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第四十三話 そういう事にしておきましょうか。その件もリチャーズ様から窺っていると思いますが




 俺は今、アルバート子爵家の支配する領内にあるグレゴリ商会を訪ねていた。


 この商会もレナード子爵家の領内にあったソールズベリー商会の様に、アルバート子爵家が金策の為に運営している商会だ。


 俺が此処を訪ねている理由。それは先日送られてきたあの男どもの事もあるが、そろそろアルバート子爵家とも少しは仲良くしておこうって思ったからだな。


 リチャーズの奴とも事前に打ち合わせをしているし、リチャーズからも手紙を出して貰っている。でないと流石に俺でも、いきなりこいつと話なんてできないからな。


 実はガキの頃一度セブリアンとは顔を合わせているんだが、こいつは俺の事など覚えちゃいないだろう。


「先日の一件で用があると聞いたんだが、レナード子爵家当主からの手紙の件で間違いないか?」


「そういう事にしておきましょうか。その件もリチャーズ様から窺っていると思いますが」


「他に何かあったのかは知らんぞ。今の儂はこのグレゴリ商会の頭取にすぎんからな」


 そういうしかないだろう。送り返したチンピラどもはすでにこの世にはいないだろうし、あいつらを送り込んだのが前領主であるセブリアンではなく、今の領主のゴールトンが差し向けた刺客だった可能性もある。


 今となってはその真相を知るすべもないからな。


「では、リチャーズ様から託された件も含めていくつかよろしいですかな。まずはすでに動き出している、北西にあるグアリーニ伯爵領から引き抜いた村人に街道の整備をさせる件ですが」


「ほとんど我が領内にある街道だ。本来であれば儂がせねばならぬといいたいのだろう?」


「いえ、城塞都市トリーニ外の街道は、子爵家の中から出来る所がするという話になっているはずです。ですのでその予算をレナード子爵家が出す事に関しては問題ありませんし、後で請求などもあり得ぬ話です」


「あの街道を整備する莫大な予算を出すというのか。流石は儲けているだけはあるな」


 この件に関しては既に数ヶ月前から計画が始まり、既に一部の地域で実際に移民や工事が始まっている状況だ。


 今はまだ本格的に動き出していないので、分家の三男以下に仕事を回しているがそろそろ限界が来ているのは間違いない。


 なにせ、街道の整備が終わった後で移民はどこかの駅舎に町を作るが、レナード子爵家に所属する貴族がアルバート子爵家の領内に勝手に住み着くのは問題があるだろう。


 彼らにはある程度村の立ち上げにかからせた後、その成果に応じて役職を与えるという話にしている。


「街道の整備だけでしたらそこまででもありませんよ。問題はその後、各駅舎に出来上がる村や町の処遇ですが」


「あまり重い税金をかけるなと言いたいのだろう。手紙でも事前に知らせてきおったが、奴らが開墾した際は向こう三年税金を取らぬという話だと?」


「どうせ大した税収にはなりません。でしたら最初から取らぬといっておいた方が、彼らの心証もいいでしょう」


「切れる奴だ。リチャーズの奴はいい人材を見つけたものだな」


「その件を了承していただければ、街道の整備は問題ありません。あと一点だけ無理を聞いていただければありがたいのですが」


「……聞くだけ聞こう」


「アルバート子爵家の分家筋の三男辺りで、街道の整備の監督ができる人材をお貸しいただきたい。村や町の管理ができる人材であれば最高なのですが」


 レナード子爵家で人材が遊んでいる訳はない。他にも仕事は山のようにあるし、アルバート子爵家の領内にある街道の整備にいつまでも従事させるわけにはいかない。


 どうせ暇を持て余しているであろう、アルバート子爵家の分家辺りにやらせればいいというのが俺やリチャーズの考えだ。


 その流れであればそのままそこを領地として与えても問題ないし、その後の街道の整備も任せる事が出来る。


 要は城塞都市トリーニから遠く離れた場所まであるあの長大な街道を、ここから維持修繕するのが問題であり、現地に修復を監督する奴がいれば話は早いんだ。


「なるほど、街道の整備の監督をした後、駅舎周辺に作った村や町を領地として与えるという形か?」


「長期的に街道の整備をさせる為の飴ですな。まさか自分の領地を通過する道や交易の拠点となる駅舎を粗雑に扱いはしないでしょう」


「領地は与えるが、今後永続的に街道の整備をさせる訳か。法衣貴族の三男に領地を与えると見せかけた、かなりえげつない策だ」


「領地と言いますか、彼らは町長や村長扱いですな。名主程度の名誉と権限です。あの面倒な街道の整備の代わりであれば妥当でしょう」


「その件は了承した」


 これで街道の整備に貴重な人材を取られなくて済む。王都に続いている道だからレナード子爵家も無関係ではないし、高速馬車を走らせるには一定以上街道が整備されているのが条件だ。あまりに凹凸が酷い街道だと速度を出せず、その能力を発揮できないらしい。


