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第七十六話 護衛にオスヴァルドは連れて行くし、ブリトニーも同行を希望している。ドワーフが余計な心配をしなくて済むように、同行する人間はこの位にしておいた方がいいだろう



 先日、オスヴァルドの部下がドワーフの集落を発見したという連絡を受けた。


 俺としては今すぐにも飛んでいきたいところだが、今手持ちにある一番早い移動手段は高速馬を二頭使った馬車なので片道に二日かかる計算になる。


 向こうでの交渉次第だが、最悪一週間ほどは城塞都市トリーニを留守にする事になるだろう。


「どうしても行かないといけないのはわかるけど、誰かを同行させたりしないの?」


「護衛にオスヴァルドは連れて行くし、ブリトニーも同行を希望している。ドワーフが余計な心配をしなくて済むように、同行する人間はこの位にしておいた方がいいだろう」


「私は連れて行かないの?」


「アーク商会の魔導具開発部門の責任者を、一週間も拘束できないさ。俺の不在中に魔導具はアリスに任せるとして、化粧品の成分抽出はファネッサに頼んである。何かあったら彼女に相談してくれ」


「あの……私でしたら問題ありませんよね?」


「カリナはアマリアと一緒に事務仕事だ。うちの商会も仕事が増えた、何人もここを留守にしたりできないのさ」


 割と自由に動けるのは、護衛兼商会員のオスヴァルドとブリトニー位だ。


 最近は割と仲良くなったというか、ブリトニーに至ってはそれでいいのかってくらいラフな姿でうろついていたりもするが、その姿を見てオスヴァルドなんかはやれやれといった顔をしてたりするんだよな。


 完璧超人というか、ブリトニーに隙が無いと思っていたのはどうやら俺の思い違いで、普段は割とへっぽこというか抜けていることも分かった。


 一方でオスヴァルドの方は俺と一緒に晩酌をしたりもするが、こいつが酔った姿は見た事がないし隙なんかも見せる事は無い。


 毒やアルコール類に対する抵抗力が高いのかもしれないが、護衛という立場を考えて酔わないように気を使っているんだろうな。ブリトニーの奴は一回スクリュードライバーを呷りまくった挙句、見事に酔い潰れた事があるんだが……。


「仕方がありませんね。ブリトニーさんが一緒なのは、心強くもあり不安でもあるんですが」


「私は流石に仕事中に気は抜かんぞ」


「……」


「先日の一件は忘れて貰おうか。お爺様にも散々怒られたのでな」


「いざという時は儂が控えております。安心していただければ」


 オスヴァルドだけでもインフェルノサラマンダー程度だったら討伐できるという話だからな。


 あれでも災害級の魔物だし、同レベルの敵はそうそういないだろう。


「リュークさんが護衛としてずいぶん信頼されてますけど、オスヴァルドさんって強いんですか?」


「オスヴァルドがいれば俺に何かある可能性はほとんどゼロだ。ブリトニーもいるから万が一も無いだろうな」


「そこまでなのね……。分かった、でも無茶は絶対にダメだからね」


「今回は交渉と仕事の依頼だ。そう拗れたりはしねえよ」


 ドワーフは職人気質だそうだが、そこに合わせて話をすりゃ問題ない。


 失敗作を誉めない、いい物はちゃんと評価する、技術の粋を集めた技術品の様な作品をサンプルとして差し出す。これだけされて乗って来なけりゃ俺の見当違いだ。そんな奴らは欲しいとも思わない。


