第七話 山鶏と角豚は村で飼い始めたし、肉は十分に足りてると思うんだけどな
実りの秋……。と言ってもこの村の畑でそこまで大規模に麦なんかを植えてる訳でも無く、畑で採れる野菜なんかもたかが知れてる量でしかない。
しかし、それでもこの村の住人が冬を越す為の貴重な食料なので、村人総出になって畑で採れる実りに一喜一憂しながら作物を籠に積み上げている。あの籠は俺が作って配ったものだけどな!!
というかあの村長、手先が器用だとかなんだと理由を付けて俺に様々な道具を作らせるんだよな。川で漁をするための罠とか……。矢竹を使えば簡単にできるものが多いけどさ。
収穫の話に戻るが特に様々な農作物が植えられてあり一番実りの多い村長の畑は、村人が数人がかりで収穫を手伝っている。
ここ数ヶ月の間に見つかった荒れ地周辺の植物の中で最も重宝されているのは矢竹で、その次は竹糖だろう。矢竹はそれこそ罠や籠などに使われているし、家の補強材などにも使われている。
見つかった竹糖の規模は矢竹には遥かに劣るが、この程度の寒村でたまに使う程度の砂糖ならば自給できるようになった。
砂糖などの調味料といえば、最近は独自に白毛長兎の内臓などを利用し、肉醤の製作を開始している。肉醤に関してはガキの頃にも仕込んだ事があるが、あの時は城塞都市トリーニの近くにも割といる丸兎って小さ目な兎の肉や内臓を使ったんだよな。塩はトリーニでもかなり安いので肉醤を仕込めるだけの量がかなり安く手に入った。岩塩の産地も割と近場に多いしな。
村人の多くは畑の手伝いだが、一部の人間に振られた仕事は違っている。ああ、俺たちは肉類の確保って事で川に仕掛けた罠の回収と荒れ地での狩りだ。
「山鶏と角豚は村で飼い始めたし、肉は十分に足りてると思うんだけどな」
「村人全員が冬を越すには少し足りませんわ。それに、山鶏や角豚はまだまだ増やしてる最中ですよ」
「カリナの言うとおりだね。食肉として利用するにはまだ数が足りないよ」
マカリオとオリボとカリナ。最近の狩りにはこいつらがついてくる事が多くなった。
マカリオたちに狩りの経験を積ませたいという村長の思惑ではあるが、どうやらあの村長は本気でカリナと俺をくっつけようと考えてるっぽい。これから俺がやろうとしている事を考えれば迷惑極まりないんだが……。
「冬になった後で川で魚がどのくらいかかるかはわからないが、この辺りだと普通に魚はいるんだろ?」
「贅沢な話だとは思うけどさ、毎日魚ってのも飽きると思うよ」
「そうですね。リュークさんが色々披露したおかげです」
「ここまで急速に村人の舌が肥えるとは思ってもいなかったぜ。今まであんな食生活してたのにな」
村の周りに生えてる胡椒モドキなどの香辛料がいろいろと集められ、少しずつ料理に使われ始めた。
今まで料理と言えば細かく砕いた岩塩を振りかけるだけだったことを考えると、相当な進歩と言えるだろう。岩塩の方も以前よりはるかに細かく砕くようになったしな。
食事の質の向上の為に俺の家の近くの小屋の中にパン用のかまどが作られ、俺が焼いた美味しいパンが各家庭に提供されている。パンの作り方は教えたし、そろそろ交代で焼き始めるって話にはなった。竹糖産の砂糖はパンの材料に使われている位だな。
「リュークのおかげで村がどんどん豊かになるぜ。このままいけば正式な村として認められる日が来るんじゃねえか?」
「来るだろうね。リュークの後で住み着いた人も、もう二十人を超えてるし」
そう、何処から噂を聞きつけたのか、近隣の寒村から逃げ込むようにうちの村を訪ねて来るんだよな。村を守る戦力と労働力が欲しい村長は俺の後も住み着く者を拒まなかった。というか、むしろ歓迎してる節すらある。
