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第六十八話 バイアット家に渡す利権はともかく、人材の確保は大丈夫ですか? 新しい魔導具に回せる魔導具職人はいないと思いますが





 晩餐会の翌日、さっそくソールズベリー商会に呼び出された。というか、アーク商会の前まで馬車を迎えに寄こしやがった。


 しかもこの馬車には車載型の魔導エアコンまで設置されており、内装も普通の馬車よりいい上に振動もほぼ感じない位に足回りも調整されている。なるほど、これが王族や公爵家が使う馬車なのか……。今回の話し合いに便乗して車載型魔導エアコンの性能を確認させようって魂胆だな。昨日これを……、いや、昨日の場合は流石に平民を迎えに行く馬車にこれを使うのは怪しすぎるか。


「よく来たな。今日は関係者を集めての話し合いだ。バイアット家に渡す利権に関してもそうだが、新型の魔導具に関してもな」


「バイアット家に渡す利権はともかく、人材の確保は大丈夫ですか? 新しい魔導具に回せる魔導具職人はいないと思いますが」


「商品次第だが、魔導エアコンのラインを一本止めてでも確保するさ。少々生産を絞っても、売り上げが落ちる事は無い」


 例の製造専売特別許可権や魔導具の登録制度がある為に、この世界ではこのクラスの商品の転売は難しい。


 一度購入して転売すればいいのだが、方々に恨みを買ってまでやる事じゃないんだよな……。


「今日はバイアット家のダスティン様とリチャーズ様だけですか?」


 集めたという割には少人数だな。


「……俺に対してはいつも通りでいいぞ。今回は利権を回して貰う立場だしな」


「どの利権を回すかは内容次第だ。どうせいつものようにいくつも用意してきているんだろう?」


「魔導具のに関してはいくつかありますが、今回用意しましたのは魔道湯沸かし器です」


「魔道湯沸かし器?」


「設置型の湯沸かし器と、ポット型携帯湯沸かし器の二種類になります。設置型の湯沸かし器は大型化すれば浴場などで活用できますし、ポット型携帯湯沸かし器は冬場の移動時に外出先で紅茶などを楽しむこともできます」


 どっちも元の世界にもあった湯沸かし器だな。水道などが無いので水を引く仕組みから組み込んであるが、一度水を引き込んでしまえば後は何とでもなる。サイズ次第で色々利用法が変わるしな。


 ポット型携帯湯沸かし器も元の世界にあった電気ポットで、急速沸騰機能付きなので少ない水であれば一分もあればお湯にできる。紅茶を入れるんだったら十分な量だ。


「また売れそうなものを……。魔導エアコンほど数は売れぬだろうが、浴場がある場所では重宝するだろうな」


「今使用している薪の量もそうですが、場所によっては定期的に行う煙突の掃除が不要になります。その辺りの人件費的な物も……」


「煙突掃除は子供の資金源ではあるが、事故で怪我や死亡事故も絶えぬからな」


 何かを新しく生み出せば、今までそれで生活していた者の利益を奪う。


 魔導エアコンで一部の地区では薪が安くなったらしい、王城やら貴族の屋敷で使う分が減ったからだが、そこでも暖炉に繋がる煙突掃除の仕事は無くなっている。


 薪に関しては他で使えばいいし、魔導エアコンを導入していない所では相変わらず暖炉を使用しているからな。


「ではこの魔導具の仕様書です。登録や販売のタイミングはお任せいたします」


「早いうちに試作させよう。ポット型携帯湯沸かし器に関しては普通に役に立ちそうだ」


「……こんなに簡単に新作魔道具の仕様書がやり取りされているのですか? それひとつで大貴族の年収くらいは稼げると思うのですが……」


「いつもの事だ。気にするな」


 設置型の湯沸かし器とやポット型携帯湯沸かし器ですら、この世界で発明すれば一生食っていくには困らないだろう。


 ただ、薪売りの話じゃないが、何処の勢力を敵に回すか考えて行動しなけりゃ命がいくつあっても足りないけどな。


「それで、バイアット家に渡す利権なのですが、砂糖とラム酒の製造法を……」


「利益がデカすぎないか?」


「例の綿花に関しては、本気で売り出すと今度こそアルバート子爵家がキレるでしょう。あの利権を向こうに回すとなると、代わりにこちらで旨味の大きな農作物をひとつくらい作ってもよいのではないかと」


