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第五話 新参者ですが、この村の発展の為に力を貸したいと思っています




 村長の家の大広間。と、いってもだだっ広い部屋にいくつか大きなテーブルがあるだけで、ほかに目ぼしい物など何もないけどな。今はそのテーブルの上に俺や村の連中が作った料理が山ほど乗っている。


 その料理を作る時に食糧庫は無いのかと聞いたら、村長は結構大き目なマジックバッグを持っていた。時間経過がほぼ同じらしく、あまり価値の無い物なので以前この村の世話になった冒険者が置いていったらしい。そこまで高く無いとはいえ、世話になった程度でおいていけるもんじゃねえんだけどな。


 流石にこんな田舎の寒村でもそこそこ食える料理を作るだろうと思えば、本気で魚や山鶏(やまどり)をただ切って焼くだけとは思わなかったぜ。味付けも岩塩を振りかけるだけだったし。


 途中から俺がこの辺りに生えている香草や香辛料と岩塩を使って下味をつけてから調理したが、最初に作られた料理は本気で素材の味そのものだ……。山鶏(やまどり)は旨いからそれでもいいんだけどさ。


「皆の者、新たに村の一員となったリュークを歓迎する為の宴に集まってくれたこと、感謝しておるぞ」


「リュークです。新参者ですが、この村の発展の為に力を貸したいと思っています」


 俺のこのセリフは半分だけ本当だ。


 このまま俺が考える策が当たれば、この村は望まなくても相当に発展するだろう。ただし、厳しい監視下に置かれてはいるだろうが……。


「魚の丸焼きか……。っ!! 塩味が利いててうまいぞ!!」


「この山鶏(やまどり)も旨いな……。塩以外にも何か使ってるのか?」


「それはこの荒れ地周辺に生えてる香辛料だな。これとか、これなんかよく見かけるだろ? こいつも使い方次第でうまいぞ」


 小袋から取り出して見せたのはこの荒れ地でよく見かける小粒な胡椒モドキ。粒は小さいが胡椒の代用品としては十分だぜ。これを塩やハーブと混ぜてミックスソルトにすると料理の時に重宝する。カラシナはまだ収穫できる時期じゃないけど、あの川周辺で群生してる場所を見つけてある。今見せたものは以前入手していたものだ。


 他に見せたのは小粒な唐辛子、この世界に来てから知ったこの辺りにしか見ない香辛料など。薬草としても使われているが、香辛料や調味料としても使える植物も意外に多い。


 この荒れ地や雑木林なんかには他にも山椒に近い品種とか、少し粒の小さいスターアニスなんかも生えてたりするんだよな。川まで行けばクレソンとかも生えてるし、食べられる草なんかもかなり多い。ここの村人はあれが食えるとは思ってないみたいだけどな。


「いい若者が入りましたね」


「期待の新人じゃな。次期村長かもしれんぞ」


「カリナと歳も近いですし、お似合いかもしれませんね」


「この先のがんばり次第じゃな」


 何やら勝手に盛り上がってるが、俺はこんな寒村に骨を埋めるつもりは欠片も無いぞ。


 俺がこの村にいる理由はただ()()の量産に向いてるからであって、同じ条件の村だったら実際何処でもよかったんだ。この村の状況は俺にとって都合がよすぎるのは確かだが……。


「よう! 俺はマカリオでこっちがオリボ。この村の若手っていうか、割と元気な世代だ」


「僕の名前は紹介されちゃったけどオリボだよ。リュークに近いって言っても数歳年上だけどね。でもそんなことは気にせずに話していいよ」


「俺はリューク。街から流れてきた何でも屋だ。何でも屋っていっても、本格的な冒険者じゃないがな」


「流石にそこまで軽装の冒険者は見た事もないしね。この辺りでもたまに見かける事はあったけど、ここ数年は冒険者なんて近付いてもいないし」


「数年前まではよく見かけてたのか?」


「割とね」


 ……冒険者がそこまでこの辺りを調査しておきながら、あれだけ生えてる野草や薬草類が手付かずで残されてる?


