第七十四話 いや、俺は大きさに貴賤は無いと思っちゃいるが。気にする事もないだろう?
最近俺の周りで女性商会員をはじめとする数人の動きがおかしい。
護衛として傍にいるオスヴァルドはともかくとして、同じく護衛で雑務もこなすブリトニーとの関係を邪推されている気もするな。
最近は書類仕事も増えたので執務室で仕事をする日も増えたが、たまに一階に顔を出した時にアリスたちの視線がおかしい気がする。
「ブリトニーが凄腕の護衛なのはわかるけど、少し距離が近いと思わない?」
「私は適切な位置で仕事をしているだけだ。妙な言いがかりはやめて貰おうか」
「リュークさんは優しいので何も言わないと思いますが、少し距離が近すぎると思います」
アリスはともかくカリナまでブリトニーに敵意を剥きだして突っかかっているのは珍しいな。
……アレか? 成長中な体形のアリスやカリナに比べて、ブリトニーは控えめに言ってもスタイルがいい。あの胸で今まで音もたてずに行動していたのは感心する位だ。
「リューク。視線がいやらしいわよ」
「リュークさんも胸の大きい人が好きなんですか?」
「いや、俺は大きさに貴賤は無いと思っちゃいるが。気にする事もないだろう?」
「その言い草が大きい方が好きって白状してるようなものよ!! 私だって後数年もすればブリトニーと同じくらいに成長するわ」
「そうです。私も今は少し小さいかもしれませんが、まだまだ成長中なんですよ」
胸に手を当てながら大声でそれを主張するのはやめて欲しい所なんだが、俺がそれを指摘すると藪蛇以外の何物でないのは理解しているから口には出せない。
ブリトニーが熱心に仕事をしているのは、俺が持つ清酒が目的だ。
流石にいつまでもタダで提供する訳にもいかず、オスヴァルドも同じような条件で報酬を求めたので仕事量に応じて樽で清酒を渡す契約に変えた。現金に関しては今までの盗賊ギルドの稼ぎで結構な額を持っているそうで、そこまで必要ではないらしい。
オスヴァルドに至っては酒目当てで、部下に命じてドワーフやエルフの住処を全力で捜索中という事だが……。ん? なんだその目は?
「やれやれ、胸の大小などお主であればどうにでもなるだろう?」
「いや流石に俺でもそこまでは手出ししてないぞ。それにあの薬には女神鈴が……」
「「「「あの薬?」」」」
一瞬で部屋にいる全女性商会員の視線が俺に突き刺さった!!
まずい。アリスとカリナだけでなく、他の女性商会員にロックオンされたようだ。
いや、この世界にはあるんだよ本物でノーリスクな豊胸薬が。ただ、レシピというかその素材の一つである女神鈴の入手が困難で、しかも女神鈴は蘇生薬の材料でもあるから高価で手に入りにくいんだよな。
「慈愛の粒だったか? 材料は確かに希少じゃが、お主であれば調合可能じゃろう?」
「女神鈴はどうするんだ? アレは一粒で金貨一枚って言われてる超高級な物だぞ。俺も散々探したが、この辺りにはただの一本も生えていなかった」
「清酒湯会の一斗樽ひとつで部下に捜索させてもよいが」
「払うわよね?」
「払いますよね?」
笑顔で問いかけてくるカリナとアリス。でも絶対笑ってないよな? 周りの女性商会員も思いっきり頷いてやがる。
保湿クリームや化粧品を話した時より視線に殺気を感じるんだが……。
ここで払わないという選択肢を出来る奴は相当な勇者だろう。俺としても女神鈴は必要なので、清酒湯会の一斗樽ひとつ程度の報酬で手に入るんだったら願ったりではある。
「これでいいか? どこかで栽培できりゃ一番いいんだがな……」
「確かに栽培できれば最高じゃろう。例の場所で育ててはどうだ?」
「あそこか……。立ち入り禁止地区だしちょうどいいかもしれないな」
赤茄子の木を植えたあの場所。
元々立ち入り禁止だし、割と高価な肥料も使っているのでしばらくは大丈夫なはず。
俺も偶に現地に行っていろいろしてるしな。今年分の赤茄子の実は千を超えたが、それもほとんど全部シスターシンシアに渡したし、成長しきった種も周りに蒔いておいた。あれで数年後にはあの辺りに新しい赤茄子の木が生えるだろう。
「リュークに豊胸薬の治験は無理よね。仕方がないから私が協力してあげるわ」
「アリスさんずるいです!! わ……私だって協力位できますから」
「すぐ調合に入るかどうかは入手できる女神鈴の数次第だな。少ない場合は全部植えて完成するのは新しい実が生ってからだ」
「その場合は薬が出来るのは何時になるんですか?」
「種が生るのは早くて半年後か? それまでに他の材料もそろえておくので、材料が揃えばすぐにできるぞ」
成長速度を上げる薬もあるが、薬効にどの程度影響を与えるか分からないから下手な真似ができないんだよな。
赤茄子の木には実の成長を促す肥料を使ったが、花が咲いた後はその肥料の使用をやめた位だ。
「やっぱり移動手段にバイクか車が欲しい所だ。商会の頭って立場でも遠出は難しいが、その上で領主となるとさらに何処かに遠征なんてできなくなる」
「遠征は止めないけど、最低でも日数分の材料は用意していってよね。リュークにしか抽出できない材料もあるんだから。リュークにしか調合できない薬や商品も多いけど」
「今でも一週間分くらいは余裕があるだろ? 遠征する時には最低でも二週間分は用意するさ」
「抽出できないのは本当に一部だしね。本当にどうやってあれを抽出できるの?」
「経験と知識の差だ。こんな物質が欲しいっていう強い思いと該当する物質の知識かな?」
あの錬金術装置には本当に感心する。
やり方次第で本当にエリクサーとかも調合可能なんじゃないか? 抽出機能の逆をやれば調合も可能みたいだしな。
アリスやカリナをはじめとするうちの商会員に何かあった時、都合よく教会の奇跡が使えるとは限らない。その時の為にある程度は作っておいた方がいいんじゃないのか? ただ、シスターシンシアに悪いから売らずに俺が保管するだけにした方がよさそうだ。
抽出に関しては、現物があっても正確な情報やイメージが無いと抽出しにくいらしい。他の錬金術師もだいたいどんな物かは分かってるみたいなんだが……。
「ドワーフの探索も進んでおる。もうじき居場所を特定できるじゃろう」
「ドワーフが見つかるまでにある程度余裕のある生産が出来る状態にしておかなきゃいけないな。この後は工房に籠るぞ」
「了解。やっぱりうちの商会はリュークがいないと駄目ね」
「ホントです。リュークさんだけが頼りです」
最近は商会の書類仕事の多くをアマリアに任せてあるし、問題があれば念和で聞いてくるので俺は安心して俺専用の研修施設に籠れるって話だな。
化粧品なんかに必要な成分の抽出にも魔族たちに手伝って貰っているが、流石に魔力が桁違いなので効率はかなりいい。
王都からの催促も凄いし、化粧品の量産には力を入れないといけないな……。
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