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第六十七話 これはダスティン様。私もまさかこんな席に呼ばれるとは思いもしませんでしたよ




「今のレナード子爵家の隆盛を象徴するような晩餐会だった」


「まったくです。我が家は法衣騎士爵とはいえ、このままレナード子爵家に仕えているほうがいいでしょう」


 晩餐会に呼ばれた寄子達は現状に満足しているというか、レナード子爵家の現状を喜んでるようだ。この国に忠誠を尽くすというより、レナード子爵家に仕えているほうが実入りがデカいからな。


 リチャーズの奴もそれを心得ているから、信用できる騎士爵家の当主は既にいろんな役職を貰っているし、バイアット家のダスティンやヘーゼルダイン家のデリックの様に次男や三男に仕事を回したりもしている。


 今の状態で当主が暇をしているのは相当に無能か、もしくは性格か能力に問題がある場合だけだ。


「リューク、晩餐会に呼ばれているとは思わなかったよ」


「これはダスティン様。私もまさかこんな席に呼ばれるとは思いもしませんでしたよ」


「ここにはほぼ身内しかいないし、公式の場でもない。いつも通りで構わないぜ」


「それはそうだが、晩餐会に呼ばれるとは思わなかった。お互いにな」


「俺は今回で二度目だな。デリックは今回が初だ」


 今までは法衣騎士爵の当主や、継承権を持つ長男しか参加していなかったらしい。


 これだけの料理を出すんだ、そこから更に次男や三男など呼ぶには相当に予算が必要になるだろうからな。


 今のリチャーズの奴が気にするような額でもないが。


「アリス、カリナ。紹介しておこう、バイアット家のダスティンとヘーゼルダイン家のデリック。俺の友人で立派なカジノの支配人だ」


「初めまして。アーク商会のカリナです」


「初めまして。アーク商会の魔導具担当のアリスです」


「魔導具担当って凄いな。商会関係者と言えば、今日は美容関係の担当者はいなかったのか?」


「……初めから目の前にいるだろう?」


 いや、その顔はなんだ?


 まさか俺が美容関係の商品の開発などをしているとは思わなかったのか?


「流石はリュークだ。またカジノでやるいいアイデアがあれば教えてくれ」


「サイコロとカード以外の遊技も必要だな。何か考えておくよ」


「頼んだ。今は客も多くて売り上げもいいが、やっぱりそのうち飽きるだろうしな」


 流石に金がかかってるからそこまで簡単に飽きる事は無いと思うが。


 ルーレットのようにある程度カジノ側が制御できる遊技じゃないといけないし、それでいてあまり大規模な設備が必要のない遊技。


 文字が読めない客もまだまだ多いから、カジノもそのあたりは苦労しているみたいだな。


「なんで平民が呼ばれてるんだ? おっ、いい女じゃないか」


「やめてください!!」


「ちょっと!! やめなさいよ!!」


「お前も平民だろ? すっこんでろよ」


 カリナとアリスの声がしたから振り返ったら、俺の少し後ろで中年のおっさんがカリナに絡んでいた。


 俺の顔はともかく、カリナやアリスの事までは知らなかったのか。


「俺の連れなんで、手出しはやめて貰えますか?」


「あ? 端の方の席にいたし、お前も平民だろ? なんでお前の連れだと手出しできないんだ?」


「いや、兄貴。その位にしておいた方がいい。できればすぐに謝ってこの間を収めないと、この後の保証が出来ないぞ」


「お前も来てたのか。こんな平民とつるんで稼いでいるようだが、なんで俺が謝らないといけないんだ? たかが平民に!!」


 こいつ今日呼ばれているのに俺の顔も知らないばかりか、俺とリチャーズたちとの関係も知らないのか?


