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第六十二話 俺はどちらかというと実用本位なんだが……、そこの指輪なんていいと思うぜ




 基本的に女性の買い物は長い。この店に誘ったのは俺だし、それが悪い事だとは思っちゃいない。


 コランティーヌ商会の服飾店舗は三階建ての立派な店だ。一階が小物系、二階が服、三階が宝石関係の商品を扱っている。それぞれのフロアに責任者がいるらしく、その階に足を踏み入れると大体その責任者が声をかけて来るんだよな……。


 流石にここの店員は全員俺の顔を知っているし、俺が此処の商品で手が届かない物なんてない事も知っているので、遠慮なく高額な商品をアリスたちに薦めて来る。


「こちらのネックレスはあのセヴェリアーノ氏の作品で、鎖のデザインまでこだわりが……」


「すごいわ。こんなきめ細かい装飾なのに、手で持っても全然引っかからない」


「そのとおりなんです。セヴェリアーノ氏の作品は着ている服を傷つけないように細心の注意を払ってデザインされていまして、氏の名前を騙った偽物などはこの細かさを再現できませんのですぐに見つかるんですよ」


「こっちはプラチナを使っているのね。加工しにくいのによくここまで……」


 プラチナは熱で溶けにくいから、こういった装飾品にするには加工しにくいとは聞いたな。


 アリスも魔導具を作る際にプラチナを使う事もあるから、その事をよく理解しているんだろう。


 というよりも、魔銀や魔石と並んで魔導具の開発に使う物のひとつだし、装飾品として使われているのを見ると逆に違和感を覚えるな。


「彫金師が精魂を込めて加工していますので。その分お値段も高くなっておりますが……」


「このサイズで三十万スタシェルは高いわね。この辺りの宝石が無かったらもう少し安いでしょ?」


「流石です。その宝石はダンジョン産のスターエメラルドでして、そのサイズでも王都では……」


 あのサイズのスターエメラルドが使われているにしては意外に安いな。


 この店はリチャーズの娘が運営してるし、二級品なんて扱ってないのは間違いない。だとすると、本気であの値段で売る気なのか?


「リュークさんは何か気に入った物は無いんですか?」


「私もそれ聞きたいわ。これだけ一緒に見てるんだもの、ひとつやふたつあるわよね?」


「俺はどちらかというと実用本位なんだが……、そこの指輪なんていいと思うぜ」


 俺が惹かれたのは炎を象った様なイメージを描くデザインの指輪。ご丁寧にかなり変わった宝石でオレンジ色の炎を見事に表現している。


「お目が高い!! これは現在活動中の勇者アカイをイメージして作られた指輪です。この炎は勇者の得意な力を表しています」


「勇者……、アカイ?」


「そういえばこの辺りにはあまり勇者の文献って見かけないわね。私もその名前を始めて聞いたわ」


「私も初めてです」


「王都では有名な物語だそうです。私も勇者の名を聞いたのは最近ですが」


 それ、紛い物じゃないだろうな?