 ロドウィック子爵家側の街道についてだが、向こうの領地を通る街道は王都に直接繋がっているわけでもなく、こちらがわざわざ手出しをする価値は欠片も無い。


 それに向こうの街道は元々穀倉地帯からの穀物の輸送のためにある程度整備がされており、他の二家が管理する街道よりはマシな状態だ。


 街道の件はこれでいいとして、次は俺の目的というか食生活の充実の為に協力して貰おうか。


「では次ですが。まずこちらを召し上がっていただけますか? 勿論毒など入れていません」


 取り出したのはピザ。時間経過の無いマジックバッグを手に入れてから幾つか料理の保存をするようになった。


 出来立てをそのままの状態で保管できるのはやはり大きいし、熱いものと冷たいものを一緒のマジックバッグに入れても問題が無いのはうれしい。


「お前から先に食べるべきだろう?」


「では失礼いたします。……割とよくできていると思いますが」


「よかろう、儂に何かあればただではすまぬしな……。これは旨いな!! この薄い生地と上に乗ったやや白色のこれがたまらぬ!!」


「これはピザです。薄く延ばして焼いた生地にチーズや様々な具をのせた料理ですな。上の具材を変えれば、いろんな味が楽しめますよ」


「……それで、これを食わせてなんとする?」


 普通はそう考えるよな。


 しかし、これだけ羊を飼っているアルバート子爵家でチーズの存在を知らないなんて驚いたな。


 羊乳を売ってる店はあるんだ、そこからもう一歩踏み込んでチーズくらい作れない物か?


 そういえば同じ乳製品のバターを売っているのも見た事が無かった。その辺りは俺が詳しく調べたので間違いはない筈だ。


「この上に乗っている白色の食材がチーズです。この辺りではあまり食べられていないと聞きますが」


「これがチーズか。我が家の様な貧乏子爵の家では食べることなどなかったが、王都周辺では高級食材として食べられていると聞く。チーズに関しては、一部の貴族が作り方を独占しているな。特許として登録はしていないようだが」


「羊、山羊、牛など牧場でよく見かける家畜の乳で作られていますが、チーズにはいろんな製法がありますので、特許として扱えなかったのでしょう」


「羊の乳でも作れるのか!!」


「大量生産を考えた場合に一番いいのは牛ですが、家畜の乳はチーズの外にも様々な商品に化けます。この仕様書にはバターやチーズなど、数多くの乳製品の作り方や取り扱い方法がまとめてあります。これをアルバート子爵家の特産品として売られてはと思いますが」


 この仕様書に使った和紙の枚数は相当な物でこの和紙の価値だけでも、現在の価格で数十万スタシェルはくだらない。この仕様書にはその位細かく、様々な家畜の乳で作る事が可能な乳製品の製造法や保存管理法、それに料理などが記されている。


 乳製品が流行ればトリーニでも牛乳などの入手が可能になるはず。それを期待しての先行投資だ。


 例の羊皮紙の損失補填分の名目もあるしな。


 ん? これだけの情報を提供したにしては表情が険しい。この情報を調べるにはまともにやれば数十年の歳月と莫大な人員が必要だ。それを理解できないのか?


「いくらだ?」


「と、言われますと?」


「これだけの情報だ、その仕様書とかいう分厚い和紙の束の代金だけでも相当な額になるだろう。いくらでこれを売るのかと聞いているのだが」


 ああ、そういう事か。乳製品の普及と生産拡大は俺の目的でもあるのに、そんなケチ臭い事を言わんよ。


「情報料などは頂きませんので、どうぞ存分にこの情報をお使いください」


「これだけの情報を無償で提供するというのか!!」


「この仕様書にも使われています和紙の登場で、羊皮紙などの売り上げに影響が出ていると思います。この情報は迷惑料代わりの様な物ですよ。乳製品は賞味期限の短いものも多いですが、時間停止型か時間経過の遅いマジックバッグを使えば王都などでも売り出せると思いますが」


 一応こっちも念を押した方がよさそうだな。


 向こうからの意趣返しもあったが、あれも些細な問題だ。俺じゃなく、他の商会員を狙っていた場合、ただじゃあ済ませなかったところだぜ。 


「ありがたくこの情報は有効活用させてもらおう。……リュークといったか。その年齢ながら聞きしに勝る男だな」


 中身は結構歳だと思うが、見かけというかこの世界での実年齢ははまだ十六だ。


 まだまだガキの域を超えちゃいないか。


 さて、小手調べはこの位にして本格的な商談に入るとするかな。



読んでいただきましてありがとうございます。

楽しんでいただければ幸いです。

誤字などの報告も受け付けていますので、よろしくお願いします。

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