 ダスティンの兄らしいが、なるほどこんな性格のクズじゃ嫁の来てなんかないよな。


「何を騒いでおるのだ」


「ああ、父上。この平民が私に無礼を働いたのです。女は私がじっくりと楽しみますので、男の方を任せてもよろしいですか?」


「男の方……、っ!! 馬鹿者!! おまえ、誰に手を出しているのかわかっているのか!!」


「誰と言われましても、ただの平民でしょう。弟と仲は良いようですが」


「何やら騒がしいようだが、詳しい話を聞かせて貰えるか?」


「リチャーズ様。いえ、馬鹿息子がお見苦しい所をお見せしております」


 騒ぎを聞きつけてリチャーズやセブリアンたちが来たようだな。ここまで騒ぎを大きくするつもりはなかったが、俺の連れに手を出した以上擁護する気は欠片もないぜ。


 既に事の重大さに気が付いているダスティンの父親は顔面蒼白だが、出来の悪い兄貴の方はいまだに状況を理解できてないようだな。


「リューク、状況を説明して貰えるか?」


「バイアット家の長男がカリナに手を出してきたので注意しましたら、色々と勘違いをして激高されたようでして」


「勘違いとはなんだ!! たかが平民のくせに偉そうな!!」


「黙っておれ!! 申し訳ありません。後できつく言い聞かせておきますので……」


「なるほど。カジノの支配人の仕事などできぬクズだと聞いていたが、やはり次男の方に話を持って行って良かったようだ」


 最初はこのクズにカジノの支配人の仕事を持っていくつもりだったのか。


 こんなクズだと流石に俺も手を貸す事もないし、トランプの話も持って行かなかっただろうな。


「代わりにカジノを運営されているダスティンは稀にみる有能な人材です。私も友として現状では十分と思えず、そのうち別の利権も渡したいと思っているのですが……」


「そこまでの男なのか。……バイアット卿、病死された長男に変わって次男のダスティンに家督を相続されてはどうだ?」


「その利権、我が家にも益がありますか?」


「ダスティンは私の友ですので、もし家督を継げばその家とも付き合いができるのではないかと……」


 氷点下幾らと言ったまなざしでクズ兄貴に視線が刺さる。


 バイアット家からしてみれば、これで家督を継ぐ予定だったクズを処理できるし、今後は俺が渡した利権での収益が期待できる訳だ。


 年に最大二十万スタシェル程度だった資金が最低でも数十倍に化ける。今のダスティンの収入だけでもその位は余裕であるしな。


「父上、私は病死など……」


「お前は病気だったのだ。此処のな。私も今まで何とか治せぬかと手を尽くしてきたつもりだったが、どうやら不治の病だったようだ」


「渡す利権に関しては俺にも相談してくれ。込み入った話になるだろうから、詳しい事は後日という事で」


「馬鹿兄貴が……」


 ダスティンの父親は頭を指しながらダスティンの兄を衛兵に突き出し、喚く元長男はそのまま部屋の外へと運ばれていく。


 後で病死する事になるんだろうが、あの歳まで生きてあの程度の男だったら仕方がない。少なくとも法衣騎士爵家を継いだところで役にはたたない。


「すみません、私のせいで……」


「いや、カリナには何の落ち度もない」


「そうです。日を改めて正式に謝罪に伺わせていただきますので。では」


「それじゃあリューク、またな」


「ああ。いつもの店で」


 ある意味、ダスティンがバイアット家を継いだことであの家は今後安泰だろうな。


 問題があるとすればカジノの支配人の仕事だが、今は仕事を任せられる奴も多いし週に一度程度顔を出せば仕事は回せるだろう。


「最後につまらぬ騒動があったな」


「何処でもの位の馬鹿はいるだろう。いや、カリナ嬢には迷惑をかけた」


「いえ、私こそすみません」


「カリナさんというのね。それだけ美人だと大変でしょう?」


「いえ、今はこれを付けているので、少しでも価値の分かる人は声をかけてきませんから」


 カリナは右手に聖白金(ホーリー・プラチナ)製の腕輪を付けてきている。


 ただ、宝石類と違って価値がわかりにくいアクセサリーではあるよな。


聖白金(ホーリー・プラチナ)製の腕輪か。法衣騎士爵二人分だな」


「一目で見破るリチャーズ様の慧眼は流石です」


「すごいです。自分で買われたんですか?」


「リュークさんからのプレゼントです」


「……そうだったんですね」


 いや、クリスがなんだか俺を睨んでるような気がするんだが……。


 ほぼ初対面だし、六年前にドジョウの蒲焼き食わせただけだよな?


「今日は顔合わせであったし、その位にしておきなさい。では儂もこの辺りでな」


「ではリューク、またね。あ、私の事はクリスって呼んでね」


「了解しました、クリス様」


「ク・リ・ス。様付けも無しなんだから!!」


「そうして貰えると助かる。一度言い出したら聞かぬのでな……」


 セブリアンも苦労しているんだな……。


 当時からやんちゃだと思ったが、本気でじゃじゃ馬になってんじゃねえか。


「ではクリス。またな」


「ええ、リューク。またね♪」


「次があるんですかね?」


「アルバート子爵家の子よね? 流石に次の晩餐会とかその位じゃない?」


 今は内部の移動もそこまで規制されていないし、来ようと思えば来れ無い事は無い。


 問題なのは、ゴールトンの娘だって事だな。今日はこの場に来ていなかったみたいだが、呼んでなかったのかそれともゴールトンの招待状で無理矢理クリスが参加したのか……。


「利権の件は後日詳しくな。トランプの一件、あそこまで売れると知っていたのだろう?」


「当然ですが、あの程度の利権は渡してもいいでしょう。大型の魔導具の話がいくつかあるのですが……」


「魔導具か。最悪王都での生産になる」


「やはり人材が不足していますな。どこかから引き抜けませんか?」


「流石にもう無理だ。王都にいた親戚筋で使えそうな人材は向こうに取られたしな。……詳しい話は後日だ」


 リチャーズも忙しいし、ここでいつまでも話をしているわけにはいかないだろう。


「帰るか。従業員寮まで送るぞ」


「はい」


「気にする事は無いわ。自業自得だもの」


「カリナは優しいな」


 バイアット家や俺も含めてあんなクズが処刑されたところで心は傷まないし、バイアット家に至っては今回の件は俺と付き合いができるいい機会だと喜んでいる可能性すらある。


 この世界の爵位継承権持ちの長男であの歳まで結婚できない時点であの男の底は知れたようなものだし、こんな場であんな態度をする時点で貴族失格だ。


 今回みたいな周りが自陣営のほぼ身内な晩餐会だからこの程度で済んだが、これがもう少し大きい場でやらかした時はダスティンやほかの家族まで纏めて処刑されかねない。王都辺りだと下級貴族の扱いも平民並とは聞いているしな。


 料理は最高だったがちょっとケチが付いた晩餐会だった。次は気持ちよく帰らせてほしいもんだ。




読んでいただきましてありがとうございます。

楽しんでいただければ幸いです。

誤字などの報告も受け付けていますので、よろしくお願いします。

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