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第七十八話 この村の税金に関しては三年は無税だ。他の村や町にかけている税金がある以上、そこから先は規定通りの税金を払って貰う事になる

yoku




 ドワーフたちとの話し合いからすでに二ヶ月、今は今年もあとひと月で終わろうという十三月の第一週目だ。この二か月余り、ドワーフの移住や城塞都市トリーニ近郊の鉱山開発と村の準備は大変だった。


 移住してきたドワーフのうち五十人程は鉱山を簡単に掘り進んで自分の居住スペースなどを作り、そこに工房などを立ち上げて仕事を始めた。そいつらは自動的に工房で鍛冶屋をやる事になる。


 残るの五十人のうち三十人ほどが畑などの農作業を受け持ち、残りの二十人が街への買い出しや雑務などを担当しているようだな。


 杜氏として酒蔵も始めるかと思えば、流石に何もない場所でいきなり酒造りを始めるのは難しいらしく、準備は進めているが酒の仕込みは来年から始めるそうだ。っていうか、結局酒仕込むんじゃねえか。


「この村の税金に関しては三年は無税だ。他の村や町にかけている税金がある以上、そこから先は規定通りの税金を払って貰う事になる」


「ここは一応人族の村という事になっておるからな。村長はあの男でいいのか?」


「この規模の村だったら問題ない。この先少しくらい発展しても大丈夫だろう」


「一応引き受けたけど、僕に村の運営能力なんてないからね」


「オリボだったら十分務まるさ。それともラウレアノ卿と呼んだ方がいいか?」


 オリボは俺の権限で騎士爵を与えて寄子にした。この村を領地として与えてもいいんだが苦労するのが目に見えているので、法衣貴族として年二十万スタシェルと村の運営費用として追加に二十万スタシェルを渡してある。商会員でもあるのでそっちの給料もオリボの個人口座に振り込んでいるけどな。


 三年後まで必要な物はすべて俺が出すという条件だが、近くの荒れ地を開拓してそこにいろいろ植えて貰う予定だ。


「今まで通りでいいよ、いきなり貴族なんて言われても困るだけだし。立身出世は夢ではあるけど、僕に騎士爵なんて勤まるのかな?」


「村の運営に関してはドワーフも協力してくれる。主な役割は俺とのパイプ役だ」


「この村の産業はドワーフ頼りの所が大きいから仕方がないけど、人口比というかドワーフは百人いるのに、僕たち人族は二十人しかいないのは」


「これでも送れる最大数だぞ。旧スラム街の孤児だったら送れるが、銭にならん奴はいらんだろ?」


 流石にもういないだろうと思って区画整理をしていたんだが、隅々まで探したらよくこんな所に隠れてやがったなって場所に数十人の孤児が見つかったんだよな。


 その子供はインフェルノサラマンダー事件の時に家族と一緒に逃げてきた子供たちで、親は全員処刑されていたが旧ロドウィック子爵家に仕えていた兵士がこっそりと逃がしていたそうだ。


 全員教会の孤児院に収容したが、あいつらには徹底的に心のケアを行わないとこの先どんな化け物に育つか分かったもんじゃないからな。リチャーズの奴なんてこの先何をするか分からないから、面倒が無いように殺した方が早いとまで言いやがった。


「年が明ければ人は増える予定なんだよね?」


「近場の貴族領からは割と引き抜いてるからな……。食い詰めた村の連中は来るかもしれんが、正直今残ってる奴らが何処まで役に立つやら……」


「アルバート子爵家に先に引き抜かれそうだよね」


「立地的に先にあそこを通るからな。街道沿いに移動してたら途中の村に住み着くだろうよ」


 わざわざここまでくるメリットが無いからな。


 アルバート子爵家の貴族が街道沿いに作った村もあと一年は無税だし、街道の整備に人手がいるから移住は歓迎している。


 高速馬車が停泊する駅舎近くの村に至っては、他の街道沿いの村から人を引き抜こうとしてるほどだ。高速馬車が止まる場所だとそのうち大きな街になる可能性は高いし、村長から街長になろうとしているのも理解できる。人口が増えりゃそのうち領地として独立できるかもしれないしな。


