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第五十七話 うちの商会員を数名連れてきていいって事だったんでな。最古参メンバーから選ばせて貰った

この話で第二章は完結となります。




 ロドウィック子爵家の当主交代も無事終わり、その後の調査でインフェルノサラマンダーの被害状況もずいぶんと見えてきた。


 穀倉地帯の東半分が壊滅。そこに点在していた村もほぼ壊滅していた。穀倉地帯の流通拠点として整備されていた大きな街が一つあったが、そこは逃げてきた難民が溢れて一年前の城塞都市トリーニの様な状況に陥っている。


 それらはすべてロドウィック子爵家の問題としてアルバート子爵家とレナード子爵家は一切手を貸さずその惨状をしり目に、あの時インフェルノサラマンダー討伐に加わった騎士たちやその家族を呼んで盛大な祝勝会が開かれていた。


 小さな子供も多い為に今回はコース料理形式は取られず、大きなテーブルに料理を並べたバイキングというか自由に料理を食べられる立食パーティ形式の様だ。


 この形式だとマナーだなんだと騒がれる事もないし、こんなめでたい日につまらないもめ事を起こす事もないだろう。


「すごいわね。私たちも来てよかったの?」


「うちの商会員を数名連れてきていいって事だったんでな。最古参メンバーから選ばせて貰った」


「この日の為にドレスまで用意してくれるなんてすごいです。この生地、羊毛じゃないですよね?」


 その生地はジンブ国製の絹だ。うちの商会も稼いでいるし、そろそろ外聞を気にしないといけないからだが。


 法衣騎士爵の家族も多いし、割と浮いてる気はするな。


 俺の来ている服は元の世界のスーツに近い。これは羊毛だが、かなり高品質な物を使ってあるそうだ。


「おお、リューク。来てくれたか」


「リチャーズ様。わざわざ来られなくても、こちらから窺いましたものを」


「いやいや。インフェルノサラマンダー討伐の英雄をねぎらうのは当然だ。今日は我が家の料理人も腕を振るっている。存分に楽しんでくれ」


 ん? ()、という事はこの料理はアルバート子爵家側のシェフの料理もある訳か。


 向こうの氷を使った演出とかはアルバート子爵家だろうな……。


 チーズやバターそれにヨーグルトを使った料理なんかもアルバート子爵家側の様だし、俺があの時作って見せたピザも切り分けて提供している。パーティにあれは大人気だろう。


「今度何か名物料理を考えろと?」


「正解だ。向こうの料理を見たらわかると思うが、我が家の料理はかなり押されている。単なる焼いた料理や揚げ物では歯が立たぬのだ」


「以前醤油などと一緒にレシピをお渡しした唐揚げは人気のようですが」


「唐揚げが人気なのは今に始まった事ではないし、向こうのデザート類は圧倒的だ。あんな料理もあるとはな」


 アイスクリーム系にソフトクリーム系。それにパイ生地に生クリームを盛りつけた物など、乳製品をかな入り強力に前面に押し出してきている。流石にあれではデザート類で勝つのは無理だろう。


 流石にケーキ類のレシピは渡していないので今回はないが、あれもレナード子爵家で作る場合は生クリームが無いから厳しいだろ? 当然、チーズケーキも駄目だしバターケーキも駄目。というか、乳製品をおさえられてる時点でデザートで勝つのは無理だと思うぜ。


 本格的に酪農を始めたアルバート子爵家に、それ以外のデザートで対抗するのは厳しい気はするが……。


「いくつかレシピはありますが、今から用意するのは不可能ですよ」


「分かっている。デザートで対抗するのは次でいい」


「……この辺りがデザート類のレシピです。晩餐会などで活用してください」


「おお、すまんな。次回は期待してくれよ」


 貴族ってのは本当にめんどくさいな。


 普段は割と仲のいいアルバート子爵家とレナード子爵家だが、やはりこの地を治める雄として相手に後れを取りたくないんだろう。


 料理の状況とは逆に現在の資産状況としてはたとえ侯爵クラスでも既にレナード子爵家と並ぶのは不可能で、当然アルバート子爵家は大きく水をあけられている。魔導エアコンが売れ続ける限り、この差は今後どうやっても埋まらないだろうな。


 あの魔導冷蔵冷凍庫が完成しても一家に数台あれば十分で、魔導エアコンの様に各部屋に一台もしくは数台という状況にならない。そのうえ、装飾に凝る必要もない為にそこまで高額にはできない。


 初めからそれも計算に入れた上であの情報を提供した訳で、今の状況は当然だけどな。


◇◇◇


 リチャーズとの会話の後、俺たちは出された料理を口にしながら訪ねて来る騎士たちと交流を続けた。


 俺がインフェルノサラマンダーにトドメを刺したことを知る者も多く、あの時俺が放った技の事を聞きに来る騎士も多い。どんなに乞われても教えられないし、俺以外にあの技を使える人間はいないと思うがな。