「綿花の件は諦めたが、砂糖に関してはまずいのではないか? 今は南方の国からも安く仕入れている」


「これからケーキ類をはじめとする菓子類を普及させる場合、輸入している砂糖だけではやがて不足します」


 砂糖の輸入量は多いし、安く仕入れているとはいえそれは今までと比べての事だ。


 サトウキビはすでに冒険者ギルドに依頼して南方で採集させているし、追加で採りに行かせることも可能。しかもうれしい事にこの世界のサトウキビは成長が異常に早い。元の世界のサトウキビの数倍の速度で収穫が可能で、しかも増やすのも簡単だ。


 そのサトウキビの苗は大量に用意してあるし、後は生育に向いた場所に植えるだけの状態にしてある。蒸留器なども用意してあるので、人を揃えれば廃蜜糖でラム酒を仕込む事もできるぞ。


「そうなるとバイアット家に管理させる農地が必要だな。土地を与えろと?」


「元当主にサトウキビ畑を管理させればいいのでは? 城塞都市トリーニに居させる理由もありませんし」


「父上には冷たくされてきたが、そこまでしなくても……」


「顔が笑っているぞ。リュークも人が悪い、そこまで調べているんだろう?」


「ダスティンの両親とメイドを数名。あと、サトウキビ畑で働く人を十人ほど回せばいいでしょう。ラム酒の生産までする場合はもう少し人が必要ですが」


 穀物に比べれば、サトウキビはそこまで手間がかからない。


 十人でも十分な量の砂糖を生産可能なはずだ。利益が大きくなれば、人の数を増やせばいいしな。


「俺はあの実家に引っ越す訳か」


「屋敷を移築する訳にもいかないだろう。ダスティンの両親には少々手狭な家を用意する予定だ」


「そのあたりも計画書に書いてある。逃げ出したりしないだろうな」


「まさか命じられた仕事を放置して逃げはしないでしょう。生産物が高額なので、監視は必要だと思いますが」


 砂糖の増産は誰かにやらせなければいけない仕事だが、当面この辺りに金を呼び込む商品でいてくれないと困る。そうなるとよほど信用できる奴にしかこの利権は渡せない。


 最終的には今の十分の一程度には市場価格を落とす予定だが、それは十年くらい後でも構わない。その価格破壊にも協力してくれそうなやつになると、更に限られてくるからな。


 一気に価格を破壊するんだったら甜菜の栽培も始めりゃいい、甜菜も見つけてあるしアレだとアルバート子爵家の領地でも栽培可能だ。


 俺が冒険者にかなりでかい規模で依頼を出したので、一見無価値に見える野草や野菜なんかの種や現物が大量に届いている。その中に甜菜も混ざってたって事だな。


「南方のクキツに近い僻地で栽培させるか。あの辺りの野盗もいなくなったので農耕も可能だ」


「そこまで遠方なのですか?」


「流石に父親があんな僻地に飛ばされるのはきついのか?」


「いえ、確認の為に往復二週間程度かかるのが問題なだけでして……」


「高速馬を買えばいいだろう。高速馬であれば、一日で着く距離の筈だが」


 高速馬。魔道具と特殊な餌などで強化しまくった馬。普通は高速馬車を引かせる為に使われているが、上位貴族などは緊急事態に対応する為に一定数保有している。


 この世界には当然自動車や飛行機は無いので、長距離での移動は基本この高速馬車を使うのが一番早い。今まではだが……。


 先日、魔導モーターや魔道エンジンの開発に成功したので、そのうち俺が魔導自動車を売り出す事になる。ただ、そうなると馬車や高速馬がどうなるか簡単に想像できるので、そのあたりを調整してからでないと世に出せない。


「確か高速馬は一頭百万スタシェルでしたか?」


「最低でもな。買うんだったら三百万クラスの馬がいい」


「買える額ではありますが……」


「正確な額は知らんが、トランプで相当儲けておるそうだな」


「王家御用達の特製トランプが大人気でして。公爵家や侯爵家からも注文が来ております」


 紙の質を上げた上に、絵や裏地の柄を金銀で飾り付けた超豪華版のトランプは一組五十万スタシェル以上。魔導エアコンには劣るが利益率はかなり高いので、一組売れるごとにバイアット家のダスティンやヘーゼルダイン家のデリック、それと俺で各十万スタシェルずつ懐に入っている。