 俺専用の魔導バイクなんかの完成には本当に俺の求める精度で作り上げられた部品が大量に必要だ。


 しかも精度だけじゃなくて強度なんかも必要で、この辺りの鍛冶屋じゃフレームのパーツひとつ任せられなかったからな。


「お主であれば大丈夫じゃろう。ドワーフは頑固者ではあるが、話を聞かぬような輩ではないのでな」


「何人かここに居住してくれればいいんだがな……」


「それは難しかろう、この街の近くには鉱山が無いんじゃ。奴らは街には暮らさんぞ」


「仕事を頼みたいから出来るだけ近くに住んで欲しいんだ。高速馬車で片道二日もかかる場所だと、商品の納品に時間がかかって仕方がない」


 どれだけ早くても入荷は一週間後。


 そんなに緊急の仕事は頼まないつもりだが、それでも納期には余裕を持てる状況の方がいいに決まっている。


 天候次第じゃ高速馬車を使えない事もあるだろうしな。


「近場に鉱山がないか調べさせるか?」


「フカヤ領内で一番近場の山は西側にあるあそこか。あの山が使えるかどうか調べてくれ」


「ダンジョンでもよいのだがな。鉱石が採れる事が重要じゃ」


「ダンジョンか……。それも見つかれば最高なんだけど、そこまでない物ねだりはしないさ」


 領内にはいくつもダンジョンがあるだろうが、ロドウィック子爵家が探してもいなかったからどこにいくつあるのかすら分からない。


 あのクズダンジョンのような状況でもない限り、ダンジョンが自然消滅する事は滅多にない。


 だからダンジョンが存在している場合は、これまで放置してきた事もあってかなり成長してると考えた方がいいだろう。


「仕事ばかり増えるわね」


「そういう領地を押し付けられたからな。領主の仕事も楽じゃねえさ」


 俺の魔導バイクもそうだが、手押し型と牽引型の耕運機の開発と量産については急がなきゃならない。


 最低でも来年の田起こしの時期の時期までにはある程度数を揃えたい。でなけりゃ、あの広大な穀倉地帯を少人数で何とかするなんて不可能だからな。


 まずはドワーフとの交渉。穀倉地帯再建計画はここから始まる。


◇◇◇


 高速馬車を使って二日。そこから山に向かって一時間ほどの距離にドワーフの集落は存在した。


 洞窟内だけで完結しているのかと思えば、洞窟の周辺にいくつも大きな小屋が建てられている。あの中のいくつかはおそらく酒蔵だろう。


「連絡通りの時間に来たか。変わった組み合わせだが、そこの人間はその二人の正体を知っているのか?」


「魔族だってことだったら承知してるぞ。別に問題はないだろ?」


「正体を知りながら問題無いと事もなげに口にするか。話の通り、変わった人間で間違いないようだな」


「そう伝えておいたはずじゃ。これほどの変わり者は他におるまいて」


 失敬な。多少変わっているのは自覚しているが、俺くらいの人間なんてそれこそいくらでもいるだろうぜ。


 それに、言葉が通じて話が通じる相手だったら何の問題も無いだろうが。言葉は通じるのに話の通じないバカが世の中には何と多い事か。


「相手が誰であれ、言葉が通じて交渉可能であるなら問題はない。多種族を全部排除しようなんて考えが狂っているのさ。そこまで極端な奴には流石にあった事は無いが」


「なるほど、それで我らと交渉したいという事か。受けるかどうかは仕事の内容と報酬次第だな」


「ドワーフがそれなりに鍛冶と杜氏の腕なのは聞いている。ただ、俺の依頼はかなり精度と強度が要求されるんだ。出来るかどうかは腕次第だが」


「面白い、我らの腕を疑うとはいい度胸だ。この世界広しといえど、我らドワーフ族より勝る鍛冶屋などおらぬ」


 ドワーフが職人気質ってのは間違いないな。


 ここで乗ってこないようじゃ話にもなりゃしねえ。ただ、本気で俺の頼もうとしている仕事の内容はキツイ。ここにあの精度を出せるような機材があるのか?