「料理は楽しんで貰えておるようだな」


「これはゴールトン様。挨拶に迎えず申し訳ありません」


「はははっ、リチャーズの奴があの料理の事で悔しがっておったのだろう。せめて料理だけも勝ちたいのでな」


「ここまで乳製品を使って来るとは思いませんでした。一部の商品は王都に?」


「ああ。レシピそのものを売らせて貰った。魔導具に比べて入ってくる額は僅かだが、こちらはそれでもかまわぬ」


 薄利多売じゃないが、この世界でレシピそのものを使って金儲けをする場合は手間が無い。


 あの情報をどう使うと思ったが、こんな使い方をしてくるとは……。


「チーズの製造法もですか?」


「いや。チーズだけはここで作って王都に運んでいる。この辺りの方がいいチーズに仕上がる様でな」


「気候など色々条件がありますからな。その辺りも纏めていたはずですが」


「その通りだ。だから王都やその周辺が乳製品やチーズの製造に向かぬことも突き止めた。あの辺りは元々水質が悪いのだ」


 ん? だったら他の乳製品も売った方がいい気がするが。


「では他の乳製品はどうなのですか?」


「全部売らぬ方がありがたみが増すだろう? 商会の連中が少しだけ持ち込むのは仕方が無い事だ」


 商品の飢餓感を煽って価値と値を吊り上げる作戦か。


 アルバート子爵領産の乳製品として、今後大々的に売り込むつもりだな。


「ヨーグルトなどは特に人気になるでしょう」


「アレも使い方次第だな。いや、あれだけいろんな料理のレシピを貰えると、我が家の料理長も本腰を入れて料理に取り組むものだ」


「料理の多様化は食文化を豊かにします。食事にそれだけ力を注ぐことができるという事は、食材が多い事ももちろんですが、何よりも生活に余裕があるという事ですので」


「ほんの一年前まで羊肉や米料理を食卓にあげるかどうか葛藤していた分家も多いのだが、今となってはそんな者はほとんどおらぬ。国の給金よりここでの事業で入る金が多いのでな」


「これからしばらくは好景気に沸くでしょう。今まで苦労した分、良い生活を送ってほしいものです」


 そうでないと、魔導具をはじめとする各種商品を買う顧客に化けないからな。


 貴族たちも含めて、ある程度生活に余裕が無いと贅沢品の購入には踏み切らない。まずその前提が整わないと、いろんなものを売って稼ぐ土台ができないからな。いつまでも王都の王族や貴族に頼ってちゃ仕方がねえ。


 最終的には簡易型でも魔導エアコンや魔導クーラーなんかを各家庭に揃えられる生活が理想だ。


「いち商会の頭取の言葉とは思えんな。やはり家宰が性に合っているのではないか?」


「生活を豊かにしたいのはついでというか副産物です。平和が一番ですが、この辺りではそれを望むのが最も難しいでしょう」


「確かにな。魔族の脅威を取り除かぬ限り、どんなに立派な街を作り上げても砂上の楼閣だ。もっとも、それを何とかできそうな英雄に心当たりがあるのだがな」


「さて、誰の事ですか……」


 リチャーズの奴もそうだが、俺の事を面倒事を押し付けられる便利屋とでも思ってないだろうな?


 キッチリ利益が出ているうちはいいが、それ以外の仕事はお断りだぞ。


 特に魔族とやりあって命のやり取りなんて、俺の性には合ってないんでな。


「そのうち紹介したいものもいるのだが、今日はこの位にしておくか。これからも頼むぞ」


「出来る限りの事ですが……」


「謙遜だな」


 ゴールトンの奴も俺ばかりにかまっているわけにはいかず、他の騎士たちの所に行ってねぎらいの言葉をかけていた。


 こうしてみると子爵としての威厳を感じるが、騎士たちがあまり恐縮していないのは殆ど分家筋で顔見知りだからなのか?


 この後は何事もなく、適当に料理などをつまみつつ祝勝会を楽しんだ。


 とりあえずやる事は多いが、目の前の問題から片付けるしかない。


 このまま魔族が手出ししてこなけりゃ楽な人生なんだろうが、この辺りで人類が栄華を誇れば流石に攻めて来る筈だ。


 その時、俺がどこで何をしているかだな。


 俺がまだこの街に居てうちの商会員に指一本でも手出しした場合は、たとえ魔族であっても容赦しないが……。




読んでいただきましてありがとうございます。

この後第三章と続きますが、楽しんでいただければ幸いです。

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