 二セットも売れれば法衣騎士爵家の俸給に匹敵する額で、これが毎月百セット近く売れているので二人とも本気で年収が伯爵家以上になっているという話だしな。


「そこに砂糖の利益か……。下手をするとアルバート子爵家の税収を上回るのではないか?」 


「現時点でも乳製品や氷の量産システム、今度渡す事になっております綿花の利益がありますので流石に無理でしょうな。この辺りは説明してあると思いますが」


「乳製品があれほどとは思わなんだ。ウイスキーなどもそうだが」


「ウイスキーやラム酒に関してはこちらでも売り出せますので。例のマジックバッグをこちらが抑えている以上、その手の商品を販売する優位性は変わりません」


「酒類に関しいてはそういう話だったな。あの安酒が超高級酒に化けるとは……」


 時間経過の速いマジックバッグの保有数に決定的な差がある。


 高騰する前に国中のゴミマジックバッグはほぼ買占めたからな、俺と同じ規模で色々生産できる数はすでにこの国にはない。


 十年に一度程度は二十倍以上の時間経過があるマジックバッグが出るらしいし、その時は信じられないような額で売れるだろうぜ。


「ウイスキーに関してはグアダーニ酒造の物には前から目を付けていましたので、長期熟成させればあのくらいの価値は出ると思っていました」


「ひと樽金貨一枚が、あの小さな樽に移し替えて金貨五十枚だぞ?」


「元の樽の半分程度しか残っていませんし、あのサイズの樽になると流石に……」


 元は二百二十五リットルの樽だが、それを三十ニリットル程度しかない小型の樽に詰め替えて販売している。


 詰め替える樽の方も詰め替え前にいろいろと加工して、変な臭いや味が付かないように手間をかけているそうだが、値段が値段なので当然だろうな。


 王都には元の樽のまま販売しているようだがひと樽で金貨二百枚、二百万スタシェルもするんだから相当だ。


「グアダーニ酒造にも利益を還元しておるので、職人の数は増やした。他にも良さそうな酒造は無いのか?」


「バイアット家で育てるサトウキビでラム酒が造れますので、それも長期熟成させれば人気が出るでしょう。ラム酒はケーキ作りなどにも使えますし」


「本気で酒造まで与えるのか? 今でもロドウィック子爵家よりは稼いでいるだろう?」


「まだそこまでは……。来年はわかりませんが」


「穀倉地帯を半分失いましたので、ロドウィック子爵家は来年以降は大変だとおもいます」


 それでも米を作り続付けないといけないし、インフェルノサラマンダーに焼け野原にされた畑や村の跡地には今もだれも住んでいない。


 その辺りに住んでいた人はレナード子爵家の領地かアルバート子爵家に逃げ込んでおり、もう戻る気もないそうだしな。


「数年でロドウィック子爵家は逃げ出すだろう。あの状況から何とかできる人間など一人しか知らぬ」


「できなくはありませんが、色々と苦労の絶えない土地なのは間違いないですよ」


「出来るのか……」


「出来るだろう。城塞都市トリーニを二年でここまで繁栄させた立役者だぞ。あの広大な穀倉地帯を与えれば、おそらく数年でこの状況をひっくり返す」


 やろうと思えばできるさ。あれだけ広大な穀倉地帯を与えられれば出来る事は幾らでもある。


 ロドウィック子爵家は本腰を入れて探していないようだが、あれだけ広大な領地にダンジョンがほとんどないってのはおかしい。


 海底神殿程度には儲かるダンジョンがいくつもあると予想できるし、インフェルノサラマンダーが出現した場所を探せば確実に何かあるだろう。


「まあいい、バイアット家に与える利権は砂糖関係とラム酒だな。元当主は作付時機を考えて現地へ送るとするか」


「わかりました。親族の管理はお任せください」


「砂糖栽培はそこまで即効性のある利権じゃないけど、最低でも来年には結果が出る。最終的に輸出まで考えると相当に儲かる筈だ」


「砂糖を輸出するのか?」


「仕入れ先である南方はともかく、ジンブ国には売れるだろう」


 南方からの輸入品は砂糖だけではないし、砂糖以外で利益を出せば問題はない。


 ジンブ国に砂糖を売れなくなると南方からの船は困るだろうが、別に砂糖が主力って訳でもないしな。 


 これで数年後には砂糖が安くなって菓子類も買いやすい値段になる筈だ。


 使える調味料が増えるのは良い事だしな。


読んでいただきましてありがとうございます。

楽しんでいただければ幸いです。

誤字などの報告も受け付けていますので、よろしくお願いします。

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