 しかし変わった宝石だ、なんというか宝石に力が封じてあるような気が……。


「その指輪は幾らなんだ?」


「五十万スタシェルと、大変お買い得な価格になっております」


「五十万か……」


 あの指輪には何かがある。俺の勘がそう告げている……。


 それが何かはわからないが、ここでこれを買わないって選択肢はないようだ。


「その指輪を買いたいんだが……、ここに大金貨が五枚ある」


「お買い上げありがとうございます!!」


 指輪は小さな箱に詰められ、金貨と引き換えで俺の手元に届いた。


 流石に俺が誰だか知っているから贋金なんて使わないって信頼はされているようだ。枚数以外は確認もされない。大金貨なんて使うのは大商会の人間かリチャーズ位だしな。


「うわぁ……、五十万スタシェルを即決よ」


「流石にリュークさんです。真似ができません」


「なんとなく気になったんでな。アリスやカリナは何か気に入った物はなかったのか?」


「え? 色々説明して貰っておいてなんだけど、こっちのネックレスなんていいなって思ってるよ」


 アリスが選んだのは薔薇の花を象ったネックレスか。


 おそらく台座はプラチナだが、薔薇を象った宝石がなんだか分からない。宝石類の知識も増やしたし、ここ最近はこういった宝石類もよく目にするんだが……。


「そのネックレスに使われている宝石はローズサファイヤです。珍しいピンク色のサファイヤなんですよ」


「初めて聞く宝石だな。サファイヤにこんなに綺麗なピンク色なんてあるのか?」


「間違いなくサファイヤなのですが、スターエメラルド以上に希少なのでご存じなくても仕方がないと思います」


「そうなのね。という事はお値段も凄いんでしょ?」


「ローズサファイヤを使っていますので、このサイズでも三十万スタシェルですね。お買い得ですよ」


 流石に希少な宝石を使っていると、あのサイズでも割とするな。


 額的には大した事は無いんだが。


「久しぶりに一緒に来たんだ、その位は俺が出そう」


「え? でも悪いわ」


「大金貨三枚くらい大した事は無いさ」


「……流石はリュークさんですね」


 三十万スタシェルでも元の世界の額で三百万円だ。この辺りの物価を考えると確かにかなり高いが、それでも王都や領都で売られている通常タイプの魔導エアコン一台で入る額の三分の一程度。


 すでに俺の個人口座には百億スタシェルを超える残高があるし、ちょっとやそっとじゃびくともしないしな。


「カリナは何かないのか?」


「リュークさんに悪い気がしますが、アリスさんだけデートの記念を買って貰うのが嫌なので……」


「言うじゃないの。カリナは何を選ぶのかしら?」


「この天使のリングです。中央の飾りは天使を象っていますし、両翼がそのまま腕輪になっているなんて素敵じゃないですか」


「今度は何の金属か分からないな。銀でもプラチナでもないようだが……」


 全体的には銀色なのだが、貴金属類でこんな色の物に心当たりがない。


 流石に鉄やアルミって事は無いだろうが、この世界には俺の知らない金属があってもおかしくは無いしな。


「それは聖白金(ホーリー・プラチナ)製の腕輪です。あの聖銀(ホーリー・シルバー)よりも希少な金属なんですよ」


「という事は、対魔族用金属か。このリングにも何か力が?」


「身に着けていると、禍々しい魔素から守ってくれるそうです」


 という事は魔素の浄化能力があるのか。


 この辺りの地域にはうってつけの商品だが、どちらかと言えば勇者や冒険者用の装備だろう。


「カリナが気に入ったんだったらそれも貰おう。いくらなんだ?」


「そちらのリングは四十万スタシェルになります」


「大金貨で四枚だな。いい買い物をさせてもらった」


 勇者はともかく、冒険者に手が出せる物じゃないな。


 冒険者は一攫千金だとはいえ、四十万も貯めるには相当に苦労するだろうし、こんなリングより買わなけりゃならない物が幾らでもある。


 勇者って呼ばれる奴らもいるんだが、本気でこの辺りだとその手の話を聞かないんだよな……。


「リュークさんありがとう。宝物にしますね」


「魔除けにも良さそうだからな。普段使いでいいと思うぞ」


「魔除けか~。虫除けにはなりそうね」


「ちょ!! アリスさん!!」


「虫よけ?」


「私が言うのもなんだけど、カリナって美人じゃない。だから言い寄ってくる貴族連中って意外に多いのよ」


 ああ、そっちの虫除けか。


 他の女性商会員も、結婚話が持ち込まれることが多くなったって言ってたしな。


「あの村長を説得できる奴がいるとは思わないが……」


「お爺様もリュークさんでしたら大歓迎ですよ。私も嬉しいですし……」


「ちょっと!! 私の目の前で抜け駆けは無いでしょ!!」


「アリスさんは先にしたじゃないですか!!」


「二人とも、こういう場所で喧嘩はよそうぜ。店にも他の客にも迷惑だ」


 原因である俺が言えた事じゃないがな。


 今の俺には誰かと付き合う資格なんてない、最低でも使命を果たさないといけない……。ん? 使命ってなんだ? 最近はこの妙な感じも強くなってきた……。


「そうね。とりあえず休戦といきましょう」


「わかりました。お見苦しい所をお見せして申し訳ありません」


「いえいえ。リュークさんも大変ですね」


「俺のこんな態度が原因なのはわかっているさ」


 俺ももう十六だ。誰か信頼できる相手を見つけて結婚してもおかしくない歳なんだが、俺がこれからやる事を考えれば何かあった時に真っ先に狙われるのは家族だからな。


 使命もそうだが、最低でも家族を守れるだけの地位と力を手にした後でなけりゃ、この俺が誰かと付き合う資格なんてないのさ。


「分かってるんだったら、さっさと私と付き合えばいいじゃない」


「アリスさん!!」


 このやり取りも、もう何回目だか……。


 出来るだけ早く、誰かを守れる力を手に入れなければ……。




読んでいただきましてありがとうございます。

楽しんでいただければ幸いです。

誤字などの報告も受け付けていますので、よろしくお願いします。

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