第八話 今のところ規模はわかりませんけど、荒らされてる罠から推測すると頭犬獣人の可能性が高いですね。流石に野盗でもばれないように知恵位絞るでしょうし
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「頭犬獣人の群れか野盗……、厄介な事になったの」
「今のところ規模はわかりませんけど、荒らされてる罠から推測すると頭犬獣人の可能性が高いですね。流石に野盗でもばれないように知恵位絞るでしょうし」
「それにしても厄介じゃ。六年前の事もあるでの」
マカリオたちの両親をはじめ結構な数の村人が犠牲となり、この村から逃げる者が続出した事件。
その時襲ってきた頭犬獣人の数も正確にはわかっていないらしい。それどころじゃなかったという話だ。
「今は村の周りの雑木も伐採していますし、見通しがずいぶんよくなっています」
「武器も六年前とは比べ物になりませんし、同じくらいの数の頭犬獣人が攻めてきても何とかなりますよ」
俺が和紙を作るために、村の周りに生えている楮をはじめとする使えそうな雑木は全部伐採して回収させてもらった。和紙の木も村の周囲に生えている分は伐採したし、繊維層は根こそぎ回収させてもらっている。それ以外に生えている和紙の木は絶対に切らせないけどな!!
和紙作りに使えない木は村を囲う柵にしたり、燃料として使わせて貰ったんだよな。村周辺の雑木林も割と手入れをしたし、いきなり襲われるって事は無い筈だ。
「警戒するのは夜ですが、日中に襲って来る可能性もあります」
「前回は日中だったかの。奴らあまり夜目もきかんようじゃ」
全然だめじゃねぇか……。
頭犬獣人ってほんとに犬と人間のいい所を完全に潰してるな。体躯、腕力、知能、動きは人以下、そして犬程走るのが早い訳でもなく攻撃力も無い。野犬の方が強いって言われるだけある。
「昼間に攻めて来るんだったら話は早い。物見櫓も建てたし、奴らが攻めてきてもすぐにわかる」
「今回はいろいろと事前に準備してるのはでかい」
「正直、多少なりとも頭がよけりゃ、攻めてこようなんて考えない位だけどな」
俺だったらこの村に手出しなんてしない。
確かに蓄えた食糧なんかは魅力的だが、これだけの物資を抱える村が無防備だとかありえないからな。
ただ、そこまで頭の回らない奴が多いのも確かだ。目の前に食いものが山積みになってりゃ、多少の犠牲を覚悟で襲ってみようかななんて考えるのか? 人でもそんな奴が居るが、特に魔物って奴は……。
「とりあえず物見櫓の見張り役を二人一組にして監視を強化しましょう。迎撃計画はリュークが以前話した通りで」
「そうじゃな。リューク、頼めるか?」
「一度や二度は襲撃があると思っていましたから準備は万端ですよ。返り討ちにした奴らの首は北側に並べてやりましょう」
「……な、あの顔のリュークは恐いんだ」
「襲って来る頭犬獣人に同情するよ。六年前にリュークがいてくれたら……」
「そうですね。お父様やお母様を失わずにすんでいたでしょう」
状況次第さ。それにその頃の俺はまだ八歳だぞ? 何を期待してるんだ……。
俺は過去には戻れないし、失ったものは取り戻せない。でも、未来はどうとでもなる。
あのくそったれなトリーニだって、誰もが安心して住める安全な街に変える事はできる筈。そうしなきゃ俺の本当の目的なんて決して叶わねえだろう。
「村の監視を強化し、しばらくは北側への狩りや採集は禁止じゃな。リュークには出来るだけ村に居て貰う」
「了解しました。罠の仕掛け方は教えていますし、他の人でも食料の入手は可能でしょう」
「すでに飼育している角豚や山鶏の数も割といます。燻製や塩漬けにした角豚や魚も結構な数がありますし、一週間くらいは狩りに出なくても平気ですよ」
そりゃこの冬を越す為の食糧だからな。この辺りはあまり寒くならないけど、それでも荒れ地の獣の数は減るだろう。
食糧なんて、腐らせなきゃいくらあっても困らないのさ。
「とりあえず頭犬獣人を撃退するまで村で待機しておくか。川への往復だけ誰かにやらせりゃいい」
「そうじゃな。あの時の様な悲劇は御免じゃ」
「お爺様……」
六年前に村が大打撃を受けたのは、放置されてた空き家の数で分かるからな。
しかし、北側のどこかに頭犬獣人の群れが拠点にできる何かがあるのか? 今まで襲ってこなかったのも不思議なんだが……。
そんな事より当面の問題は頭犬獣人だな。いろいろ考えるのは撃退した後でいい。
◇◇◇
村で監視を強化して四日目。ようやく北側の荒れ地に潜伏していたと思われる頭犬獣人が動き始めた。
頭犬獣人の総数は確認できるだけで三十。何の準備もしてなけりゃ十分な脅威だが、今のこの村を襲うには戦力不足なんじゃないか?
「村長!! 頭犬獣人が来ます!!」
「よし!! リューク頼んだぞ!!」
「任せてください。左右から矢の雨を降らせろ!!」
「了解!!」
見通しのいい場所をあんな速度で駆けて来るなんて自殺行為だぜ。
しかもこっちの仕掛けはそれだけじゃない。
「盛大にすっ転んでるな」
「あんな意地の悪い罠を仕掛けるのはリュークさん位ですよ?」
「そういえば罠の設置中にカリナもひっかかってたな」
「マカリオの意地悪!! あの時はあなたが私を呼んだからっ!!」
矢竹を二本一組にして上の部分に鋼蔓製の紐をわたした簡単な罠。それでも簡単には抜けないように本体はかなり深くまで埋めているから、地面から覗いているのは本当に先端部分だけだ。そんな物でも草の生える場所に埋めてあると簡単に引っかかるんだよな……。
全力で走った時にこれに引っかかると割と足首にダメージが来る。そうなるともういい的にしか過ぎない。
「その位にしといたらどうだ? それよりカリナはこんなところに居ていいのか? ここは割と最前線だから危険だぞ」
「お爺様がここに居なさいって。一番安全だろうから」
「そりゃリュークのそばが一番安全だ。といっても、今回は危険な場所なんてなさそうだけど」
「入念に準備すりゃこんなものさ。追加の敵影はあるか?」
「来ます!! なんだあの数!! 追加で五十ほどこっちに向かってる」
「五十か……」
左右から回り込んでくる可能性もあったので、荒地に生える木の間にも鋼蔓製の罠が仕掛けられている。
遠回りすればするほど頭犬獣人の勝算は消えていくってもんさ。
「最初の十頭くらいが罠にかかったみたいですが、残った奴らは一直線にこっちに来ます!!」
「矢で射殺せ!! 多分これで最後だろう」
「了解!! 矢の残弾はまだまだあります!!」
そりゃそうだろ。数百人単位で野盗が攻めてきても何とかなる量を確保してるからな。
しかし全部で八十頭か。そんな数の頭犬獣人が一体どこに潜んでたのやら……。
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