「とりあえずこれが魔導モーターの部品と、魔導耕運機の部品だ」


「なんだこれは? なるほど、これを組み合わせて動かすのか……。こっちの魔導モーターとやらの部品もかなり細かい造りだな」


「ああ、これを作れる奴なんて本当に一握りだろう。俺が全力で加工して、何とかできるかどうかって代物だ」


「これをお前が作ったのか!! 」


 魔導耕運機の機械的なパーツはともかく、魔導モーターの仕組みや作りに関してはおそらく理解不能だろう。


 俺としては自作するには限界がある細く長い銅線の量産だけでも、ドワーフに任せたいと思っているんだが……。


「この魔導耕運機という機械の部品は何とか加工できる。だが、こっちの魔導モーターだったか? これは我らには理解不能な技術だ」


「魔導モーターに関しては鍛冶やの技術でどうこうなる物じゃないのは理解している。こんな感じの細長い銅線を量産して欲しいんだが……。作り方はこの羊皮紙に書いてあるし、必要な工具は俺が提供しよう」


「なるほど……、確かにこの通りにやれば細長い銅線や鋼線を量産可能だ。こんな方法を人族が考え付いただと……」


「こ奴を普通の人族と考えぬ方がよい。勇者ではないのだが、勇者並みかそれ以上の知識を持っておるのじゃ」


「ゆ……勇者ではないのか!! 馬鹿な、信じられぬ」


 今までこの世界に来た勇者がいるのに、この世界がこんな状況なのが驚きだ。


 例の謎システムを考えついた奴は天才だと思うが、そいつが勇者だっていう情報も無いしな……。


「いろいろ考える時間だけはあったんでな。で、とりあえず銅線や鋼線の量産は任せてもいいか?」


「銅線の量産は引き受けよう、この近くでも銅は産出されておるからな。この羊皮紙には色々な工具や機械の設計図もあるようだが……」


「いずれ他の仕事も頼む、その為の先行投資だ。一緒に世界を変えようじゃないか」


 ドワーフがどれだけ優れた鍛冶屋でも、工業化の波が訪れればこの世界から姿を消す可能性が高い。


 鍛冶屋としての知識に近代の工業知識が加われば無敵だろう。


「こんな物を……、いいのか?」


「俺は信用できると感じた相手にしか技術を渡さない。それに、それを使いこなせる奴らも他にいないだろう?」


「そこまで信用されては応えぬ訳にはいかんな。この羊皮紙に書かれた技術、我らで極めて見せよう」


「それでこそだ。とりあえず魔導耕運機の部品と銅線の量産を急いでほしい。出来れば年明け位に頼みたいんだが」


「これだけの物を貰っておいて悪いが、我らも技術を安売りする気はない。高いぞ」


「材料費と技術猟料と加工賃は正規の額で請求してくれ。それとは別の話だが、城塞都市トリーニの近くに移住してもいいって奴を募りたいんだが……」


 工業拠点をいくつか準備しておきたいからな。


 魔導耕運機の部品程度だったら生産できるくらいの工場を、トリーニ周辺にいくつか建設する予定だ。


「我らを信用できぬという訳ではないんだろう。理由を聞いてもよいか」


「俺の領地には産業が少ないんでな。魔導耕運機はいずれ量産するので部品工場を今のうちに準備しようと思ってな」


「我らを信用できぬのか?」


「魔導耕運機の部品の量産はちょっと技術があれば誰にでも出来る。お前たちに任せたいのはほんの一握りの者にしか作れない精密な部品類だ。言っておくが、この先仕事が減る事なんてないぞ」


「了解した。そこそこの腕の者を寄越せという事か」


「そういう事だ。忙しくなった時につまらん仕事に人手を取られたくないだろう?」


 ドワーフの鍛冶屋であればそのあたりの奴らと比べても十分に一流だろう。


 そいつらから技術を学ばせて、魔導耕運機の部品位は作れるようにしたいんでな。


 別に全部の仕事を近代化したい訳じゃないが、農作業に関しては近代化させる事で恩恵は多いが弊害はほとんどない。


 肥料やその他の外に関しては、そのうち良くすりゃいい。




読んでいただきましてありがとうございます。

楽しんでいただければ幸いです。

誤字などの報告も受け付けていますので、よろしくお願いします。

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