今の所、問題を起こすような奴はいないが、このまま村が豊かになればよからぬことを考える奴も出て来るだろう。そこは警戒しとかなきゃいけない。
「新しく来た方の中に、リュークさんのような方がいてくれればいいんですが」
「そりゃ無理だろう。リュークみたいな物知りはなかなかいないって。あの冒険者以上だぞ」
「あの冒険者、知識は豊富だったけどね……」
どうも以前村に住んでたというその冒険者は、六年前の頭犬獣人襲撃の時、村人に結構な犠牲者を出した為にこの村に住み辛くなったそうだ。
それで結局その後、逃げるようにこの村を去ったらしい。村長のマジックバッグはその冒険者が置いていった物らしいが、詫びの品のつもりだったのかもしれないな。
戦闘経験の殆どない村人を従えて急に襲ってきた頭犬獣人を何とかしただけでも大したもんだと思うが、それまでに何もしてこなかったのがデカいんだろうな。今の状況だったらそこそこ戦えるぜ。
◇◇◇
「これだけ獲れれば問題ないだろう。生け捕り出来なかった山鶏や角豚は晩飯決定だな。今晩は豪華だぞ」
「罠にかかってたのはいいんだけど、何匹か少なかったよね?」
「特に山鶏がな……。この辺りに罠にかかった山鶏を食う何かがいるって事か。ここは村の北側だから、以前から割と警戒はしてたが」
最近村が豊かになった事を嗅ぎつけた何か……、そいつは人かもしれないし魔物かもしれない。
どんな勢力にせよ、どのくらいの数がいるかが問題だ。
「村長に話して対策を練らないとね」
「あの……、また大きな戦いがあるのですか?」
「六年前の戦いがどんななのかは知らねえが、今回はきっちり準備して戦いに挑む。二度と手出しできない位にはな」
今まで準備してきた武器。弓は村人全員分あるし、矢の在庫も何処の軍と戦争するのかって量がある。
それに今は村の外周を柵で覆っているし、その柵を縛ってる縄は鋼蔓を加工して作った物だからそう簡単には切れない。頭犬獣人や野盗がどんな武器を持っているか知らないが、丁寧に処理して加工した鋼蔓製の縄を切れるとは思えない。
「その顔になってる時のリュークってちょっと怖いよな」
「リュークさんは凄いと思いますが、たまに怖い事があります」
「いや、こいつは割と怖いぞ。いつでもな……」
マカリオの奴は村の住人の中で唯一、俺の本性に気が付いている。
話してもいないのにあの村を俺の和紙作りの拠点にしようと考えている事や、村の防備をあげている本当の目的も理解してやがる。流石にその先、俺が最終的に目指してる場所まではわからねえみたいだけどな。
「あの村に手出しする奴には容赦しねえさ。半年も住んでりゃ愛着も沸くしな」
「「……」」
いや、何か言おうや。
マカリオたちは俺の目標も知ってるし、こいつらもあんな村にはそこまで愛着なんて湧いてねえだろうしな。
「村長に報告してそれからだ」
「お爺様で何とかできるでしょうか?」
「戦闘面では俺たちがいるから問題ない。今の村をどうにかできる規模の群れだったら、流石にこの辺りを統治してる貴族が兵を派遣してくるだろうしな」
この辺りを統治する貴族が事態を把握してればの話だが……。
城塞都市トリーニの外はレナード子爵家が直接統治してる訳じゃなくて、ここくらい僻地で辺境になると分家辺りが管理してる筈なんだよな。いや、管理しているかも怪しいか。
それでもいくつも村が亡ぶと統治能力を問われるから、頭犬獣人や野盗はある程度討伐しなきゃいけない。
他の村が襲われてないんだったら、今回は助力を期待できないけどな。あの村は間違いなく今まで税なんて収めてないし、優先順位は最低だろう。
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