているけど、完成した薬を渡さなかったら相当に怒る事は流石に理解できる。


 今までみたいに保湿剤や化粧水だと自分で試せるけど、流石に豊胸薬は俺が使う訳にもいかない。


 ……仕方がないから何度も調整した物をアリスとカリナに渡すほかないだろうな。最終的にはあれも売りに出すつもりだが……。


「問題ないレベルに調整出来たら渡すからそれで我慢してくれ。今までの美容商品と違って今度は薬だ、用法用量をキッチリ守って貰うぞ」


「わかったわ。薬は使い方を間違えたら毒にもなるって言いたいんでしょ?」


「そういう事だ。今回はそこまで危険が無いと思うが、物によっちゃ命にかかわる物もあるだろう」


 とはいえ、この世界の回復薬系は用法とか用量とかが全然決まってないんだよな。


 傷に対して飲んでもかけてもいい薬とか異次元過ぎるぜ。そんな世界だから美用化粧品にもキッチリとこの辺りが限度ですよって量を大きく書いておく必要があるんだ。王族からのクレームとか御免だからな。


 毒消しにしてもそうだが、前の世界の常識は一切通用しない事も多い。ただ、前の世界で役に立つ物質はこの世界でも予想をはるかに上回る効果を発揮してくれる。その辺りは同じなのにおかしな話だ。


「今まで傷薬を飲んで死んだ人とかいないけどね」


「過剰再生されてブクブクになりそうな気がするのに不思議な話だよな。とはいえ、油断はできない。慈愛の粒の適量は一日一粒らしいぞ」


「それでどのくらい効果があるの?」


「個人差があるから何とも言えないが、大体一週間から二週間飲めば十分って話だ。それがどの位かは知らんぞ」


 俺が方々に手を尽くして調べた結果、大体それで胸囲が最大三十センチ近く大きくなるって話だ。


 胸囲七十センチが百センチ……、その質量分の脂肪や皮膚は他の部分の脂肪から集められ、さらに言えば変換効率の問題で若干体重が落ちるらしい。


 胸だけ大きくしたい人間からいわせれば夢の様な薬なんだろう。


「……実は詳しく知っているとか言わないわよね?」


「個人差があるからこの位って目安程度だ。正直最大で七粒程度にとどめておいた方がいと思うぞ」


「別に続けて使わないといけないって訳じゃないし、少しずつ試すわ」


「それが正解ですね……。あ、でも治験が終わったら有料になりますか?」


「各七粒までは都合するが、それ以上は実費だ。一粒で十万スタシェルを下る事は無いぞ」


「高っ!!」


 女神鈴が高価って事もあるんだが、調薬するのが本当に時間がかかる薬なのさ。


 手間賃を考えたら倍の二十万スタシェルでも高くはない。今までの化粧品の価格を考えたら、それでも買う奴は買うんだろうけど。


「大金貨一枚の薬ですか……」


「侯爵クラスの貴族だったら買うんだろうな。石鹸の値段から考えりゃ、この位の薬なんて高いとも思わないだろう」


「そういえば他の化粧品の値段も似たようなものよね」


「今うちの商会の主力商品になりつつある化粧水の値段もあの小瓶で十万スタシェルだぞ。一日どのくらい売れてると思う?」


「王都に送ってる分は、即日完売らしいわね。向こうだと十倍近い値段らしいけど」


 ローズガーデン商会はフカヤ領内に支店を設立させ、パラディール公爵家の四女ラナエルが支店長を務めている。


 王族がこんな魔族領の最前線の街に住むなんて異例の事態で、おかげで王都から護衛の騎士が百人ほど派遣されてきた。


 あいつらは対人戦では使えるかもしれないが、魔族との戦いには正直役に立たないと思うぞ。


「ローズガーデン商会のトリーニ支店で売る場合は約二倍だな。他の店でもだいたい同じ価格で売られている」


「コランティーヌ商会もさすがに公爵家に対して、この街では独占販売したいとは言い出せなかったみたいよね」


「リチャーズも事を荒立てたくはないだろうし、王都や他の貴族領から来る貴族の対応をしなくて済むから喜んでいるさ」


 そう、この街でも化粧品や美容関係の商品を売っていると気付いた貴族の一部が、自分で使う為の化粧品を買う為にわざわざこんな辺境まで自家用の高速馬車を走らせて来るんだよな。


