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第八十話 本日はフカヤ家の新年会に足を運んでいただけた事を嬉しく思います。城塞都市トリーニのさらなる発展を祈って新年のあいさつに代えさせていただきます



 新年会。もちろんこれは俺がフカヤ家の新年を祝う為に開いたもので、レナード子爵家とアルバート子爵家の新年会は先日滞りなく終了した。俺も参加していたが、今回は両家共に魚が多めのメニューだったな。


 魚かぶりというかお互いに近いメニューだったのが気に入らなかったのか、先に新年会をしたレナード子爵家の料理をアルバート子爵家側が真似をした感じになったのは流石に言いがかりだろう。大体この規模の料理の準備期間を考えたらとてもじゃないけど間に合わない。


 俺はまだ屋敷が完成しなかったために会場は白銀(しろがね)亭を借り切って対応し、料理は持ち込みという形だが配膳などに関しては宿側の従業員にも協力して貰う事にした。


 白銀(しろがね)亭や従業員には十分報酬を払い内装にも少し手を加えたが、この部屋は今後宴会用として活用するといっていたな……。


「本日はフカヤ家の新年会に足を運んでいただけた事を嬉しく思います。城塞都市トリーニのさらなる発展を祈って新年のあいさつに代えさせていただきます」


 あまり長々しい挨拶は不要なようで、この位でいいっぽい。


 さて、今日の料理は肉を中心に組み立ててあるから、レナード子爵家やアルバート子爵家の新年会のメニューと被らなくてよかった。何点かは魚もあるけど、同じ様な料理は無かったしな。


「前菜は牛肉のカルパッチョ。アルバート子爵家で売り出されている牛肉とチーズを使った料理になります」


「儂の所の食材を使ってきたな」


「美味しいです……。今日の料理はリューク卿が作ったと聞いてますが」


「料理の腕も相当な物だろう。六年前にあの料理を作っておったくらいだ」


 生肉を食べる事はあまりないが、最近はローストビーフなんかが流行っているのでこの状態の肉でもみんな普通に食べてくれるのでありがたい。


 多分ニ年前だったら誰も手を付けなかっただろう。


 一緒に提供している赤ワインも最上の物を用意できた。この辺りはまだ白ワインが出回っていないので、現在フカヤ領内で仕込む準備を始めている。壊滅した麦畑の一部をブドウ畑に変える予定だ。


「二品目はマッシュルームのクリームスープです」


「今度は牛乳を使った料理か。キノコはレナード子爵家で採れるものだな」


「ジャガイモもそうですな。穀物以外で育てるとなると、芋類が多くなりますので」


 蔓芋もそうだが、ジャガイモも割とよく栽培されている。


 ただ貴族の倍は知らないが、一般家庭ではこうやってクリームスープにされることは少なく、そのまま蒸かして食われる場合が多い。


 一般家庭でそこまで料理に時間をかける家なんてあまりないし、今は金を出して近所の食堂で済ませるケースも増えているからな。


 もう少し本格的に栽培してくれれば、ジャガイモも酒の材料になるんだが……。


「三品目はウナギのリゾットひつまぶし風です」


「ウナギとは川で獲れるあのウナギか? それにしては変わった形だが……。これは!!」


「全然骨が気にならなくてなくておいしい!! それにこの味は……」


 ドジョウの蒲焼きじゃないが、あの時の料理を今の材料や調味料でコース料理に組み込むとこうなる。リゾット以外だと蒲焼きをパイで包む方法もあるが、何処で出すにしても中途半端な料理になるしな。


 他の料理を選んでもよかったんだが、この先は米をこの辺りでも売り出したい。あの量を全部酒に加工する訳にもいかないし、元々あの米は毒麦対策なんで新米を全部使いきるのは問題があるんだ。


「変わった料理だが旨いな。あのウナギがこんなに旨いとは……」


「手間のかかる食材や料理は避けられがちですので……。それにこの辺りではライスも人気がありませんからな」


「レシピはあるが、うちの料理長はまだ手を出していない食材だ。ウナギか……」


 ウナギやスッポンなどのレシピは渡してあるが、姿で割と嫌われているのかなかなかあの手の食材が食われているという話は聞かない。


 海老や蟹を含める一部の魚介類は城塞都市トリーニでも割と食われるようになったのに、ドジョウやウナギなんかは人気が無いんだよな。あれか? 野盗が壊滅して海の魚や貝類が流通するようになったから川で獲れる魚の人気が下がったとか……。ホワイトバスも海で獲れた方が値がいいし。