 大き目の街になれば準男爵くらいにはなれるかもしれないし、今の名主程度の地位より遥かに権限が増す。その分責任も大きくなるんだが、そんなことは考えていないんだろう。


「現状で何とか出来ればいいんだけど、百二十人程度の村だと魔族の襲撃が怖いし」


「儂らを貧弱な人族と同じだと思うな。このハルバードがあれば、多少の魔物程度どうにでもなる」


「村の防衛用だったら例のクロスボウがあるだろう。アレをドワーフに強化改良して貰えばいいさ」


「出来るといいんだけどね……」


「なんじゃ? 儂らに作れぬ武器などないぞ。……いいクロスボウだが、儂らに任せればもっと小型軽量で高威力にしてやる」


 流石にドワーフ、この程度のクロスボウだったら問題ないか。


 俺は携帯型魔導砲があるからいいが、流石にあれをこの村に置くわけにはいかないからな。あんな武器が世界に広がったら大ごとだ。


「インフェルノサラマンダー級の魔物でなければ問題ないだろう。流石にあのクラスの魔物はこっちで何とかする」


「何とかできるの?」


「この村に近付いた時点で魔導砲の射程距離に入ってる。今度はトリガーを俺たちが管理しているから、仕損じる事は無いだろう」


 前回みたいに邪魔される要素が無いからな。


 ついでに言えば、前回の教訓で魔導砲の発射に必要な魔石を三発分確保する事になっている。流石に三発分あればドラゴン相手でも仕損じる事は無いし、何かあった時にも脅しで一発討つ事も可能だからだ。


「射程外から来た時はダメって事か」


「一応俺の方で最後の手段がある。この村にそのクラスの魔物が近付いた時点で連絡は入るだろうから、ドワーフたちにお願いして坑道内にでも立て籠もってくれ」


「万が一用の避難所も建設して貰った方がいいかもしれないね」


「食糧保管用のマジックバッグもいくつか用意した方がいいな。水と塩は多めに用意しておいてくれ」


 食糧庫を建設しなくていいのはマジックバッグ様様だよな。


 おかげで食糧庫を作るスペースがあれば、余分に居住区を確保できる。


「それだけの坑道を掘るのにどのくらい時間がかかると思う? そんな時間があれば……」


「出来るだけ早めで頼む。……これは先日の五十年物には劣るが、近いレベルで四十年物のウイスキーなんだが」


「うむ、居住スペースじゃな。避難所として問題の無い規模で作っておこう」


 ウイスキーの樽二つで快く引き受けてくれた、というか最優先で作りそうな勢いだ。


 こいつらにはウイスキーよりウオッカの方がいいんじゃないかと思うが、ウオッカの方はまだこいつらを唸らせるだけの酒が造れてないんだよな。フレーバーを追加するのが普通じゃないのは理解しているが、元々ウォッカってほぼアルコールだしな……。


 フレーバーを追加して酒精が最強でなおかつあのウイスキーより味わい深いウオッカ。いろいろ研究しているが、まだまだ時間がかかりそうだぜ……。


「オベール騎士爵家のクローエ嬢も一月後にはここに居住する。最初から一緒に住むんだったらいいが、結婚するまで別の家に住むんだったらその家も用意しておいた方がいいぞ」


「え? クローエもここに来るの?」


「長距離恋愛というには近すぎるが、結婚前の恋人を引き離す真似はしないさ。俺が子爵になったらオリボを準男爵に陞爵(しょうしゃく)させる事を約束したからな。今は実家で嫁入り道具でも揃えてるんじゃないか?」


「子爵の権限で準男爵まで陞爵(しょうしゃく)出来るの?」


「ここが元辺境拍領なんで、俺たちの権限も普通の子爵より大きいんだ。大体フカヤ領は子爵だとあり得ない大きさだぞ」


 常識で考えると伯爵領か侯爵領に匹敵する大きさだ。


 大穀倉地帯であり鉱山も大き目の湖も存在するし、西の果てには大きな大森林がある。まあ、その大森林の奥はエルフの国があるらしいから、あまり派手に開発できないし手出しもできないんだけどな。


 俺が探しているエルフはその大森林のエルフではなく、どこか大きめの森か何かに住み着いていないかなという事なんだ。国から出たエルフだったらこっちに引き込める公算がデカいし。