 よっぽど詳しくないと見分けられない鋼蔓(はがねつる)なんかの蔓植物はともかく、最低でも矢竹は根こそぎ刈り取られてもおかしくはない代物の筈なんだが……。


「その頃、何か噂とかなかったか? 一番あり得るのは竜種の形跡とか」


「流石にドラゴンがいたら此処も無事じゃすまないぜ。当時は荒れ地の奥にダンジョンか、オープンダンジョンが存在するって噂があったんだ。結局ガセだったみたいだけど」


「あー、オープンダンジョンか。そりゃ冒険者が群れで来るな」


 この世界にはダンジョンと呼ばれる遺跡というか、不思議な空間が存在する。


 大体は天然の洞窟なんかに禍々しき魔素が集まって出来上がるらしいんだが、それが極稀に洞窟などではなく森とか荒れ地の一角なんかに出来上がる事がある。


 それはオープンダンジョンと呼ばれ、冒険者たちの格好の狩場として重宝されているらしい。報酬に目がくらんで舐めてかかると、自分の命で支払う羽目になるそうだがな。


「あの噂が本当であれば、この村は今頃街になっておったじゃろうに……」


「まあ村長。そんなことになれば我々はここから追い出されてますよ。見つからなくてよかったじゃないですか」


「それもそうじゃな」


 ダンジョンやオープンダンジョンでは様々な資源がもたらされる。また、魔物から採れる貴重な素材も多く手に入るので、大抵はその地を治める領主が管理してるって話だ。


 元々そこに住んでいた人が移住に反対し、領主に抗議したらどうなるかって? 衛兵に囲まれて最終的にはダンジョンの深部に捨てられるだけさ……。


山鶏(やまどり)白毛長兎(ホワイトシルク)は別にこの辺りじゃなくても狩れるしな。冒険者はその為だけにわざわざこんな辺鄙な荒れ地にまで来ない」


 いや、その冒険者どもがこの辺りにいる白毛長兎(ホワイトシルク)の価値に気が付いていないだけだ。……そうか、冒険者が狩るとどうしても安全に狩る為に白毛長兎(ホワイトシルク)の毛皮にかなり傷が付く。それだったらどこで狩っても一緒って訳か。


「冒険者だったら他にももっと実入りのいい依頼があるだろうし、それこそ他にあるダンジョンに探索に行く方がいい」


「ダンジョンは入る為に金が必要だけどな」


 そう、冒険者がダンジョンで探索をする場合、そのダンジョンを管理する人間に金を払う必要がある。


 それだけ中で手に入るものが魅力的って事だけど、金を払ってダンジョンに挑んだ挙句、最終的にそのダンジョンで命を落とす奴も後を絶たないって言うんだから馬鹿げてるよな。


「この辺りで有名なのはかなり東に移動するけど、港街ザワリシにある海底神殿かな?」


「別名真珠神殿か。あそこは冒険者で溢れてるって聞いたが」


「そりゃこの辺りで扱われてる真珠の殆どが、あそこから産出してる位だからね。五千スタシェルなんて法外な料金を冒険者が気前良く払うくらいに」


「真珠を数個見つけりゃ余裕で回収できる額だしな。そりゃ気前良く払うさ」


 レナード子爵領にある冒険者ギルドに登録する者の大半は、その海底神殿ダンジョンを拠点としている。


 他のダンジョンもいくつかあるんだが、収支というか危険度の割に得られる財宝が良すぎるって話なんだよな。ただ、一部の冒険者は人目に付かない場所で他の冒険者を襲うって話も聞いちゃいるんだが。


 もっとも、俺が街を出る直前に聞いた話だと近年その真珠の入手率が落ちているらしく、海底神殿を拠点にする冒険者の数は減っているとか何とか。ダンジョン探索もトレンドというか、流行り廃りがあるらしい。