 超高級宿【月夜の夢】に連泊し、コンパクトなども自分に気に入ったデザインで作らせているそうだ。


 最近はこの辺りの料理もかなりレベルが上がっているので、出される料理の質に驚いているという話も聞く。


「フカヤ領内には高級宿泊施設ってないわよね?」


「無いな。一番デカい宿はうちの従業員寮だ。対外的な面もあるからどこかに建てないといけないんだが……」


 一流のサービスをするには、一流の接客技術を持つ従業員が必要だ。


 宿の大きさにもよるが、最低でも百人単位の人材が必要だろう。人材不足のうちの領内で、そんな人材が余っている筈も無いんだよな。


 リネン類の洗濯に関しては魔道洗濯機をすでに開発したし、その技術を応用して魔導食器洗い機も開発した。しかし、流石にセンサー類が元の世界と比べてかなり劣るので、まだ決められた規格の皿やコップしか使えない。


 こうして人の手を使わない改革はできるが、最低限宿を運営する人間は必要になる。料理や各種対応をする従業員は流石に雇わないといけないしな。


「本当に人手が足りないわね……」


「人手が足りてりゃ、うちの商会直営の化粧品店を建設するさ。その場合デメリットの方がデカいので手を出してないだけの話だ」


「直営で安く売ったりしないでしょ?」


「直営店でも安売りはしないし、他の商会と値段は同じにするつもりだ。最新の化粧品や美容品が買える店ってだけで客は来ると思うけど、うちの化粧品を使える貴族なんてこの街には限られるしな」


 ほとんどはどこかの貴族領から買いに来る客になる。


 儲かりはするんだろうが品切れになった時の対応なんかを考えると、ローズガーデン商会辺りに面倒事を押し付けた方がいい。まさか公爵家の直営店に苦情を入れる馬鹿はいないだろう。


「その代わりローズガーデン商会からは毎日催促が来るわよね?」


「それはもうあきらめているさ。うちの商品で余裕があるのは石鹸とシャンプー類だけだ」


「美容商品関連だけよね……。それでも保湿クリーム辺りは何時も売り切れてるけど」


「あの量のクリームを誰が何処に使うのか知りたい位だ。食ってるんじゃないだろうな?」


「あのひと瓶を普通に使えばひと月は使えるはずなんだけどね」


「使用期限切れの前に使い切ってくれるのはありがたいが、一定量以上使っても効果はない筈だぞ」


 それでもひとすくいの量が人によって違うんだろう。


 なけなしの金で買えば毎日少しずつ無駄の無いように使うんだろうが、金が余っている一部の貴族は本気で塗りたくってるんだろうからな。


「その売り上げの一部が貴重な税収になってるんだから、文句は言いっこなしでしょ?」


「うちの商会の売り上げから発生する税金だけで運営するのも問題だと思うがな。おかげで領地改革は一気に進んだ」


 問題は各種酒造関連とダンジョン関連に必要な人材だ。


 ドワーフや魔族用のウイスキーや清酒の量産。料理用の味醂の量産。領内で見つかったダンジョンが使い物になるかどうか調べる為の冒険者。


 酒造に関してはうちの商会に近い給料を提示したら騎士爵家の次男や三男から馬鹿みたいに応募があったが、仕事を任せられる人間に関してはドワーフたちが面接や試験をして採用を決めた。使えそうな人間は本当に一握りで、かろうじて雑務を任せられそうな人材までは採用して後はお祈りしておいた。


「この状況で領地経営がうまく行ってるって判断されそうなの?」


「子爵に陞爵するのは間違いなさそうだ。というよりも、ここまでやるとは思っていなかったらしい」


 数年後には電線を張り巡らせて、一部の地域で試験的に電気を導入するつもりだしな。


 魔石を使った技術は凄いが、いつまでも魔石だけに頼る訳にはいかない。


 多少効率が悪くても発電所を建設して電気をエネルギーとして利用したいと思ってる。


「あとの問題はパートナー?」


「アリスやカリナには悪いと思うが、今その話題はやめて貰おうか」


「そうですね……」


 パラディール公爵家の四女ラナエルは今十六歳だが、どうやら俺を王家に引き込む算段で送られてきたらしい。


 下手に扱えば逆賊扱いされかねないし、流石の俺も今回ばかりは頭を抱えている。


 こうなる前にさっさとアリスかカリナと結婚してりゃよかったんだが、俺の優柔不断が招いた事態だ。


「まずは子爵に陞爵して話はそれからだな。おそらく一度王都に出向く事になりそうだ」


「私は連れて行くわよね?」


「わ……私だって一緒に王都まで行きます」


「フカヤ家専用の高速馬車が完成すれば十人位何とかなる。アリスやカリナはもちろん連れいていくさ」


 後はオスヴァルドやブリトニーたち護衛の魔族たちか。


 王都で問題にならない様にいろいろ手を打っておかなきゃいけないだろう……。


 根回しも含めてな……。




読んでいただきましてありがとうございます。

楽しんでいただければ幸いです。

誤字などの報告も受け付けていますので、よろしくお願いします。

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