「その分苦労するのはわかってるよ。リュークじゃなければ生かしきれないだろうね」


「穀倉地帯の再建と、ダンジョンなんかの捜索と開発。だが今は人手が足りなすぎて、ダンジョンが見つかってもそこに村すら作れやしない」


「それは仕方ないじゃろう。ダンジョンが見つかれば元の村から百人くらいダンジョンの近くに移住するかもしれんぞ」


「産出物次第だろうな。見つかるのがクズダンジョンじゃ無い事を祈るだけだ」


 ロックスパイダーがいたクズダンジョンみたいなものが見つかっても仕方がないからな。


 とはいえ、あまりに広大で攻略不可能なレベルに育ったダンジョンも困ったりする。ダンジョンがある程度の規模になると出現するという、ダンジョンボスを討伐した時に手に入る宝箱が獲れないんじゃ魅力は半減だ。


 何事もほどほどが良いって事だ。


 オープンダンジョンの場合、採集できる薬草類が魅力的なので規模が小さくても全然問題じゃない。正直普通のダンジョンが見つかるよりオープンダンジョンの方が何倍もありがたいんだ。魔物があふれ出る危険性もオープンダンジョンの方が上だがな。


「クズダンジョンでも稀に鉱石の産出が良い場合もある。その時はダンジョンコアが消滅するまで、徹底的にダンジョンボスと中の魔物を狩りつくすがな」


「ドワーフもダンジョンに潜る事があるのか?」


「日常茶飯事というか、我らが何処に住んでいるか考えれば分かるじゃろ?」


「ダンジョンの探索はお手の物か」


「そういう事じゃな。中にいる魔物の種類次第では手を出さぬこともある、相性もあるでの」


 割とドワーフは万能だと思ったが、それでも苦手な魔物とかいるのか。


 ダンジョン内には厄介な魔物も多いって話だしな。人を石に変えたり氷やガラスの彫刻のような姿に変える魔物もいるらしい。被害者を回収して売ってる奴もいるとか……。


「どこかでダンジョンが見つかった時には探索も頼むかもしれん。その時は頼むぞ、もちろん報酬は弾む」


「状況次第じゃな。お主からの仕事がどの程度進んでおるか次第じゃぞ」


「それもそうだな……。魔導耕運機の部品が不足して困るのは俺だ」


 あの広大な穀倉地帯を生かすも殺すも魔導耕運機次第だ。あれがあれば数十分の一の人員でも効率よく畑を耕せる。


 その後の畑の手入れは結局人力だが、そこにもいろいろと近代に出てきた道具を導入して効率化を図るつもりだ。


 最後に需要なのが人の手なのは現代農業でも変わらないみたいだしな。


「変わった道具の注文も多いが、普通の鎌やスコップなどの注文も多いな」


「それも必要な物だしな。この辺りや穀倉地帯で使う結局日用雑貨も頼むしかない」


「お主が用意するのか?」


「効率重視というか先行投資だ。素手でちまちま農作業されても困るしな」


 使える道具はなんでも使う。苦労なんて少ない方がいのさ。


 それでなくても農作業を行える領民の数が少ないんだ、効率をよくしなけりゃ収穫量にも影響しまくる。


「そのあたりの農具の生産も僕の仕事って事だね」


「当面はそれで頼む。そのうち儲かりそうな魔導具か何かの利権を回すからしばらくは村の運営は任せるぞ」


「商会役員の給料も貰ってるからね。毎月法衣騎士爵位の俸給と同額が貰えるから資金不足になる事は無いと思うけど」


 オリボに払うアーク商会の役員報酬は月二十万スタシェル。


 支店をひとつ任せるんだからこの位は当然なんだが、ここが街に発展した時にはアーク商会の店を建てるのでそこの管理も任せなきゃいけないしな。その時は店長をトリーニにいる誰かに任せる事になるだろう。


「そういえば村の名前は決まったのか?」


「ラウレアノ村にしたよ。僕の家名を付けるから立派な村にしなきゃね」


「いずれ大きな街になるさ」


 これでドワーフの問題は一応何と片付いた。


 後はエルフか……。


 西の大森林にすむエルフたちともそのうち交渉しなきゃならないかもしれないな……。




読んでいただきましてありがとうございます。

楽しんでいただければ幸いです。

誤字などの報告も受け付けていますので、よろしくお願いします。

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