 ん? 誰か近付いて来たな。


「こんばんはマカリオさん。何やら楽しそうですね」


「カリナか、村長の傍にいなくてもいいのか?」


「お爺様が今日はなぜか上機嫌でして、秘蔵のワインまで持ち出して向こうで盛り上がっていますから」


「はじめまして、俺はリューク。新参者だけどよろしくな」


「はじめまして、私はカリナです。あなたが噂のリュークさんだったんですね。お爺様が色々話していましたよ」


「俺はそこまでの者じゃないんだが……」


 驚いたな、カリナはこんな寒村に居るとは思えないくらいの美少女だ。これだけ美少女になると、村長が次の村長候補の餌として使いたくなる気持ちは理解できる。


 相手側にもそうだけど、カリナにとっても迷惑な話だろうが……。


「今日の料理、リュークさんが作ったんですよね?」


「一部な。焼いて塩を振っただけの料理よりはマシだろ?」


「マシどころかすっげぇ旨かったぞ!! 山鶏(やまどり)はともかく、茶豚鼠(スロマ)の肉がこんなに旨いとは思わなかった。魚も食べるのは初めてだけどうまいんだな」


茶豚鼠(スロマ)は肉に少し匂いがあったからな。こんな肉でも香辛料を少し使えば美味しく食える。もう少し調味料があればいくらでもうまい料理が作れるんだが……」


 茶豚鼠(スロマ)は鼠だけど肉の味自体は素晴らしいんだよな。


 若干ある臭みはこの辺りに生えてる香草や香辛料で何とでもなるし……。


 ただこの辺りだけではないが、トリーニ周辺で調味料に関しては絶望的だ。これだけ自然の香辛料があるのに、トリーニに居た時にすらそんな物の存在は見かけもしなかったしな。貴族街にはあるのかもしれないけど。


 唯一の希望は港町であるクキツかザワシリ辺りに行った時、魚醤に近い物を入手できる可能性だな。あれがあれば料理の幅が格段に広がる。


「街に住んでると、そこまで知識を得られるものなのか?」


「人とか環境次第だと思うぞ。外壁沿いのスラムなんて、ここより遥かに酷い有様さ」


「その言い草はどうかと思うけど……、そんなになのか?」


「ちょっと裏通りに行けば死体がゴロゴロさ。衛兵なんて仕事もしやしねぇしな」


 衛兵も全部取り締まってたらキリが無いし、厳しく取り締まったら外壁沿いに住む人間なんて一人もいなくなりそうだ。


 最初はまじめにやってたのかもしれないが、何十年もあの状態だと真面目に取り締まるのがばかばかしくなるだろうし。


「それは酷いね」


「どこも同じさ、貴族だけがぬくぬく暮らしてやがる」


「私たちはここで暮らせてるだけ幸せですね」


「自分が生きる場所は自分たちで守らなきゃな。とりあえずこの村に必要なのは戦力だ。狩りにしろ畑の守りにしろ」


「こんな寒村じゃなかなかね……。何かいいアイデアでもあるのかい?」


「何とか俺たちとあそこの男連中だけでも戦える武器を揃えるべきだろう。この辺りを探索してもそこまで立派な物は揃わないだろうが。それと村の周りの見通しは良くした方がいい」


 とりあえず食生活をマシにして、体力を付けさせることが最優先だ。その後で槍と弓などの武器を用意する事か。鏃や槍の穂先は最悪石でもいい、とにかく武装することが最初の一歩になる。


 それと村周辺の木の伐採だな。今のままじゃ敵の接近に気が付かないだろう。それと誰も住んでない家の廃材を使って、監視用の物見櫓くらいは作ったほうがいい。


「いろいろ考えているんですね」


山鶏(やまどり)の群れに襲われて、村が壊滅とか洒落にもならないしな。それに、怖いのは獣だけじゃない」


「この辺りに野盗や山賊はいないって噂だけどね」


「この村に食糧が溢れりゃ、何処からともなく湧いてくるさ。奴ら、そういった鼻だけは利きやがるんでな」


 山鶏(やまどり)や魚を加工して保存食を作るのもいいが、野盗対策の武器を揃える事も急務だ。


 ……仕方がない、先に武器になりそうなものが無いか探すしかねえな。




読んでいただきましてありがとうございます。

楽しんでいただければ幸いです。

誤字などの報告も受け付けていますので、よろしくお願いします。

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