「ウナギに関してはそのうち別の料理も紹介しますよ。四品目は山鶏のローストです」


「街で養殖しているとはいえ、これだけの数の山鶏を用意するとは……。」


「最近は山鶏出す店も増えて、割と品薄になっているらしいな」


「食生活が豊かになるのはいい事です」


 村長にお願いして譲って貰ったんだよな。流石にこの数は一度に用意するのがきつかった。事前にわかってればマジックバッグに保管してたんだけど。


 卵も生産してるけど、元の世界の鶏に比べて卵をそんなに毎日産むわけじゃないから高いんだよな。産んだ卵の多くは孵して数を増やしてるみたいだし。


「温野菜とチーズのカクテルサラダです。お好みで添えているソースをお使いください」


「見た目も美しくて良い……。盛りつけ方ひとつでここまで変わるものなのだな」


「レシピの提供元だ。レシピはまだまだあると言っていた」


「流石はリューク卿です」


 おおむね好評でよかった。


 山鶏のローストは割とボリュームがあったので、リチャーズはともかくセブリアン辺りには量が多いかなと思ったがここまでの料理は普通に完食しているな。


 後はデザートを残すだけだし。


「最後は桃のコンポートです。赤ワインで煮込んでいますので少し赤みが強くなっています」


「いいワインだ。これも熟成させたのだろう」


「例のマジックバッグを独占しているのはやはり強いな。儂もいくつか持っているが」


 アルバート子爵家もウイスキーやチーズの生産に使う為にいくつか持っているが、五十倍を超えるマジックバッグを持っているのは俺だけだ。


 あの話を持っていく前にすでに確保していたのがデカい。


「これでフカヤ家の新年を終了します。お帰りの際にはお土産を用意しておりますのでお持ち帰りください」


「土産か。楽しみだな」


「流石に化粧品は入っていませんよ」


 木箱にセットしてあるのは瓶詰にした長期熟成ウイスキーと焼き菓子だが、別に美容固形石鹸も一つ付けている。


 うちの商会が美容と化粧品の商会だと思われているので、何か一つくらいは付けた方がいいだろうという事で石鹸を選んだ。今は保湿剤の量産が可能なので、一番余裕があるのがこれなんだよな……。


 俺にあいさつをして土産を片手に家に帰る者や、このまま宿に泊まる者に分かれた。レナード子爵家とアルバート子爵家でも扱いのいい家の連中は帰路に就いたが、騎士爵家でも家に風呂の無い家なんかはこのまま泊まってくつろいで帰るみたいだ。一応その場合の宿泊費なんかは俺が出すって話にしたし。


 あらかた客がいなくなった後、リチャーズやセブリアンたちがやってきた。他の客が帰るタイミングをうかがっていたんだろう。


「リューク卿、大変すばらしい料理でした」


「ありがとうございます。公式とはいえ、当家の新年会ですので以前の様な話し方でもいいと思いますが」


「いや、流石にそれはまずいだろう。今は儂らしかいないとはいえ、今はフカヤ家の当主なのだ」


「貴族はいろいろ面倒ですな。仕方が無い事ではありますが」


「この辺りはまだいい。王都に出向く事があればさらに面倒になるぞ」


「やはり呼ばれますか?」


「子爵になる際には出向かぬ訳にはいかんだろう。今年の三月か四月だな」


 そのあたりでおおよそ半年か。その時期までにある程度再建にめどを立てないといけないわけだ。


 穀倉地帯については既に魔導耕運機の量産に成功しているので、アレを使えばかなり楽になるだろう。農地に関しても形を整えて管理しやすいようにしたから今までよりはマシだしな。


 清酒用の米は当然として、麦や大豆だけじゃなく水源に近い場所にはトウモロコシも植える事にしたし、農作物のローテーションもちゃんとした物に切り替える。これで今まで以上に効率的に農地を利用できるぜ。


「穀倉地帯で採れる農作物は早くてもこの夏からですね。三月か四月ですと麦や米の作付けが終わったところですか」


「……今年もう作付けができるのか?」


「一応目途が立っていますよ。その為の肥料も生産しましたし、必要な農具も揃えました。元ロドウィック子爵家の寄子を説得してこちらに引き込みましたので、彼らに農機具を進呈する代わりにこちらの畑仕事を行う人材の確保もしましたので」


 あんな僻地で寄親も無しに騎士爵で小さな村を管理していても、下手をすると子供の代で貴族の地位から滑り落ちかねないからな。


 魔族が攻めて来ても終わりだし、俺が兵力を揃えて攻めていかない保証も何処にも無い。


 元ロドウィック子爵家は丸ごと俺の領地なので、ヨーゼフが逃げ出した時点で元ロドウィック子爵家の元寄子のあいつらを好きにできる立場だったそうだ。それを材料にオスヴァルドが優しく説得したんだが、あれ絶対清酒用の米を確保する為だろう。


「フカヤ卿であれば何とかすると思っていたが、まさかここまでとはな……」


「今更ですな。焼き畑をしたようなものです、禍々し魔素に関しましては問題ないレベルでしたので」


「資金があるとそこまで調べられるものなのだな。ロドウィック子爵家でもそこまで余裕はなかっただろう」


「数年後にはこの辺りもにぎやかになると思いますよ」


 すでに王都をはじめ各地への高速馬車は始まっているしな。


 うちの商会の化粧品だけじゃなくて、他にもいろいろと売り出している。魔族領に近いといってもそこまで最前線って感じじゃない、実際に魔族の被害なんてほとんどないんだ。


 ただ、このまま平和に事が運ぶとは考えていない。


 いずれ魔族と一回は大きな戦いがあるだろう。





読んでいただきましてありがとうございます。

楽しんでいただければ幸いです。

誤字などの報告も受け付けていますので、よろしくお願いします。

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